少し悪戯好きな雪神様の話
たくさんの神様が住んでいる世界の北の方にある寒い寒い雪の島。
一年中、水は凍っていて、陸地には雪が常に降っています。
この島の奥にある社は特に雪がひどく、その場所には“雪神様”と呼ばれる神様が住んでいます。
「ほらほらー! 雪よもっとふれー!」
雪神様は雪の色にそっくりな白銀の髪の女の子です。
雪神様の仕事は世界中に雪を届けることなので今日も一生懸命に雪雲を世界中に送り出します。
雪神様が出した雪雲は寒い場所に雪を降らせたあと、暖かいところに行くとなくなってしまうので、雪が降るのは寒い場所だけ。なので、彼女は世界で一番寒いその島に住んでいるのです。
彼女が出した雪は神様たちの世界だけではなく、下界と呼ばれる人間たちの世界にもたくさんの雪を届けます。
神様たちの世界は人間たちの世界から見て高いところにあるので寒い場所はもちろん、高い山の上にもたくさんの雪が降ります。
「はぁ今日の仕事はこれでおしまい」
ようやく今日の仕事を終えた雪神様はおおきく伸びをして、体を伸ばし、社の入り口の方へと向かいます。
神様の世界といっても人間も住んでいて、その人間たちが毎日社までお供え物を届けるのでそれを取りに行くのです。
今日はどんなものが届けられているのかとワクワクしながら社の入り口に行くと、そこに一人の男の子がいました。
雪神様はこっそりと柱の陰に隠れます。
男の子は供え物と思われる団子を置くと、そのままお願いごともせずに立ち去っていきます。
ただたんにお供え物を届けに来ただけなのだろうか? と雪神様は首を傾げました。それにしても量が少ないし、今日のお供え物はすでにたくさん用意されています。
雪神様は男の子のことが気になって、こっそりとついていくことにしました。
「どこへ行くんだろう?」
男の子は、まさか雪神様がついてきているなど思いもしないのか、後ろを振り向くことなく足早に町の方へ向かいます。
男の子が歩いているのを見ながら雪神様はさらにつぶやきます。
「……ただ歩いているだけ? なんかつまらない」
少しだけ悪戯好きな雪神様は勝手に男の子を追いかけ始めたのに勝手につまらない気分になっていました。
そんなことなど知らない男の子は社から町までの間にある森をただ一人で歩き続けます。
「こうなったらちょっと悪戯しちゃえ!」
ついに我慢できなくなった雪神様は男の子に悪戯をすることに決めました。この時、雪神様が社を出てからたったの十分しかたっていないのですが、それでも十分我慢の限界だったのです。
どんな悪戯を仕掛けようかと考えながら男の子の背中を追いかけます。目の前を歩く男の子はぴたりと足を止めて後ろを振り向きました。
「誰かいるの?」
どうやら、声を出しすぎてしまったようです。
雪神様は急いで近くの草むらに身を隠します。
男の子は何度か周りを見回した後に不思議そうに首をかしげて歩き出します。
この島は小さな島ですが、町まではもうしばらく森の中を歩きます。
「まずは寒い風を当てよう」
雪神様は雪を外へ送り出すときの冷たい北風を男の子の背中に当てました。
男の子はとても寒そうにコートにくるまって体を縮めます。
「おっさむがってるさむがってる! よし、もっとやっちゃえ!」
雪神様はそもそも、なんで男の子を追いかけ始めたのかも忘れて、彼に対する次のいたずらを考え始めます。
雪神様といえば、雪を降らせる力を持った神様でそれ以外の力はないのですが、少しぐらいならほかの神様の真似だってできたりします。
「今度はあっつい光を当ててあげよう!」
今度は雲を少し晴らして、そこから覗く太陽の光を強くしてみます。
雪神様からすれば、とても暑い日光を当てているのですが、人間の男の子からすれば小春日よりのような心地のよい暖かさです。
先ほどまで寒かったのも忘れて、男の子はトテトテと歩いていきます。
雪神様としては、一人で北風と太陽をしているつもりなのですが、男の子からふれば、寒い風か吹いたり、暖かい太陽が顔を出したりと、冬の気まぐれな天気に振り回されているというぐらいにしか、思っていませんでした。
それを見た雪神様はもう一度北風を男の子にぶつけます。
