▼ はじまり
某有名会社から発売されたファンタジーゲーム『ファイナルクエストⅢ』
今から20年以上も前に発売された『ファイナルクエストⅠ』に惹かれた俺は、続編が出る度にゲームが発売される日の前日からショップの前で待つことも苦と思わないほどの大ファンである。
『ファンタジークエスト』シリーズは今ではⅫまで存在する。
そしてネットという存在が近しい物となった現代。
とあるサイトにて、ゲーム実況というものが流行りつつあった。
何を隠そう、俺もその実況者の一人である。
今は投稿するための録画の最中、所謂撮り溜めの真っ只中であった。
『▼よく ぞ ここまで 辿り 着いた 勇者 たち よ
さぁ 始めよう 最後 の 戦い を』
「戦い? 今から始まるのは、戦いなんてものじゃないぜ」
画面に表示された文章に思わず笑ってしまう。
「さぁ、始めよう。最後の戦いを」
蒼き鎧を纏いし勇者とその仲間が長きに渡る旅の果てに遂に辿り着いた魔王城。
数多の強敵を倒してきた勇者たちは、暗黒時代の元凶である魔王の元に辿り着いた。
玉座に座る神々しくも禍々しい姿をした魔王はなんと第三形態まである恐ろしいやつである。
しかし、プラチナスライムを9999匹通り越してカウントストップさせる勢いで倒しレベルをあげた勇者達に叶うはずもなく、魔法も使われず、ただひたすらと勇者と仲間たちの三人に物理で殴られ、撃沈。
めでたくエンディングを迎えることになったのだが、最後である筈の『END』の文字は現れず、突如として画面にノイズが走る。
画面のノイズが激しくなり、それは唐突に収まる。
「おいおい、冗談だろ……」
そしてプツリという音ともに、俺は意識を失ったのであった。
気が付くと、俺が居たのは自分の部屋ではなかった。
先程まで握っていたはずのコントローラーは何処にもなく、目の前に広がる景色にただ唖然とする他なかった。
目前に広がるのは、陳腐な言葉しか知らない俺には豪華としか形容できない景色。
上を向けばシャンデリア。下を見れば敷かれている絨毯の質に驚かされ、意識していなかった足元の感触に驚く。足が沈んでしまうのではないかという錯覚に襲われる程に柔らかな絨毯。
テレビで偶に映っていたどこぞの国の王室などで見かけたそれよりも遥かに高価であるのは素人目に見ても瞭然だった。
壁に掛かった絵画も、飾られているその他の物の一つ一つが、考えられない程の価値を有しているのだろう。
しかし、それらはほんの一部であり、部屋の奥の方ではそれらの一級品の数々が、無残にも暴虐なる力で破壊の限りを尽くされている。
果たして、こんな訳の分からない部屋に俺がいるのは何故だろうか?
俺の欲望が具現化した夢の中か? いや、待て。俺はそこまで金に貪欲ではないはずだし、仮に俺の欲が具現化されたとしよう。金銭的欲求に加えて、破壊願望さえあるとは自分が自分で怖くてたまらない。
俺は、好きなゲームをして、ネットの友人や現実の数少ない知人と普通に笑い、裕福まではいかなくとも、それなりの生活が出来ればいいと思っているし、それ以上を求める為のスペックが足りていないという事も誰に言われることもせずにも自覚している。
「気が付いたのね、勇者!」
「勇者、さぁ、奴に止めを刺してくれ」
不意に後ろから声を掛けられる。
振り向くと、其処には女賢者と聖女騎士が縋るような表情で立っているではないか。
二人とも、とてつもない美人だ。
キャラメイクに二時間費やした記憶が蘇る。
グッジョブ、俺。と心の中でサムズアップ。