表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お義姉さまになって欲しい人

作者: ミーネ

私は王女そして剣士。

私が物心付いた頃辺りから、魔王率いる魔物の動きが活発になり、その脅威に対抗する為に私は剣の腕を磨きました。

……政治のお勉強や淑女になる為の練習等より剣術の方が楽しかったという事も少しはありますけど……ほんの少しですよ!

運良く剣の才能もあったようで、我が国の騎士の中でもトップクラスの剣の腕を持っていると自負しています。


神の試練を乗り越えた三人の者が勇者と認められました。

それぞれ聖剣、聖槍、聖弓を与えられ、その三人のパーティーメンバーを選出する際に私は名乗り出ました。

出来れば聖剣の勇者様のパーティーが良いです。

剣を使う私は、聖槍、聖弓の勇者様の方がパーティーメンバーとして役に立てるかも知れませんが、私は聖剣の勇者様を望みました。

……聖弓の勇者様は女性ですし、聖槍の勇者様はお顔がちょっと……えっと、世界を救った勇者と王女の結婚とか憧れません?憧れますよね!?

私の望みは叶い、聖剣の勇者様のパーティーメンバーに選ばれました。

……ただ、他のメンバーも女性、それも美人ばっかりなのがちょっと不満ですけど。


聖剣の勇者様は強い方でした。

一応剣の腕のみなら私の方が上なんですが、勇者様は魔法も上級まで使える様です。私は魔法は生活魔法までしか使えませんから、総合的には負けてしまいます。

総合的と言えば勇者様は万能な方の様で、剣や魔法だけじゃなく料理を筆頭に家事も全部こなせます。

勇者様が作った料理を振舞って貰ったんですが、王城で出される料理に勝るとも劣らない美味しさでした。

……私は料理とかやった事ないですからね。その他の家事も全く。いや、王女が家事をする必要なんて無いですからね!?というか、逆にやっちゃいけませんから!

それに、他の三人も箱入り娘に魔法馬鹿に男勝りですから、料理出来ませんし!

……これは、旅の途中での食事、その他は全て勇者様任せになるやも……


そんな万能で顔や体つきも美男子な聖剣の勇者様なんですけど、男としての魅力があるかと言うと疑問視してしまいます。

女性を凄く大事にしてくれる男性なので、それは良い所なのかもしれません。

ですが、何と言えば良いでしょう?

女を守ろうとする感じで女を大事にする男じゃなく、女に尽くそうとする感じで女を大事にする男なんですよね。

逆に守ろうとする気がないというか、女は強いものと思ってるみたいです。

これは多分、故郷で女家族や幼馴染の女とかに顎で使われていたに違いありません。それに疑問を持たず従っていたであろう事が目に見えます。

完璧に女性を男性の上位として見ていますもの。


うーん、聖剣の勇者様を選んだのは間違いだったでしょうか?

これなら聖槍の勇者様の方が良かったのかも……でもあの顔はなぁ……

それに、噂で聞いたんですけど、聖槍の勇者様は結婚を約束した恋人が居るらしいんですって!あの顔で!

……すみません、ちょっと失礼が過ぎますね。ごめんなさい、聖槍の勇者様、とその彼女さん。


はいはい、もう姉自慢はいいですから。ほら、見て下さい、私だけじゃなく他の三人も呆れた顔をしていますよ?

ちょっと聞き飽きましたので、いい加減にしてくれませんか?このシスコンが!

……おっと、ちょっとはしたない言葉遣いになってしまいました。

うーん、姉の話だけは喜々として話すんですよねぇ、勇者様。

それも姉がどれだけ凄いかって事を延々と。

話を盛り過ぎてて、お姉さんが人として有り得ない方になってますし。




幾つもの試練を乗り越え、依頼を果たし、私達は魔王討伐に向かいます。

勇者様を筆頭に全員が力を増し、私達の絆も深まっています。

今ではパーティーメンバーの女性全員が勇者様に好意を持っています。私を含めて。

……うん、家庭的な男性も悪くないですよね!

