一応アイドル
「本当に来たんですか」
「はい」
朝8時少し過ぎに、泊まっている学校の宿直室から着替えもすることなく、ジャージを羽織っただけの姿で、アイドルを校門に迎えに行くという、中々貴重な行動をした。
にこやかに手を振る、天使というのはなかなか可愛らしいものがありますが、本当に来てしまうとは呆れ半分で、眠気半分の目で見ると、遊びに来たにしては少々多い荷物をみて、嫌な予感がしたので、とりあえず聞いてみることにした。
「泊まるんですか?」
「もちろん、肝試しは夜になりますから、その時間に帰るのは難しいんじゃないですか」
どうやら彼女の中では決定事項であるようだ。
「まだ決まっていないですよ」
「そうなんですか」
「まぁできない場合プール掃除して帰ればいいですよ」
「ヒナさん達、プールで泳ぐんですか、楽しそうですね」
「泳げませんけどね、あれお金が大分かかるみたいですし」
「そうなんですか、あれじゃあなんでプール掃除するんですか?」
そう聞かれると何故、プール掃除をすることになるのだろうという基本的な疑問がまたわいてくるが、まぁラジオの話題づくりの一環であると適当に、自分自身を納得させた。
学校の廊下を並んで歩いていても、彼女はミケらんさんは少し変ったのだろうか、前のようなビクビクしたようなところも少しでは、あるが直っているように思えてしまう。
アイドルの日を浴びて、変って言って、大きくなっていくような気がする。
やはり、羨ましい。
「どうしました」
「いえ、短期間で変るものだと思っただけです」
そう答えると、可愛く、ともすればあざとく小首をかしげている、やはりそうそう変らない部分もあると言う事でしょう。
「おはようございます」
「アンタ、本当に来たのね仕事はいいの」
「それなりに順調ですよ、今度また歌をだします」
「それは凄いな」
「ナナさん、ありがとうございます」
「なおのこと、こんな所で遊んでいる暇はないと思うんですが」
「いえ、皆さんのおかげです」
「はいはい、社交辞令はいいですよ」
ヒナさんが用意してくれた、お味噌汁と卵焼きそしてご飯に、手をつけながら、今日の事について話合う。
「それで今日どうします」
「肝試しは、本当にやらないんですか?」
「肝試しと言っても、こっちに住んでいるから余り怖くないかもしれないという意見がヒナからでた」
「そんなに、私と回るの嫌ですか」
「お化けより、アナタと回るというストレスがありますね」
「ひどいですね」
「まぁそれは置いておいて、プール掃除したほうが良いんじゃないかと思ってな」
それは、ナナさんだけだと思うんですが、とりあえず学校生活をしているのだから何かやってみようという企画は肝試しかプール掃除かと言う、二択にもならない選択肢だけが残されている。
「プール掃除というのも中々ハードですね」
「泳げないのに態々掃除する意味もないでしょ」
「泳げないとはいっていない、プール使うにはスタッフの許可がいるだろう」
「その許可は取れたんですか?」
「いや、まだ返答がこないな」
ものは試しと、プールの使用許可についてスタッフに、話が出たとき問い合わせたけれど、返答は来ない。
だめなら、すぐに断るはずなので、もしかしたら許可がとれるのかもしれないと、淡い気持ちを抱いたけれど、結果は多分現実的に駄目だろう。
「まっ許可は無理でしょうね」
「そうね」
「それでもプール掃除はしないとな、話が出た後プールの状況が気になって見にいったが結構汚れていた」
「泳げないのにするのは嫌なんだけど」
アミさんは半ば諦め気味に伝えましたが、ナナさんのやる気に満ちた言葉に押されていた、あぁこのままプール掃除をするんだろうな。
「まぁものは考えようですよ、労力が一人増えている状態のほうが楽できるじゃないですか」
「じゃあ午後は絶対肝試ししましょうね」
確かに、プール掃除だけして帰ってもらうというのも中々に気の毒な話ではあるが、おねだりするようなあざとさが、可愛いとは思うけれどもとても腹がたってしまう。
「よし、じゃあ早速と言っても1時間後にプールに集合だな」
「本当にアイドルの仕事じゃないわよね」
「全くですね」
「ヒナ、水着撮ってあげるわよ、ほらアイドルっぽい」
「確かにアイドルっぽいですね、猫耳もつけますか?アイドルっぽい」
「体操着でしますから結構です、というかこれでも一応アイドルです」
知名度も人気も全くないですが、これでもアイドルです。




