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獣人族の宴!⑨

 …………俺、死ぬんじゃね?


 とてつもないフラグだった。

 死亡フラグと言っても過言ではない。

 あくまで(・・・・)噂だが(・・・)、千年前に現れた俺と同じような異界人は命を賭してグラントヘルムに挑んで、死んだ……。

 それが本当ならば、千年前の異界人は正義のヒーローだ。

 もしもそれが本当ならば、再び千年後に現れた異界人()がそうなったとしても不思議ではない……よな?


 ……グラントヘルム食べたいなー……ってレベルじゃねぇじゃん!


 どうするの、俺! 大丈夫なの、俺!?


 ごくりと、生唾を飲み込んだ俺。


「らぁぁぁつぅぅやぁぁさまぁ~ッ!」


 ――と、そこに千鳥足で現れたのはルーナだ。

 右手には何やら……ワインのようなぶどう色の飲み物、そして左手には干し肉を団子で包んだハンバーガーが握られている。

 その表情は、頬辺りが紅に染められていて瞳はとろんとしている。


 酔っ払ってる。これ、完全に酔っ払ってるぞおい……!


「わたしは~いっしょお……ダツヤさまについていくのですぅぅ……」


 ぐでんと、尻尾を左腕に絡ませてくるルーナ!


「おおっと、ルーナあんたそんなこと言えるほど大人になったのかい? ねぇ、タツヤ」


 ふと左を見てみると、こちらもこちらで完全に出来上がっちゃっているネルトさんが頬を赤く染めてすらりとした尻尾を俺の右腕に絡ませてくる。


「あぁ~? ねぇさま、ずるいのですよぉ? タツヤ様とずっと過ごしてるのは、私なんですからぁ」


 むふんと、鼻息荒く宣言するルーナに、ネルトさんは「へぇ、面白いじゃん」と左腕でルーナを指さした。


「じゃあ、こういうのはどうだい? より多く酒を飲んだ方が勝ちだっ。そいつがタツヤをものにするってのは」


「ふふん……大人になった私は、ねーさまには負けないのですよぉ……!?」


「お前ら何勝手に進めてんだよ!? どっちみち、エイルズウェルトに行くから――」


「タツヤはお黙り!」「タツヤ様は黙っててくらさい!」


「……えぇ……」


 理不尽極まりない。


「ンヴァ~ッ!」


 ……しかもなんかウェイブにまで叱られた?


 あれ? ……あれぇ?


 それを見ても、族長はただただ笑っているだけだ。

 族長は、笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。


獣人族われわれにとって、地酒を飲むという行為は大人になるという行為に等しいのです。いわば、大人になる階段に地酒が使われる……と。そして大人になれば次にせねばならぬことがあるのですよ」


「次にしなくちゃならないこと……?」


「それは、両隣を見て頂ければ分かるかと」


 にっこりと……そして族長の隣にいたネインさん、クセルさんも両愛娘を優しい目で見守っている。


「妹に負けるとあっちゃ、姉としての威厳が失われるのよ」


 たぱぱー。


「タツヤ様だけは、姉様に渡すわけにはいかないのです……ッ!」


 だぱぱぱー。


 もはや酒の入った樽ごと煽り始めた二人を取り巻く集落の人々は、「いけー!」だの、「負けるなー!」だのと声を投げかけるばかりだ。

 ネルトさんもルーナも、一歩も引く様子はない。

 獣人族のノリ、日本のどこかでも見たことあるぞ……。


「……まぁ、いっか……」


 何か言おうとしたが――そんなものは、二人の表情と周りの人たちを見ている内に消え去っていった。

 ネルトさんやルーナを中心に、集落の人々は皆笑顔になっている。

 ルーナは、ちゃんと集落全員に愛されているのだから。

 それだけで、充分だ。


「タツヤ様」


 そんな二人を見守っている最中に、俺の目の前に正座をしたのはクセルさんとネインさんだ。

 その表情は、先ほどとは打って変わって、真面目なものだった。

 というのに、親の前で平然と酒をがぶ飲みしている娘二人もどうかとは思うが……。

 俺は、絡みついていた二つの尻尾を引き離して、カップに入ったジュースを飲み干した。


「次にこの集落を次ぐのはこの私、クセル・エクセン・ロン・ハルトとなっております」


「……はぁ」


 肯定にも、否定にも取れない俺の反応に補足するように族長は言う。


「クセルはワシの実子でしてな……。ロン族も、ワシが死んだ後は継いで貰うことになっておりまする」


 なるほど、世襲制か。

 となると、ルーナも族長の直接的な孫にあたるってわけか。

 言ってくれれば良かったのに。

 

 そう思いつつ、従者の獣耳美人さんが新たなジュースを注いでくれている間に、クセルサンは再び話を切り出した。


「私たちには、二人の愛娘がおります。こんなことを言うのは勝手極まりないことではありますが、タツヤ様にならばルーナを安心して任せられるのです」


「……はぁ」


「お子は男の子でも女子でも構いません。元気な赤ん坊を見せに戻ってきてくだされば、私たちにとってはそれが一番なのです。な、ネイン!」


「そうですね……。ルーナから生まれてくる子ならば、男の子でも女子でも――」


「ちょっと待ってください!? 勝手にめっちゃ話進んでませんかね!?」


 何でいきなりこんな話になってるんだろうね!? 

 俺、多分ルーナに手出しとか、そんなことは無いと思うんだ!


「らぁぁつぅぅやぁぁさまもぉ、いっしょに、のぉみましょーよ……ぉっ!」


 ……だって、こんな簡単にベロベロに酔って寄りかかってくるような奴だぞ!?


「ちょ、おま、待って、っていだだだだだ!? ウェイブ!? 何で俺に噛みついた!?」


「ングゥゥゥゥ……!!」


 ルーナに寄りかかられた上に、それが不服なのか俺に容赦なく噛みついてくるウェイブ!

 いくら生まれたての赤ん坊の歯だからって、痛いものは痛いんですけどね!?


 そんな俺たちを見て笑う獣人族の皆さんは、あまりにも自由すぎた――。


 その翌日は、ルーナが二日酔いで一日を棒に振ってしまったために、俺たちが大円森林ヴァステラを出立するのは獣人族の宴から二日が経ったときだった。

次回から新章始まります。

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