勇者様との仲の良さでは私が一歩リードしてると思うんですけど……ちょっと嫌な予感もします。

私達四人なんてどんぐりの背比べ状態で、勇者様のお姉さんへの好感度とは天と地の差があるような……



少し危うい所もありましたが、無事魔王を倒す事が出来ました。

聖剣の勇者様は救世の勇者様と呼ばれる様になりました。

本人はそう呼ばれる事があまり好きじゃない様ですけど。


王都へ凱旋をし、国王ちちからお褒めの言葉を貰います。

勇者様はこの後故郷に帰るそうです。私もそれに付いていこうと思います。

お姉さんにも会いたいですしね。二つの意味で。

それと、国王への謁見の後で私一人で国王と会って話したんですけど、その内容がちょっと……

どうしましょうかねぇ……



勇者様の故郷の村に着きました。何の変哲も無い小さな村です。

村人総出で出迎えてくれます。どの方がお姉さんでしょうか?

お姉さんは居ませんでした。勇者様が言うには家の中に居るだろうとの事です。

ああ、わかります。

大きな成果を成し遂げた弟を、いつも通りの姿で「おかえり」と言ってくれるんですね?

テーブルの上には、弟の好物の料理が並べられていて、成果を成し遂げた事よりも無事に帰って来た事を喜んでくれるんですね?

いいですよねぇ……私、泣いてしまうかも知れません。


勇者様が緊張しながら、ドアを開けます。私も凄く緊張しています。

そして、ドアを開けた先に見えた光景は、私の予想とはかけ離れたものでした。


物凄く立派なソファーに寝転びお菓子を頬張りながら本を読む女性。

救世の勇者様となった弟が帰ってきたのに、その弟の「ただいま」の声に対して、顔を向ける事もせず軽く片手を挙げて「おかえり」と言う。

それに対して勇者様は泣きそうになりながら感無量と言った感じで再度「ただいま」と言う。


……いや、全然感無量になる様な場面じゃないですからね!泣く所一個も無かったですからね!

なんですあの姉!ぼっさぼさの髪!全く化粧もしていない顔!着心地は良さそうだけど見た目最悪の服!

そして、そんな女として終わってる格好なのに物凄い美人!!

この世の女性全員に喧嘩売ってますよ!

勇者様がかなりの美男子ですので、姉も美人だろうとは思っていましたけど、次元が違いますよ!

多分ある程度身形を整えたら、女神様が顕現したらこの様な姿だろうと思えますよ!


ふうー、落ち着け私。

口を開けて呆然としつつも、内心では滅茶苦茶混乱してしまいました。

私達四人がそんな状態で固まってる間に、勇者様はせっせと部屋の片付けをされています。

うわぁ、この光景。旅の途中でよく見ましたねぇ……勇者様は私達の身の回りの世話を黙ってやってくれるんですよねぇ。

それに気付くと、私達も恐れ多くて自分でやろうとするんですけど、勇者様が自然とやってくれるので全く気付かない時もあるんですよね。まるで城のメイドがやってくれる時の様に自然で。

