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時空龍グラントヘルム⑥

 その加護のおかげでウェイブの突き進む道にグラントヘルムの魔法攻撃は一切通っていない。


「――やぁっ!」


 ルーナの声と共に、ウェイブの走る速度が突如加速した。


「る、ルーナ……!?」


 荷台の縁にがっちりと捕まっていないと吹き飛ばされてしまいそうなほどの振動に困惑するしか無い中で、ルーナは立ち上がった。


「タツヤ様。もう一度確認させてください」


 凜として荷台中央に立つ彼女の瞳は、先ほどまでのような悲しみの表情は一切無い。

 決意を胸に秘めた、アマリアさんのような戦士のそれだ。


「グラントヘルムを食い止めるには、タツヤ様があの胸の中央に突っ込むしかない、のですか?」


 ぐっと、グラントヘルムを見据えるルーナ。

 俺は次々と法撃を繰り返す龍を見て、頷いた。


「第一大隊長が言うには、あそこの時龍核に突っ込んでいくらしい。そこからは、神のみぞ知るってとこだろうな。それでも行くしかないみたいだ。もっかいこっち戻ってくるにはな」


 言うと同時に、ひやり、額に冷や汗が滲む。


 あんな化け物にこれから近付いてくんだよな……。


 今はなんとかアマリアさん達が時空龍の攻撃を一手に引き受けている物の、それも長くは続かないだろう。

 はやくも疲弊しきった者もいるし、流れ弾で街の防御障壁にも亀裂が走る。

 グラントヘルムの胸に輝く時空龍までは目測、地上6mだ。

 例えば、ここからルーナにぶん投げてもらったとしても、奴に近付く前に気付かれて法撃、もしくは物理攻撃を受けて玉砕するのは目に見えている。


「――タツヤ様ともう一度旅が出来るというならば、私だって……!」


 俺の心配を察しているかのようにルーナは「ふぅっ」と小さく深呼吸をした。

 揺れに揺れる荷台の上で仁王立ちをしているルーナの体幹には恐れ入るものがある。


 ルーナは懐にしまった干し肉を口に咥えた。

 それは、肉体部位増幅魔法の反動を下げるため――燃費を自己補給するための非常食だ。

 そして更に、こいつがこれを使うときは必ず、部位増幅魔法を2回(・・)使用する。


「おい……ちょっと待て、ルーナ」


「任せてください! 私がタツヤ様を、あの虹色の核まで正確に投げ入れてみせますよ!」


 尻尾をふりふりと嬉しそうに振るルーナ。


「そ、そうじゃねぇだろ!?」


「も、もしかしてタツヤ様ここに来て私の能力を疑ってるんですか!? 今更躊躇しても遅いです!」


 鼻息荒く俺を持ち上げるルーナ!

 この華奢な身体付きから相変わらずの剛力だ……!?

 流石冷蔵庫を軽々しく持ち上げて半日以上も歩いているだけはある。


 だが、根本的に違うことがある。


「落ち着け、ルーナ! その手はずはアマリアさんがもう少し進んできてからのはずだ。第三大隊の防御術式を展開させながらじゃないと、突貫中に俺もお前も犬死にするだけだ!」


 この作戦は、アマリアさん達の加勢が不可欠のものだ。

 アマリアさん達第三大隊が攻撃を一手に引き受けている間に、俺とルーナ、ウェイブの別働隊がグラントヘルムに気付かれない程度に近寄る。そこから第三大隊の防御術式を俺たちの方面に展開すると同時に、ルーナが俺を時龍核内部に投げ込む――そういう手はずだったからだ。

 

 だが、思いの外アマリアさん達の方向に魔法攻撃は集中し、そこを防ぐので手一杯。

 こちらに術式を展開できるほどの余力があるとはとても思えなかった。

 だからこそ――。


「おい、何考えてる……? なぁ、おい……!」


 俺を担ぎ上げたルーナはにっこり、笑みを浮かべた。


「タツヤ様は、言ってくださったんですよ。必ず帰ってくると。タツヤ様だけに命を賭けていただく訳には、いきません。それに私は獣人族ですよ! 身体も頑丈に作られています!」


 フッ。


 獣人族特有の剛力によって、ふわりと俺の身体が宙に投げ出された。

 時空龍グラントヘルム――その虹色に輝く時龍核に向かって一直線に飛翔していく俺を視認する影。


「……グンッ……!?」


 瞬間、一時的にアマリアさん達とエイルズウェルトに向けた法撃が止んだ。

 代わりにグラントヘルムの視線を一点に注がれた俺は、その重圧に身体全身から鳥肌と脂汗が吹き出すのを感じていた。


「――ゴァッ……!!」


 まるで自分に近付いてきた小さな害虫を軽く始末するかのような、そんな最小限の仕草でグラントヘルムは鋭く尖った右前足の爪を俺に向ける。


 ――と。


「――やらせは、しませんッ!」


 「ボキッ!!」と、俺に向かってくる時空龍の爪を蹴りで粉砕する獣人族の少女が眼前にあった。

 ウェイブの荷台から部位増幅魔法を駆使してここまで跳び、俺を排除せんとする爪攻撃を粉砕したルーナは、時龍核に向かって一直線に飛ぶ俺を見てにこり、笑みを浮かべた。


 ぐぅぅぅぅぅう……。


 燃料切れを示す腹の音に、ルーナは「たはは……」と、空中で体勢を崩しながら苦笑した。

 


「ゴァァァァァァァァッ!!!!」


 グラントヘルムの矛先は、一瞬で俺からルーナへと。


 時間の猶予も無いままにルーナに向かって放たれる炎の球。


 ルーナは、それを避けることは出来ない。

 避ける力すら、残されていない。


 それでもルーナは、笑顔を絶やすことは無かった。


「――ご武運を、タツヤ様」


 瞬間、ルーナの身体はグラントヘルムから放たれた炎の球に包み込まれた。


「る、ルーナァァァァァァァァッ!!!」


 俺の叫び声は虚しく空に響き、俺の身体はグラントヘルムの時龍核内部に放り投げられた――。

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