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楽しみ

作者: 夏川龍治

 一組の夫婦がいた。夫は真面目に働き、妻は献身的に家事をこなした。子どもには恵まれなかったが、二人はいつまでも新婚夫婦のように円満に暮らしていた。

 ある日、夫が妻に言った。

「ただ仕事をして帰ってくるだけの毎日はもういやだ。せめて、もう少し大きくて映りのいいテレビがほしい」

 妻は即座に了承した。家にテレビがないわけではなかったが、映りの悪いことに妻自身も不満を感じていた。それに、夫がこつこつと働いて得た給料で買うのだから、反対する理由はどこにもなかった。夫はその日のうちにテレビを買い、毎晩のように映画鑑賞を楽しんだ。

 数週間後、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観るだけの生活はもういやだ。せめて、インターネットができるパソコンがほしい」

 妻は賛成した。妻自身はインターネットに興味はなかったが、パソコンが自宅にあるというのは仕事のうえでも有益だろうと思ったからだった。中古品で充分だと妻は思ったが、夫が買ってきたのはテレビよりも数倍高い、最新型のパソコンであった。夫は満足し、毎日夜遅くまでインターネットを楽しんだ。

 さらに数週間後、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観て、パソコンをいじるだけの生活はもういやだ。せめて、休日に出かけるためのクルマがほしい」

 妻はすぐに頷いた。もともと休日に夫婦でドライブを楽しむのが夢だったのだ。二人は慎重に車種を選び、納車が終わると休日のたびにドライブを楽しんだ。

 数週間経って、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観て、パソコンをいじって休日にドライブをするだけの生活はもういやだ。せめて、気晴らしにクルージングをするための船がほしい」

 妻はあっさりと承諾した。潮風に揺られる心地良さを一度味わってみたいと思っていたし、何よりも、夫に気持ち良く仕事をしてもらうためならこの程度の出費は苦にならなかった。船は友人を何十人とあつめてパーティができるほどのサイズで、二人はよく晴れた日には近くの海でのんびりとクルージングを楽しんだ。

 その数週間後、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観て、パソコンをいじって休日にドライブをして、晴れた日にはクルージングをするだけの生活はもういやだ。せめて、気分を落ち着けるための別荘がほしい」

 一も二もなく、妻は了承した。ストレスを適度にとりのぞくことは生きていくうえで大切だろうし、妻自身も別荘での暮らしに憧れていた。二人は避暑地として名高い土地に別荘を建て、夫が疲れた時にはそこに一ヶ月ほど滞在することもあった。

 数週間後、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観て、パソコンをいじって休日にドライブをして、晴れた日にはクルージングをして、時々別荘に滞在するだけの生活はもういやだ。せめて、毎日に刺激を与えるために年に一度は惑星旅行をしてみたい」

 妻は笑顔で賛同した。夫には惑星旅行を楽しむだけの甲斐性があったし、妻自身も日常の中にささやかな刺激を求めていた。ちょうどよいことに小惑星のオーナー募集広告が出されていたので、二人はすんなりと惑星を買うことができた。自分たちだけの小惑星で、二人は思う存分旅行を楽しんだ。

 数週間後、夫は言った。

「ただ仕事をしてテレビを観て、パソコンをいじって休日にドライブをして、晴れた日にはクルージングをして、時々別荘に滞在して、その合間に惑星旅行に出かけるだけの生活はもう……」


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[一言] オチは何処ですか?
2011/01/14 15:36 退会済み
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