勇者様が料理上手で家事完璧な理由がよくわかりますね。小さい頃からずっとこんな感じだったんでしょうね。


勇者様がお姉さんに勝負を申し込みました。

これに関しては、前々から話は聞いてました。

お姉さんは勇者様より強いので、今の強さ確認と強さを高める為に勝負して貰うと。

ただ、お姉さんが本当にどれ位強いのかはわからないんですよね。

シスコンの勇者様による姉自慢しか判断材料ありませんし。

魔法で山を消し飛ばしたとか、剣の一振りで魔物数十体を斬り殺したとか、それもどこにでもある様ななまくらの剣で。

幾らなんでも無いでしょ。

実際三人の勇者様の中でも最も強い聖剣の勇者様より強いとはとても思えないんですよねぇ。

最初は渋っていたお姉さんですが、勇者様が何度も拝み倒す事で面倒そうにOKしました。


そうして始まった戦闘はとても戦闘とは呼べないものでした。大人が子供に稽古を付けてあげるかの様な。

勇者様が放つ極大魔法並みの威力の上級魔法を、圧倒的に規模の小さい生活魔法で相殺します。

確かに使う人によって同じ魔力量でも魔法の威力は変わってきます。

私の生活魔法とメルの生活魔法ではかなり威力が変わってきますので、それはわかります。

でも勇者様もメルには及ばないまでもそれに近い魔法の実力を持ってます。

その勇者様の魔法相手に、メルと私の魔法の差と同じ、いえそれ以上の差があるなんて。

見た事の無い生活魔法ですので、改良された魔法なのかも知れませんが、使われている魔力量は他の生活魔法と同じ極少です。

魔法で山を消し飛ばしたかぁ……そんな事もあるのかもしれませんね、何故か東の方の山岳地帯にポツンと一角だけ真っ平らな荒野がありますし。


剣の腕もおかしいです。あれってどう見ても普通の鉄の剣ですよね。

どうして、勇者様の剣を受け止められるんでしょう?少し欠けましたけど、普通それ位で済みませんからね!?

私があの剣を使っていたら、一度受け止めようとしたら剣ごと身体を切り裂かれると思います。

一度少し欠けた後は受け止めようとせず全部受け流していますし。

そうして出来た一瞬の隙をお姉さんは的確に突きます。

あと、偶にお姉さんの剣から斬撃が飛んでる様に見えるんですけど……

一振りで数十の魔物を斬るかぁ……


勇者様だけが傷が増えて行き、もうボロボロになっています。

そして、何度目かわからないお姉さんの攻撃に勇者様は崩れ落ちました。

もう私達は開いた口が塞がりません。


でも、勇者様は満足そうな顔でした。

思いっきり手加減されて負けたみたいなんですけど……Mなんですかね。


その後、気絶した勇者様をお姉さんが抱きとめます。

うわっ、あの顔はやばいです!お姉さんが微笑んでいます!

正に女神の微笑み!……ちょっと格好が微妙ですけど。

その格好の酷さなんてどうでも良くなる程の神々しさです!

お姉さんも勇者様を大事に思っている事がよくわかります。今迄の素っ気ない態度はなんだったんでしょうか?勇者様の前だと恥ずかしいとかですかね?……ツンデレ?


ひっ!?お姉さんに睨まれました。女神様は読心術も使えるようです。

必死で素知らぬ振りをします。

私は何も考えてませんよー。



さて、勇者様のお姉さんは想像以上の方でした。

あの微笑みを見てしまうと、勇者様を夫とする事よりも、彼女を義理の姉にしたいが為に勇者様と結婚したくなります。

勇者様を子供扱いしてしまうその実力は人であるか怪しいですが、魔王なんかよりも圧倒的に強いので気にしてもどうしようもない気がします。


実は国王ちちから、私を勇者様と結婚させて勇者様を王族として取り込み、他国を攻めるのに利用するという計画を聞かされたんですよね。

魔王との戦いが終わった直後に、よく人同士で戦おうという気になるなぁと呆れつつも、相手は最高権力者、逆らうのも難しい。

それに勇者様との結婚自体は私の望む所ですし、勇者様は何故か国王の事を尊敬していますけど、実際の所国王はあまり人望が無かったりする。

救世の勇者様が王族の一員になれば、国王が利用するなんて無理な気もするんですよね。

ただ、勇者様お人好しだからなぁ……

勇者様に話そうか、どうしようか。


なんて、そんな感じでさっきまで悩んでいたんですが、国王の計画は絶対破綻すると確信しました。

あのお姉さんはやばいです。

もし、勇者様が望まぬ形で利用される事にでもなれば、お姉さんの逆鱗に触れる気がします。

寝ている竜、いえ寝ている邪神を起こす様なものでしょう。


それじゃあ、悩みも無くなり安心した所で、なんとかお義姉さんに気に入られる様頑張りましょう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