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異世界食材で親子丼!②


 北方都市、ルクシア。

 かつて新たな王都先として遷都するという計画が為されたほどの大都市である。

 人口はおおよそ二十万人。そもそも、この世界には人が少ないということもあるのだが、この数は相当規模なのだとか。


「らっしゃいらっしゃい、安くするぜ?」


「先ほど水揚げされて締めたばかりの魚介類ばかりです。皆さま、見て行きませんかー」


 町に入ると、数々の店が俺たちを出迎えてくれた。

 大荷物の俺たちはなるべく道路脇か裏通りを通ろうとしたのだが、ルーナ曰く「家を持ち歩く人もいるから大丈夫です!」とのことで堂々と大通りを通ることになってしまった。

 ふと見てみると、なるほど。ルクシアの都市関門ではルーナと同じ獣耳、尻尾を持つ種族――獣人族(エクセンビースト)が大荷物を持ち運んでいる様子が散見される。

 この種族ってのは本当に無茶苦茶な馬鹿力なんだな……。


「ここが、タツヤ様の戦場だいどころとなる場所です。どうでしょう、せっかくなので荷物でも預けてルクシアの市場散策でもしてみましょうか?」


「ん? この大荷物預けられるのか?」


「えぇ。勿論です。少々の路銀を払わなければならないのが難点ですけどね。タツヤ様は、この地域で使用される路銀はお持ちですか?」


 ……確か、この世界の貨幣単位はリルって言ってたっけな。

 俺はポケットの中をじゃらじゃらと鳴らした。そういえば、ポケットの中にはお金が入っていたはずだ。


「……五百円玉と、百円玉三枚……あとは、ギザ十と一円玉が四枚……使えねー……」


 お釣りにギザ十が入ってたということで微妙に喜んでポケットに突っ込んでいたわけだが、この世界では特に使えるものではない。


「た、タツヤ様……! その、これを……どうぞ!」


「ん? なんだ、これ」


 それは歪な銀の塊だった。日本円のように綺麗な円を描いている物ではないが、それぞれ同じ形をした歪な円型上の銀色の金属のようなものが俺の手の上に五枚ほど渡された。


「この世界の通貨です……! そ、その……これ一枚が百リルなんですよ。五百リルがあればこの市場をそれなりに散策できると思います」


「お、そうなのか。そりゃありがたい」


「私は業者の方に荷物を預けてきますので、後で合流しますね! では!」


 そう笑顔でスキップ混じりに人ごみを縫って歩くルーラ。その軽やかな足取りは冷蔵庫やキッチンを丸ごと運んでいても出来るものなのか……。

 それにしても――。

 俺は、手渡された銀色の金属円を眺め見た。


「日本の鋳造技術には程遠いが……日本円と概念自体は似てるな」


 通貨体系的にも、ふと見回してみると小さな野菜が七十リルだったり、日本の価格価値に似たものを感じる。


「ま、異世界の食材を堪能してみるとしますかね」


 いくら通貨体系が同じだといっても、食事体系までも同じだとは限らないからな。

 俺は広い市場の中でもひときわ目立つ場所にあり、人を寄せ付けていた店の前に立ってみる。

 行列になっているこれは、何とも有名ラーメン店に並ぶ客のような感じになってくる。


「お次でお待ちのお客様、どうぞー」


 軽やかな声をかけてくれた店員の指示に従って、俺は店の中に入る。

 店内は至って静かなもので、カウンター席、テーブル席、そして何か香ばしい匂いが全身を包んでくれた。

 店の壁にはメニューが貼られているのだろうか。言語は口頭でなら通じるが読むことは出来ない。

 日本語とも、英語とも程遠い見たことのないような文字だ。


 天井は暖色。だがどこを見ても照明器具などはない。

 店員に促されるままに、厨房前のカウンター席に案内される。木造りのコップが差し出されるが、その中には何も入っていなかった。

 ふと不思議に思ってみるも、自動的にコップの上には蒼い炎が宿り、そこから水がコップの八分目まで注がれた。


「ご注文はどう致しますか?」


 これまた木造のお盆を持った少女が、俺に向かって呟いた。


「えーと……っと言われても、文字が読めないんだよな……。この店の一番のおすすめを頼めるかな? あ、あと……五百リル……? しかないんだけど、大丈夫かな?」


「えぇ。五百リルあればお昼を召し上がるには充分な額だと思います。分かりました、五百リル以内でのこのお店でのおすすめ、ということですね?」


「あー、うん。じゃそれでお願いするよ」


「承りました!」


 にこりと微笑んで厨房に行った少女。何とかなるもんなんだなーなんてことを頭の中で考えながら、コップの中に注ぎ込まれた水をぐびりと喉に通した。

 なるほど、しっかり冷えた水だ。喉越しもいい。

 しばらくして、「お待たせしました」と声がかかり、俺が前を開けるとテーブルの上に置かれたのは一つの料理だった。


「アリゾール龍の尻尾グラットセットです。ゆっくり、お召し上がりくださいね!」


 ふと見てみると、それはどこにでもあるさいころステーキのようなものだった。

 アリゾール龍の尻尾……。やはり、この世界には龍という動物も存在するのか。

 見た感じ、肉を炙った物に何らかのソースがかかっているといった雰囲気だ。


 ……ちゃんと中まで火は通ってるんだよな?


 皿の横に置かれていた串を使って俺はアリゾール龍と言われるさいころステーキ状の肉をぷすりと刺して持ち上げる。


「……いざ……実食」


 目を瞑って、俺は一気に龍の肉に食らいついたのだった――。


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