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時空龍グラントヘルム⑤

長らくお待たせしてすみませんでした!

「……ところで」


「どうしました、タツヤ様?」


「ンヴァ~ァァァァァッ!!」


「……いや、やっぱなんでもねぇわ……」


 中央都市エイルズウェルト全域に仕込まれた防御魔法術式を超えて、俺たちは街の外へと隊列を組んで進んでいた。

 先陣を切るアマリアさん、そして彼女直属の第三大隊、中列には、俺たちとアマリアさんを中心に組まれていて、後列に再び第三大隊の隊列が並んでいた。

 そんな中で俺たちはというと、闘龍――バトルドレイクに騎乗してはおらず、ウェイブは旅の際にいつも引いている荷台の上に俺とルーナを乗せて時空龍に向けて走りを続けていた。

 バトルドレイクの時速は、アマリアさん曰くおおよそ時速70km。まるで車に乗っているかのような速さで進むバトルドレイクに一切遅れることもなくついていくウェイブも流石と言ったところだろうか。


 あの後、ウェイブが突然俺たちを連れて行くかのような反応を示して、ルーナがそれを了承。ついでにバトルドレイクが俺の騎乗を極端に嫌がったためにこの方法しか取れなかったのもある。


「普段河の上流に登ってくるはずのない中級水龍ヴァルラング然り、闘龍バトルドレイク然り、何か感じ取っているのかもしれませんね」


 俺たちの座る荷台の横で闘龍に乗ったアマリアさんが言葉を紡いだ。


「この国に置いて、時空龍は全ての龍における頂点に君臨する存在――いわば、この世界の龍全てに影響を及ぼしてしまうほどの力を持っています。ですから、タツヤ殿のように時空龍に関連する(・・・・・・・・)人物を本能的に避け、排除しようとする傾向があるのかもしれません」


 な、なんてこった……。

 確かに、ウェイブに嫌われていたり、突如俺たちに襲いかかってきたかのようなヴァルラングもそうだが……時空龍が関わっている……のか?

 ちらり、先を猛スピードで走って行くウェイブを一瞥する。


「……ヴァッフ」


 まるで威嚇されるかのような瞳で俺を見返してくる。


「時空龍の影響でここまで辛酸舐めさせられたっつーことか……。尚更あの化け物龍をこのままにしておくわけにはいかねーな」


 ふと、頬に小さな冷や汗が流れた瞬間だった。


 黒い時空が塞がりその全貌を現した時空龍グラントヘルム。

 その巨大な頭部の先には、黄金に光り輝く一対のねじれた角。どこか虚空を見つめているような不気味な瞳はエイルズウェルトを捉えている。ドデカい頭部を支える太い四肢に、

黒光りする体躯。どこかゴツゴツしたそれを強調させるかのように胸の中心にある虹色の輝き――時龍核。

 片翼は根元から抉れていても、それを感じさせないほどの圧倒的な「個」の存在感。体長にしておおよそ10メートルを大きく超える個体から繰り出される1歩1歩が、まるで地震を思い起こさせるかのようだった。


○○○


 ――遡ること、数十分前。


「……た、タツヤ殿が……グラントヘルムに突っ込む……ですか!?」


 ルーナがウェイブに荷台をつける間に、宮廷の庭でアマリアさんに言う。


「かつて異世界転移者がグラントヘルムを倒したなら、同じ異世界転移者が立ち向かわないとまた、エイルズウェルトが崩壊するかもしれないじゃないですか」


「で、ですが! この1000年、都市も、人も、グラントヘルム対策に勤しんできました……。何もタツヤ殿がそこまでしなくても――」


 アマリアさんは、王都周辺に張り巡らされた防御魔法術式を次々と指差してアピールする。


「俺が原因で、ここの人たちが犠牲になるのも嫌なんです。俺が出来ることがあれば――少しでも役に立てるなら、使って欲しいんですよ」


 小さく、ぽつり、呟く。

 アマリアさんは不安げな表情で、語りかけてきた。


「こう言ってはなんなんですけど、かつての異世界転移者は……消失したと言われています。かつての世界に戻っていったのか、どこかの世界に飛んでしまったのか、はたまた、死亡したのか。それは誰も分からないんです……」


