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あすなろの木へ、蛇の人に逢うために
2月の夜、
私は故郷の町をひとり歩いている。
出会う人も少なく、
故郷だというのに知った顔を見ることもない。
ただ、顔を刺す突風が私の歩みを止め、
向かう、懐かしい、あすなろの木の下に
着物を着た冷たい蛇の顔の人の影を見る。
立ち止まったままで、
ずっと、その蛇の顔の人の影を見続ける。
暗い灰色の空から降り来る、
謝るような繊細な、
そっと聴こえる雪の息づかい、
故郷の町に吸い込まれ、
ただただ無音で、小雪が降り来る。
まるで、止まった時の世界を
小雪だけが舞い降り、堕ちて、いるように。
私はその時、あすなろの木の下にいる
あなたのまぼろしを立ち止まって見ている。
早くあなたの顔を見たいけれども、
近づけばあなたが、そのまま、
消えていなくなってしまいそうで。
前にもすすめず、あとにも引けず、
動くことを怖れるかのように、
じっとこの場に、立ち尽くしているのだ。




