蛇を継ぐ女
《目に見えない
雪が瞳で水となり
涙と名乗ってこぼれ落ちるな》
見上げると、
薄い白い雲に隠された月。
長い時間をかけて
小さな白い花びらが降って来る。
それは雪ではなく、
ひとりぼっちの夜の、溜め息。
あなたの蛇の目は、雄弁すぎるわ。
私の心を脅やかすわ。
満月の光を浴びて、
鏡に映る顔は、疲れはてている。
今は亡きあの蛇の残した
ほかの人には決して視えない清い蛇皮を
私は朝起きるたびに、身に纏うわ。
そして、あの蛇を殺したヤツらすべて
私の敵だから、
そいつらを、叩き潰すための闘いは、
生前のあの蛇にさえ、
手に負えないものだった。けれど、
私の誓った愛は永遠に星座になったんだ。
だから、大丈夫。今夜だけじゃなく、
いつも、いつも、
闘い続ける、漆黒の意志と、真紅の情熱、
それだけは、永遠だと知っている。
毎夜、あの蛇を想い、悔しさを噛み締める。
見上げると、
夜空に輝く星々、照り返しの海のよう。
雲も流れ過ぎて
白い円環が、もっとも清らかな吐息を
寂しげに吹きかけて来る。
だから、私は、不要な陽気さで
あの蛇にひとこと、「おやすみなさい」の挨拶。
あちらには視えない、キスの嵐と一緒に。
伝われ、この愛、
きっと、伝われ!
あれ?「あなたなの?」と呼ぶ声が
どこかから、聴こえた気がする。




