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あすなき疾風

蛇が消えた。

むかしの映像を観ながら

戻って来てくれと願う。


もう、無理かもしれない、


と、諦めかけて

だから、私は、もう祈るしかない。



ねずみを見据える眼から

チロチロ出し入れする舌のほうへ

画面は流れ 残酷の直前を映す。

檻のなかにはビニールを敷いて

流れ出る血に、備える。


白蛇は赤い眼で、 ねずみを観察し、

黒蛇は鎌首を伸ばして、とぐろを解く。


騒がしい音を立てたり、しない。



斜め上へ伸ばす舌先が牙沿いに口の中へ。


風呂場で紋白蝶の翅が蟻に運ばれている。


光苔の洞窟へいざなう海辺の町に

かすかな西日が射す、黒蛇が這う。



光は輝きを増し星となり

嘘を飲み込み 毒を飲み込み

地を這う港町の物語の真実を

照らしてくれる月、白蛇の牙が光る。



部屋に残された空気に笑い声の欠片があり、

流れつづける川に夢のカクテルのあぶくがある。

すり抜けた青ガラスのコップが廊下に落ちたとき

落とされたガラスコップの傷が緩やかに割れて



染み渡っていく、

コップの水を

白と黒の蛇2匹は、

絡み合いながら、

眺めつづけている。

瞬きは停止し、

白と黒の蛇の似た者同士のなれ合いと、

わかっているはずのお互いへの不可解な怖れが、

ようやく、あきらかになり、


風に吹かれる。





白黒写真のなかに封じ込められた蛇は、

ピンク色の、不似合いな夢を見ているだろうか?


どこへ、消えた、蛇よ?


森の海に迷い込んだ私は蛇を探して

黒髪振り乱して道無き道を駆ける。


愛の園に置き去りにされた私は蛇を追って

波のまにまに視える海ヘビを探しては、

むかしの蛇の写真と見比べている。





ただ、それだけのはなしだ、

あてどなき。


あてなどないはなしさ。



歌を拾った。

心に、落ちていた。




傷ついた

こころが流す血 ぬぐえても

なぐさめられない あすなき疾風


慰められない 明日なきしっぷう






















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