メールを送ろう
夕暮れの空き教室で一人イスを傾けながらメールを打つ準備をしていた。
全く文面が思い浮かばないというのもあるけれど、私はラジオにメールを送らないといけないという虚しさとせつなさが合わせて満点の行動をしないといけない。
何をメールすればいいのかなんて思いつくはずもなく、それでもメールを打たないと企画が成り立たないというプレッシャーを感じながら一人教室でイスを揺らしながら考えてみる。
そういえばイス揺らしてバランス崩してこけるという我ながらアホな事を学生時代多かった記憶を思い出し揺らすのをやめる。
「第十五回ね」
「そうだな十五回目だな」
私が放送室にいないラジオ放送がはじまり、校内のスピーカーから聞こえてくると本当に校内放送しているんだと思ってくる。
こういうふうに感じるというのは貴重な経験かもしれないし、無駄な経験かもしれない。
私がいなくてもラジオは流れるということに、一抹の寂しさを感じてしまうのはやっぱり私が疎外感を勝手に感じているからなのかと、まぁ感傷に浸っている暇は本当はないのだ。
今日はメール送信でラジオに参加する時というか、参加しないとそもそもの企画が崩れてしまいますね。
「今日はメールがあるのよね、何々はじめましてヒナヒナと言います、いつもラジオ楽しく聞いています」
アミさん私まだメール送っていません。
そんな典型的なメールを送ってこいというプレッシャーですかね。
「まだきていないだろう」
「まぁ初のメールになるんだからきっと予想より凄いもの送ってくるわよ」
「そうだな」
おぉ私が送らない間にどんどん好き勝手にハードルがあがり始めている。
本当に無秩序と言うか好き勝手に喋っているだけですね。
ラジオから聞こえてくるアミさんとナナさんも実に楽しそうにしゃべている。
「あっメールが来たぞ」
「このラジオに初めてメールしますとでも書いてあるの?」
「いや、相変わらず酷いラジオですねとある」
「ヒナがいたらもっとひどくなるな」
「酷いってどこがだろうか?」
「あぁハードルあげたところじゃない?」
「あげたか?」
「いやさっき予想よりすごいの送ってくるとかいったくだりだと思うわよ」
「あれはできると思ったからだ」
無茶言わないでくださいと送ろうかと思ったけど話はドンドン進み始めているので送るのはやめておこう。
「あんたはボケかどうか分かりづらいわね」
「そうか?」
「そうよ、ところで今回はどうする?」
「ヒナはメールで今の状況送るというのはどうだ?私たちは体育で話をするから」
メールテーマあるんですか、今の状況というのは何だろうこの一人でポツポツとメールを打っている状況を送るというのは大変に心にくるものがあるんですが。
「あぁいいんじゃない?」
そうですよねぇこの状況で拒否権というのはないですよね。
体育の話を楽しそうに話ながらラジオはドンドンとすすんでいく。
「ヒナそろそろ終るけどメールできた?」
「もう少しエピソードはないのか?」
「あるけど」
「じゃあそれの後でいいじゃないか」
アミさんが体育着についてなんか語りだしたので、とっとと送る事としようとした時にいつの間にかゆらゆらと動くイスが大きく傾いた。
「まぁ体操着って結局意味があるのって思うわよね」
「あっメールが来たぞ」
「なになに」
「イタイ」
「私がイタイって事?」
「いやイス傾けてこけたんじゃないのか?大丈夫か」
「あぁたまにいたわねそんなドジをする奴」
なんでその3文字で分かるんでしょうか。
とりあえずラジオが終わったようなので、わたしはイスを元に戻して二人にお疲れさまとメールを送り放送室へと向かった。




