笑顔の裏はなんでしょうか
珍しく、ナナさんのケイタイに、番組スタッフからの連絡があり、神妙な顔でうなずいているナナさんを尻目に、ぐつぐつと煮ている野菜くずとラーメンのゆで加減を先程からみている。
「来週ゲストがくるそうだ」
話が終ったのと同時に、ラーメンも茹で上がり、それを盛り付け、昼食のインスタントラーメンを食べながら、ナナさんの報告を聞いた。
「ゲストってこんな所にですか」
「その前に、放送するかもわからないこの番組にゲストなんてくる意味あるの?」
まぁ確かにそう思う。
「まぁ逆に考えれば、そのゲスト回は放送されるって事?」
「多分そうなるかと思う」
「ゲスト投入しても多分なんですね」
本当にやる気があるのか、ないのか分からないスタッフだ。
「まぁ私も確認したんだが、ゲストのほうが、放送されなくてもいいとか」
「は?」
「ゲストに経験をつませたいとの事だ」
「こっちは未経験で放りこまれているんですが」
ゲストの方には、悪いけど、ここで得られる経験というのは、ほとんど無いに等しいと思うんですが、強いて言えば、少々この学校に泊り込みして、精神が図太くなるぐらいでしょうか。
「経験っていっても、私達もそう変らないと言ったのだがな」
「まぁいいんじゃない、放送される可能性が出るなら一人増えてもかわらないでしょ」
「そうですね」
少しでも、別の事やってみて、放送される可能性をあげるのも悪くはないでしょう。
「それで、ゲストって誰が来るの?」
「アミも知っている子だ」
「だれ?元彼?」
「気まずい人選ですね、そもそもアミさん彼氏いたんですか?」
「3日彼氏なら山ほどいるわよ」
それは彼氏というのだろうか。
いや、アミさんについていけなくなって、別れたのかもしれない。
「残念ながら元彼ではないな」
「まぁ言ってみただけだから期待していないし、残念でもないわよ」
「それで、結局誰なんです?」
ナナさんは、こちらを一瞬見て、目をそらしながら答えた。
「ミーちゃんずのミケらんだ」
割り箸の割れる音が聞こえる、よく見ると、私が握りつぶしていたらしい。
「ミーちゃんずのメンバーが何でですか?」
売れっ子の階段を順調に上っているアイドルのメンバーなら、わざわざこんな仕事をしなくてもいいはずなのだ。
「理由はさっき言っただろう」
「あーあんた、前同じ事務所だっけ」
「そうですよ」
「何々一丁前にライバル心があるわけ」
ライバル心と言うより、ただの嫉妬とこうモヤモヤっとした感情がわきあがるだけですよ。
「アミ、あまりからかうな」
「はいはい」
「ヒナも気にするなとはいわないが、できるだけ仲良くな」
「分かっていますよ」
売れている売れていないの知名度では、あちらが上。
感情でキライだからって、この仕事を台無しにすると言うことはできない。
「そうそう、キライだからできませんなんて、もっと大物になってからじゃないとね」
「それは、大物になってもするな」
「えー、それぐらいいーじゃん」
「私はお前の事嫌いですものって言ったらどうする?」
「このくそ天使って言うに決まってるわよ」
それにしても、来週本当に私は上手くやれるのだろうかと不安で気分が沈み、ラーメンを食べる箸のスピードも遅くなっていく。
そんな私を和ます冗談なのか、本気か分からないが、ナナさんとアミさんのやり取りは、ラーメンを食べ終えるまで続いていた。