 アマリアさんの言葉を受けて、俺はルーナを見た。

 尻尾と耳をふりふりとさせて不安を払拭させるかのように振る舞うルーナの姿が、そこにはあった。

 そんなルーナの様子を見て、自然と笑顔が浮かんできていた。


「大丈夫ですよ。俺は――」


○○○


「タツヤ殿、作戦があります」


 俺が、あまりの現実離れした「個」の存在感に圧倒されている中でアマリアさんは自身のバトルドレイクを中列の俺たちの所まで下がらせた。


「作戦?」


 そう問うと、アマリアさんはエイルズウェルトに向かって前進し始めるグラントヘルムを一瞥した。


「――かつて異世界転移者(・・・・・・)と共に奴を撃退した、第一大隊長のお言葉です」


 第一大隊長……。グスタフ・グスマンでなく、アマリアさんが知っている第一大隊長だろう。


「『呑まれるな』だそうです。唯一撃退する方法が、時龍核に突っ込んでいくこと……今のところ、それだけです。タツヤ殿には……厳しい役目を背負わせてしまい、面目ありません」


 悔しそうに歯噛みするのはアマリアさん。


「構いませんよ。俺がこの世界に来たからこそ、起こったことと言っても過言ではありませんからね」


 俺は、この世界に突然転移させられてきた。

 それも、自宅のキッチンと共に。

 いわば、この世界にとって俺は異物(・・)のようなものだ。

 それに呼応するかのように現れた古龍――グラントヘルムは、かつてと同じようにエイルズウェルトに侵攻を開始し始めている。


 時空流が続けざまに吐く炎のブレスを都市一帯と化して防御しているが、ほんの一部障壁に欠損が生じているほどに満身創痍だ。


「タツヤ殿に全てを託してしまうにあたり、私たちも命を賭けます。タツヤ殿が時空龍の元へと向かう間、なんとしてもお二方をお守り致します!」


 アマリアさんの力強い言葉に、俺は頷いた。

 まるでふてくされたかのように今でも黙りこくっているルーナは、尻尾をふりふりとしている。いい感情のものではないだろう。


「……じゃ、行ってきます」


 俺とルーナを乗せたウェイブは、ルーナの指示通りに大隊列を外れ、右に逸れた。


「ご武運を!」


 バトルドレイクの上から敬礼を交わしたアマリアさんは、感極まった表情で隊列に語りかける。


「タツヤ殿がグラントヘルムへと近付く間、なんとしてでも奴の気をそらし続けます! タツヤ殿周辺への防御術式、時空龍への攻撃術式同時展開してください!」


 アマリアさんの号令で次々とグラントヘルムに真正面から飛び込んでいく大隊。


 ルーナは、ウェイブの手綱を操りながらなおもムスッとした表情を崩さなかった。


「おーい、ルーナさーん」


「……」


 返答はない。


 もふもふの耳がしおれている。


 荷台がごとごとと揺れる音だけが、2人の間に漂った。


 苦笑いを浮かべて、俺はグラントヘルムの方を見つめる。


「最初は、見たことも無くて、なんでキッチンが使えんのか分からないような世界に飛ばされてきた。状況が分からなさすぎて、ラーメン食ってた時にお前が現れたんだったっけな」


 あれから数ヶ月も経った。それなのに、まるであの時の事が昨日のように脳裏によみがえってきた。


「あの時、チルド麺を死ぬほど美味そうに食ってたお前を見たときは、なんかほっこりしたんだよ。お前の変な強化技と燃費の悪さには流石に引いたけどな。でも、照り焼きアリゾールの時はそれに助けられたし、獣人族に連れてかれた時も、頼もしいなって思ったんだ」


 ルーナは尻尾を嬉しそうに振った。


「北方都市に行ったときも、グレインさん達を説得するために親子丼作って、ヴァルラング討伐の時も、唐揚げ作ったときも。ルーナの力がなければ、俺はどっかで死んでたと思う」


 俺は眼前に迫るグラントヘルムを一瞥し直して、ルーナの方へと向いた。


「前に時空龍に突っ込んでった奴はどうしたかは知らないけどな。俺は――」


 すぅっと息を吸った。


 決めたことだ。もう後ろは振り返らない。

 もしかするとこの選択が、俺にとって不幸をもたらすかもしれない。

 だけども、それでも――。


「時空龍を倒して、必ずここに戻ってくる。そしてこれからもずっとルーナと、ウェイブと。3人で世界中を旅する。それを邪魔するような奴は、やっぱり放っておけないんだよ」


 そう言い切った時、ルーナの頬に一滴の涙がこぼれおちた。

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