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勢い余って、思いついたので『金曜の円舞曲』の続編(時間軸的には前編)を書いてみました。
もう少し、『金曜の~』関連で書けそうです(笑)
語りはサユリ。
金曜日は特別だ。
そう思っているのが、あたしだけじゃないことは知っている。
少なくとも、隣に立っているセイジにとっても特別だっていうことぐらいは。
残念だね、いつまでも子ども扱いで。
セイジにそう囁いたあたしは、とても意地悪な顔をしていたと思う。
だって、ナホはあたしの“特別”だから。
***
昨日、部活帰りにナホとすれ違ったんだぜ!
あたし達が中学1年生の、夏のある朝。カレンと登校したあたしのもとに、リョウタは駆け寄ってきて自慢げに言い放った。カレンがすぐさま、えーっずるい!と反応する。
あたしと言えば、なんでナホに出くわすのがリョウタであたしじゃなかったのか、と脳みそがくらくらして、一瞬何も返せなかった。
「ナホ、スカート履いててさー、めっちゃビビった」
はぁ?と、カレンがリョウタに眉をひそめている目の前の光景を、あたしはまるでドラマの一コマみたいな気持ちで眺めていた。
「ほんとすぐそこだったぜ!校門出て、坂上るだろ?あのへん!」
「それ、何時ごろ?」
「6時くらいかなぁ。部活の片づけ長引いてさー」
なんとか我に返ってリョウタに聞けば、すごく曖昧な返事が返ってきて、リョウタを殴りたくなった。ばか、あほ、リョウタ最低、なんて心の中だけで思う存分罵って、あたしはカレンと目配せをする。
カレンも、こくんと頷いた。
その日の夕方、部活の片づけ(普段はみんなが嫌そうな顔をする)を喜んで買って出て、あたしとカレンは顔を見合わせてほくそ笑んだ。
暑い体育館の中だけど、カレンとあたしはご満悦だった。
結局その日の夕方6時ごろ、ナホには会えなかったけれど。
***
ナホは、あたし達が小学4年生のころ、学童保育所にアルバイトとしてやってきた。
夏だった。外で遊んで汗をかいて、おやつだよーの声で涼しい部屋に駆け込む季節。
ちょっと釣り目で、茶髪で、なんとなく近寄りがたいかな、なんて思ったのは初めだけだった。
ナホはいつも笑っていたし、ナホはあたし達の宿題にも根気よく付き合ってくれた。わかんないって言えば、どこがわかんない?って隣に座って聞いてくれるし、言葉の意味がわからないところは丁寧に説明してくれた。ナホは、外遊びも部屋遊びも付き合ってくれた。
低学年の子達が、ナホの膝の取り合いをするのが、いつも羨ましかった。
だから、早い時間帯に低学年の子達のお迎えが来て、高学年しかいなくなる6時以降があたしは好きだった。その時間になると、ナホの膝はあたしとカレンのものだった。たまにマナが、ずるい!と訴えてくるから交代したこともあるけど。リリコはなぜかナホの背中にもたれて読書するのが好きみたいだったし、カオリは男子達とボードゲームする方が好きみたいだった。
もちろん、男子達は4年生にもなると恥ずかしがって膝に座らないから好都合だ。
家に帰れば、あたしはお姉ちゃんだ。
お母さんはまだ5歳の弟ヒロキに構いっぱなしで、あたしはお母さんにまで「お姉ちゃん!」と呼ばれる。お父さんは夜遅いし、「小百合は偉いな、お姉ちゃんだからな」と、こちらもあたしをお姉ちゃん扱いする。
あたしだって、まだ小学生なのに。あたしだって、まだ10歳なのに。
ナホは、あたし達をみんな、同じように甘やかしてくれた。
低学年も、高学年も。弟がいても、妹がいても。お姉ちゃんでも、お兄ちゃんでも。
あたしは―――あたし達は―――そんなナホが大好きだった。
今ならわかる。
ナホは、あたし達が親の愛情に飢えているんだと、いつもわかっていたんだと思う。
小百合たちと一緒に卒業だ。
そう言いながら笑ったナホは大学生を終えて、あたし達が小学校を卒業するときに、一緒に学童を卒所した。
2話完結、予定。