エルトダウンシャーズ〜23の粘土板〜4話
今回は長いです
しばらく時間が経っても、あの事件のことは世に出ることはなかった
俺の周りの様子は相変わらずで
駅で飛び降り自殺があったなんて、まるで嘘みたいに
テレビでは報道規制が敷かれているのか、あの飛び降りについては一切報道がなされなかった
退屈な平穏が続いていたんだ
その日が来るまでは
九条高校―教室―
どうしてだ?
やはり彼女が言ったように、死んでなどいなかったのか
いや、不可能だろう
俺の見間違いという可能性は?
そもそも彼女が俺に飛び降りを見せた理由はなんだ?
………ダメだ、わからない
『梁君』
ボーッと机に肘を立てて考える
視線はグラウンドをさ迷ってる
俺の思考もグラウンドを三週程した辺りで何処かへと行ってしまったようだった
『ねえ、梁君ってば…』
『…』
『えいっ』
目の前が今日に暗くなった…
『うあっ!?』
思わず立ち上がる
『わあびっくりした』
聞きなれた声に振り返ると、鳴子しぐれがいた
『びっくりしたのはこっちだ…』
『もう、お昼休みだよ梁君』
え?マジかよ
時計は12時ジャストを示していた
『全然気付かなかった、クソっ!学食スタートダッシュに出遅れるなんて!』
席を立ち昼食の確保へ向かわなくては
走り出すところで後ろから引っ張られた
『…んだよ、しぐれ』
服を引っ張っていたのはしぐれだった
『お弁当作ってきたよ、梁君の分も』
『そうか、なら食う』
持つべきものはやはり許嫁だな
『梁君は放課後お暇なのかなー?』
『だいたいほぼ毎日暇だぞ』
学生で忙しい奴なんて、真面目に勉強している奴だけだろう
『なんかあったのか?』
『お母さんが連れてきなさいって言ってたの』
『おばさんが?』
こいつの母である礼子さんには俺は頭が上がらないのである
『大丈夫かな?』
『予定もないしな』
昔から俺を気に入ってくれているらしいここの家族は
俺が小さいころから婿にもらうと決めていたらしい
『…えへへ』
しずくの顔を見ていたら照れて目を逸らされた
まあこんなかわいいやつはそうそういないだろうし、俺としても嬉しい限りなのだが
弁当を片付けていると、佐野が教室に駆け込んできた
『大変だ!』
血相を変えて叫ぶ
『なんだ!?』
おかしいぞ…
視界が歪む、足元が勝手に歪曲して平行を保っていられない
床に片膝を着くと、教室にいる全員が同じ症状に苦しんでいるようだった
何名かは意識を失ってるらしく
この短時間で床にダウンしてしまった
ふと背中に重みを感じた
『…しぐれ!』
意識を失っている…
一体何だっていうんだ!?
頭痛がだんだん激しくなっていき、ひとり、また一人と倒れていく
『ぐうっ…ああああ!』
割れそうな頭を抑えながら教室を抜け出す
頭の中に虫がいる、幼虫だ
そいつは俺の脳を食い荒らして、おかげで俺はナニモ考えられない
何も…かんがえる?
意識を保てない、なら保たなくていいか?
なにもかんがえないのがいい
そうだ、屋上だ
あそこなら、いい
とても、らく
楽に死ねる
俺はなんだかとても楽しくなって屋上へと走り出す
がちゃ
ドアがひらいた
屋上
そこには見たことがある女の人がいた
視界がクリアになっていく
頭痛が消えた
『っづうっ!?』
何かが弾けるような音が聞こえたかと思うと
俺の体は地面に崩れた
『…なんだよっ!』
屋上?
『みんなは…』
九華と名乗った女は悠長に本なんて読んでいやがる
『正気に戻ったようね』
視線は本に固定したまま語りかけてくる
体がやけに重い
『体を乗っ取られていたようだったから、助けてあげたのよ感謝して欲しいわね』
『あんた、こんなところで何を…』
やっと俺の存在に気づいたように本をたたむ
『なに?そうね…エルトダウンシャーズの回収、と言ったところかしら』
『だから、そんなもんは知らないって…』
『ええ、あなたは本当に知らなかった、でもあなたを乗っ取っていたそいつは知っているはず』
なに?
指指された背後をのぞき込むとそこには黒い渦があった
宇宙に浮かぶ原初の暗黒、ブラックホールのような
多次元的でありただの渦でもある
やだ純粋な邪悪の深遠
そこから何か…
『…なんだ…これ…』
―名状しがたい何かが這い寄ってくる―
『まさかこんな極東の地にあったとはね』
彼女がまた本を開く
『こんな時に本なんて読んでる場合かよ!』
なんとか這いずり九華のところまでたどり着く
『こんな時だからこそ、でしょう』
一体さっきから何を読んで…
なんだ…あの本…英語ですら無い、ということだけはかろうじて理解できた
『ラテン語よ』
そんなもんでどうするってんだ
『あいつはニャルラトホテプ、まあわかりやすく言うと、今貴方が巻き込まれてる事の
大体の原因はアイツのせい』
『あの化け物…』
渦からこちらにこようとしている?
『召喚に必要な生贄が足りなかったか…はたまた…』
つり上がった気の強そうな目が俺を捉えた
『押し返すわよ、今ならまだ間に合うわ』
『あんな奴をどうやって…』
あれはきっとこの世界にいてはいけないものだと直感でわかる
あんなものに触れてしまったら、気が狂ってしまうだろう
『あなた…牧坂君』
『ああ』
『ちょっと離れていて、危ないから』
何をする気なんだ
彼女、九華志乃は三度本を開く
そしてゆっくりと読み上げ始めた
言葉として意味を成していないような、その音は確かに空間を揺らして…
『…クトゥグア!』
彼女が叫ぶと
歪曲していた空間が補正されていく
きづけば彼女のすぐそばには
これもまた名状しがたい異形の存在が顕現していた
そこからは迅速だった
彼女が腕を振るうと
闇の渦に向かって無数の炎が飛び交った
まるで世界中の科学工場を一箇所に集めて爆発させたような
眩い閃光が幾重にも走り、しばらくの後
それが収まったかと思うと
もうそこには渦なんてなくなっていたんだ
『…終わったのか…』
放心状だったことに気がついて周りを見渡すが、学校の屋上には俺しかいなかった
あれからまた数日が経過したが
結局何もわからなかった
あの後教室に戻っても誰も、何も、覚えていないというんだ
あの九華志乃という女性も
一体何者なのか不明のままだ
『気を付けなさい、日常の中に奴らは隠れているのだから』
ハッ!と振り返ったが、黒い髪のツリ目はそこには居なかった
一体、なんだったって言うんだよ…
うーん、結局今回もエルトダウンシャーズってのはガセだったみたい
なんだか古い神様は出てくるしさ…え?
ああちょっと自作自演をする必要があってね
まあ、ナコト原本とネクロノミコンの合わせ技ってやつ?
うん、じゃあまた今度
炭酸飲料を継ぎ足すと、氷は溶けきってしまったようだった
『うわ、ぬるい』
九華志乃は机にグラスを戻すと、空中から魔道書と呼ばれるそれを召喚した
『…ふーん、次は…っと』
謎が多いこの本を読み終わることだけは
まだまだ時間が掛かりそうだった…
お疲れ様でした
やっぱりホラーじゃなかったですね、すいませんw
それでも面白かったよ、といってくれる人がいたらイイナー?|д゜)チラッ
今回で1章は最後です2章はしばらく期間が開くと思いますが
ちゃんとホラーにしていきたいですw