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結局あたしとカレンが部活後にナホに会えたのは、リョウタが自慢げに話しに来た1週間も後のことだった。
「あ、ナホ!」
「あら、花恋と小百合。久しぶりね」
午後6時前後くらいだろうか。にっこりして手を振ってくれるナホは、その日はふくらはぎくらいの丈のパンツを履いていた。カレンがぱっと笑顔になって、ナホに駆け寄る。
あたしも後れを取るまいと、慌ててカレンの後を追った。
「元気そうだね、2人とも」
「ナホも!」
カレンが、きゃーっとナホの手を取って飛び跳ねる。あたしもナホの腕を取る。ナホが嬉しそうにしながらあたし達から腕を抜いて、代わりに頭をぽんぽんと撫でてくれる。
変わらないその仕草に、また小学生に戻ったような気持ちになって、なんだか照れくさい。
道端でってのもアレだし、仕切りなおさない?
ナホはそう言いながら、パンツのポケットから携帯電話を取り出した。
中学生でも携帯電話を持つのが主流になって、本当によかった。あたしとカレンは、にんまりとした顔を見合わせながら、それぞれの携帯電話をいそいそとカバンから取り出した。
ナホは携帯電話を操作して、自分のアドレスを出してくれる。
「金曜日はどう?ノー残業デーで、5:30には帰れるの。狭いけど私のアパートでのんびりしましょう。ただし、おうちの人にOKもらってね」
「絶対OKもらってくる!」
「ナホの家とか、気になる!」
「狭いけど、聖司や諒太とか他の子も誘っていいからね」
仕方ないから、ナホに会ったことを教えてくれたリョウタも誘おうと心に決めた。
***
金曜日にナホの家に遊びに行くけど、いく?
男子バスケ部と女子バスケ部は、体育館の中で隣同士のコートで練習をしている。
あたしとカレンは部活中の休憩時間に、男子が休憩しているところへと向かっていく。
中学生になると、普段は男子と女子が仲良く話すと「お前ら付き合ってるのか~」と、からかわれるから皆が避ける。だから、あたしも一人ではちょっと。カレンには悪いけど、一緒に行ってもらうことにした。
男子バスケのコートの方に行くと、リョウタは学童のころから仲の良いセイジと並んで、お茶を飲みながら、楽しそうに話していた。リョウタ、セイジ、と声をかける。
あたしの言葉を聞いて、先に反応を示したのは、なぜかリョウタではなくセイジだった。
ウロウロと視線を泳がせて、耳をカッと赤くしている。
そういえばセイジは、恥ずかしかったりすると耳が赤くなるんだったな、と思い出した。なんでここで照れるんだ、と思ったら、この間リョウタがナホと会ったときにセイジも一緒にいたらしい。
そっか。セイジにとって、ナホは“特別”なんだ。
あたしにとって、と同じように。
もやもやとしたこの感情が「嫉妬」というのだと知るまでに、あと少し。
終わらなかった…
あともう1話だけ続きます。