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異世界食材で親子丼!④

「それでもやはり、一生に一度は特上の龍肉を食べてみたいものです」


 平らげた皿を店員に戻しつつ、ルーナは再び呟いた。

 俺はこの世界にも龍の格差なんてものがあるんだなぁと思いつつ、ルーナのもふもふ頭を撫でまわした。

 柔らかな猫耳は、触れば触る程にふわふわとした弾力をもたらしてくれる。さっきのアリゾテール龍なんかよりもよっぽどふわふわしている。

 それはそうと、俺はアリゾテール龍の尻尾を美味そうに食す客たちを眺める。


「……なぁ、ルーナ」


「何でしょうか」


 口についた脂を取るべく、ルーナは冷水を口に含んだ。


「特上の龍ってのは、そんなに美味いのか?」


「……私には分かりかねます」


 ルーナは落ち着いた声音コップを置いた。

 「ですが――」と表情をにんまりとだらしなく崩してルーナは呟いた。


「特上の龍とはすなわち、最上級龍グラントヘルムと言われる古龍です。その龍は世を三千年と悠然に生きる龍の王。グラントヘルムは龍王とも、古龍神とも呼ばれています」


「大層な名前が付けられてるんだな……」


「それだけではありません。どこかの地においては、古龍神グラントヘルムを絶対神とした宗教も存在したりするそうです。現世に置いてその宗教が残っているかいないかは定かではありませんが、比較的小さな宗教母体だと思われます。そんな古龍神グラントヘルムには生きる伝説以外にも、『食』における伝説が言い伝わっているんです」


 ルーナは、ひょこりと膝の上に手を置いて、すうっと息を吸った。


「『古龍神グラントヘルムを食した者は永遠の命を。現世の物とはかけ離れたその美味なる食感、味、香りに抗う術はなし。それは例え国間であっても変わることはない。

 一口食べれば戦は終わる。

 二口食べれば和平が結べる。

 三口食べれば永久平和が訪れる』

 ――と、吟遊詩人に謳われるほどには美味しかったそうです」


「なんだか嘘くさい話だなぁ……」


「ですが、グラントヘルムの片翼を調理し、食したことで300年続いた戦争が止まったという伝承があるくらいなんです」


 ぽつり、ぽつりと呟いたルーナの言葉に、俺は苦笑いを禁じえなかった。

 だがまぁ、食は全世界共通だ。飯が美味けりゃみんなが仲良くなる。それは何一つ間違っちゃぁいない。

 それにしても、この世の物とは思えない味……か。

 ふと周りを見てみても、アリゾテールの比較的美味くない肉を喰らってもここまで笑顔になっているのだ。

 俺からしたら、そのグラントヘルムの肉とやらもそんなに大層なものでもないのかもしれない――のだが。


「……古龍神、グラントヘルム……か」


 正直、食ってみたい。

 どんな味なのか、どんな匂いがするのか……。もしかしたら、俺がこの地にやって来たのも案外それを食べるためだった……と考えるのはポジティブシンキングすぎるだろうか。

 だが、悪くはない。


「どうしました? タツヤ様……」


 怪訝そうな表情で俺を覗き込むようにしてルーナは笑顔を作った。


「なぁ、ルーナ」


「……はい?」


「グラントヘルムを、俺は食ってみたい」


 その一言に、ルーナの顎はカクンと下に落ちていた。


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