夏の日、不明瞭な依頼
探偵事務所から新章開始です
あれは丁度一年前の夏の暑い日の事だった
今となっては思い出としてこのように日記に記しておくのも、手段として考えられるまでに回復した
あの底知れぬ恐怖の体験を…
ある日、探偵業を営む私の元へ一人の依頼人が訪れる事から、全ては始まった
コンコンコン、ドアをノックする音がテーブルのコーヒーを揺らす
私は調査書類から顔を上げると
『どうぞ、鍵は開いていますよ』
と、扉の向こうにあるであろう訪来者に声をかける
『あ、あの失礼します』
控えめな声で入室してきたのは若い女性…学生だろうか?
現役でハイスクールに通っていてもおかしくはないくらいの顔つきの少女だった
『…どうぞ』
立ち上がり、ソファーを進める
会釈をすると彼女は促された通りに着席した
『実は人を探してほしくて…』
ふむ、家出…だろうか?
私はお決まりのように名刺を差し出す
『あ…す、すいません!私、榎本佳奈と言います』
緊張がこちらに伝わってくるほど、彼女ははりつめた面持ちをしている
『私はこの事務所で探偵をしている、真中瑞穂です、よろしく』
時刻は夕刻を過ぎた辺りで、西日が彼女の表情に影を落とす
私は立ち上がると冷蔵庫の扉を開けた
『榎本さんは…ジュースで良いかしら?』
学生と見なし、コーヒーよりジュースの方が良いだろうと思い至る
『あ、お構い無く…』
果汁50%のオレンジジュースをグラスに注ぎ、ストローも忘れない
探偵業というのは顧客に合わせた対応を上手くこなさなければ、信用が落ちてしまう為、細かい粗相が命取りになる
テーブルに布のコースターを敷くことも忘れない
彼女はあまり余裕が無いのか、それも構わずに話を始めた
『友達を探してほしくて』
涙が彼女の大きな瞳を揺らす
『でも…里美が居なくなったのに、誰も探そうとしなくて』
彼女によると、クラスメイトの松永里美が行方不明なのだとう
しかもおかしな事に、周りの人間たちは探そうともせず、両親は警察にも届け出ていないらしい
『里美の両親にも家にそんな人はいない、って言われて、私頭が変になりそうで』
彼女はそこでついに我慢できなくなり、涙をこぼした
…妙ね、例え失踪が自作自演だとしても、両親までが実の娘の存在を秘匿する意味は何?
『良いわ榎本さん、その依頼引き受けましょう』
彼女は部屋を出ていくまでしきりに、ありがとうございます。と繰り返していた
消えた少女、しかしそれを是としない周囲、今度の依頼は厄介な物になりそうだった
ちなみに、主人公は前回のあの人で固定されてます