「早く帰らないと」
でも、さすがにおかしいと思ったのか、男の子は歩調を早めて家路をいそぐ。
雪神様はさらにいたずらを仕掛けます。
「今度は雪を降らせちゃえ!」
雪神様は自分の力を使い男の子の周りに雪を降らせます。
男の子は周りを少し見回すと、そばにあった背の高い木の下に移動しました。
雪神様はさらに雪を降らせます。
どうせなら、彼をアッと驚かせたいと思ったのですが、これ以上のことは思いつきませんでした。どうせなら、男の子の前に現れた方が驚いてもらえるのかもしれませんが、雪神様は人間の女の子にしか見えないので、いくら神様だといっても信じてもらえないことが多く、それでは驚いてくれないと首を振ります。
どうしようかと考えていると、男の子は木の下でしゃがんでしまいました。
「寒い……」
さすがに寒いと感じたのか、男の子がそんな声を漏らします。
ですが、驚いてはくれません。
「……こうなったら、いっそのこと目の前に出て驚かしてやる!」
決意を固めて雪神様は男の子の前に飛び出します。
雪神様を目の前にして男の子は一瞬、固まった後に口を開いた。
「……雪神様?」
「いかにも」
雪を降らせてから登場したのが幸いしたのか男の子は雪神様を見て、ちゃんと雪神様だとわかったようです。
だからこそ、雪神様は神様らしく胸を張って男の子の前に立ちます。
男の子はしばらく固まったまま、動きを止めていたが、やがてぐいっと立ち上がった。
「ねぇ雪神様! お団子食べてくれたの?」
「えっ? あれの事? うん。まぁまだだけど……帰ってから食べようかと思って……」
いきなり、きらきらとした瞳でそういうものだから、女神は若干後ずさりしながら答える。
「……そうなんだ……」
女神の行動か、はたまた団子を食べていないという事実にがっかりしたのか、男の子は再び座ってうつむいてしまった。
「あっあの……どうしたの? えっ? もしかして、あの団子の何かあったの?」
雪神様は直ぐに男の子を追いかけ始めてしまったのであの団子の意味などまったく考えていなかった。
でも、冷静になって考えてみれば男の子の来訪理由などあの団子を見ればわかったのではないだろうか? 雪神様はそんなことを考えながらもこの状況をどうしようかと考えます。
「あの団子……」
「へっ?」
「あのお団子……ボクが作ったの。それで、いつもお菓子を食べてない雪神様に送ったら喜ばれるかなって思ったの……いらなかったの?」
男の子は目をウルウルさせながらそういいだすものだから雪神様はすっかりと焦ってしまいました。どうしたらいいかわからず、とりあえず男の子を抱き上げるとそのまま社へと向かいます。
「えっ? どこへ行くの?」
「……せっかくだし、あなたの前で食べて感想を聞かせてあげる。特別だからね」
雪神様はそのまま男の子を抱き上げたまま森を駆け抜けて自分の社へと戻る。
社のすぐそばで男の子を下ろすと、雪神様はいつものお供え物の横に置いてある男の子が作ったという団子に手を伸ばす。
真っ白なその団子はまるで周りに降りしきる雪のようでただ単純に雪を丸めただけではないのかという疑いの目で見てみるが、触った感触からして本物の団子のようだ。
雪神様は男の子の視線が自分の方を向いているのを確認すると、手に持った団子を口に含む。
「……なるほど……結構、薄味ね」
雪神様の言葉を聞いた男の子がシュンと顔を曇らせます。
しかし、雪神様はさらに言葉を続けました。
「……でも、これは之でおいしい。控えめな甘さがなかなかいいわね。また、持ってきなさい。食べてあげるから……それと、次はもう少し濃いめの味でね」
それだけ言うと、雪神様は男の子のそばを離れます。
「ありがとう。ごちそうさま」
それだけ言い残すと、雪神様はそのまま男の子の前から姿を消しました。
「ありがとうございました!」
男の子は大きな声で返事をして、そのまま帰っていきます。
雪神様は社の陰からその後ろ姿を見送ります。
「……次にあの子が来たときはもっと、大きないたずらをしないと」
そんなことを言いながら、雪神様はニコニコと笑みを浮かべていました。




