後日談その5 ささやかな宴会
書籍発売一ヶ月前記念!
元日に上げる予定でしたが3日以内だからとりあえずセーフ!
29日から書き上げるのはさすがに無理があった……。
それはある行事を行おうとし、その予定を関係各所に聞きに行こうと思った時のこと。
「という訳で舞台の準備はオプスに任せたわ」
「仕方あるまい。スペッシャルな物を用意しておいてやろう」
「よっろしくー」
なんだかいつも以上に浮かれていらっしゃる家長に戸惑うのは娘一人。
同時に感じる「あ、これダメなやつだ」と甦る記憶が全てを物語っている。
自身の誕生日しかり、初めて魔法を使った日しかりだ。
ケーナは数日後の祝い日のため、エルフメイドと猫耳メイドと猫耳執事に料理の準備を頼むと、他の者を誘うべく出かけていった。
エルフメイドはオプスが呼んだものなのだが、元々の主人の指示にはほぼ従わない。
そのため、この家ではメイド長的な地位に収まっている。まあ、今更な話だが。
「ではルカ様。皆で料理を作りましょう」
「料理を、作るの?」
「ええ、ケーナ様が皆様を集めてくださいますからね。きっと騒々しい宴になると思いますよ」
にこやかに微笑んでルカを促すのはエルフメイドのサイレンである。
ルカに慈愛あふれる笑顔を向けながら、背後で食材片手に殺気を飛ばしまくる猫耳メイドと執事におたまを投げるのも忘れない。
さすがこの家のメイド長。下の者への躾も行き届いている。だがその調理器具をぶん投げるのは、誰に影響されたものなのやら。
ケーナが真っ先に訪れたのはフェルスケイロの神殿である。そこにいる息子に会うのが目的だ。
最初に会った頃と違って結婚してからのスカルゴは、母に対しての愛の振り撒きは落ち着いてきたはずである。
たぶん。おそらく。希望的観測として。
ケーナには珍しく大司祭の執務室をノックすると、かわいらしい女性の声で「はい」と返事があり、自動的に扉が開く。
中から現れたのはメイドさん、ではなく侍女であった。ケーナにとっては見知った相手である。
彼女はケーナを確認すると頭を下げ、室内へ「ケーナ様がいらっしゃいました」と声をかけてから部屋へ招き入れてくれた。
「母上!」
キラキラと輝くエフェクト付きで迎え入れてくれたのは、執務机の上にうず高く積まれた書類の山である。
「いらっしゃいまし、お義母様」
部屋の中でお辞儀をして迎えてくれたのは、つい先日にスカルゴと結婚しケーナの義理の娘となったばかりのマイリーネ・ルスケイロ。フェルスケイロ国の第一王位継承者で、現役の王女である。
おかげでケーナの置かれている立場はかなりおかしなものとなってしまった。
まず職業は冒険者。だが各国の王族に顔が利き、大陸を股にかける商人とも太いパイプを持っている。
更にハイエルフという種族。
エルフたちからすれば神にも等しいという王族だ。毛ほどの危害を加えようものなら大陸中のエルフを敵にまわす。
ここに次期フェルスケイロ女王の旦那の母親というのが足される。
親しい一部の友人を除けば完全に腫れ物扱いされるのも仕方がないといえよう。
まあ、今回はあまりそれは関係ない。
大司祭の執務室でくつろぐ王女ではあるが、ケーナの用事を済ます分には丁度よかった。
「マイちゃん朝からここにいたの?」
「いえ、私自身の執務はだいたい終わらせてからきました」
「なんか結婚してから有能になってきた気がするわね」
「そうですか? 自分ではそんな気はしてないんですけど。お義母様にそう言われると嬉しいですね」
「今まで友人だと思ってた子に「お義母様」って言われるともの凄いむず痒いんだけど……」
「こればかりは形式的なものなので慣れて頂くしかありません」
胸の前で手を組んだマイリーネに笑顔で言われれば、ケーナは苦虫を噛み潰した顔で頷くしかなかった。
貴族の慣習といってしまえばそれまでなのだが、何故か納得がいかない。
「それで母上のご用事は?」
書類の山がスカルゴの声で聞いてきたので、見ないふりをしていたケーナもそちらに向きなおる。
「まだ後継者うんぬんって終わってなかったの?」
「いえ、候補生は何人か決まったのですが。今度はその研修方法に困難を極めてまして……」
「研修方法?」
「なにぶん私もどうやってこの地位についたのか記憶が曖昧でして」
「……オイ」
ここにきてゲームだった頃の弊害が現れるとか。ケーナも呆れるしかない。
しかしそれはもうスカルゴの問題なので、ケーナは一切干渉しないことにした。
「ああ、それでねマイちゃん。新年の最初の日って都合つく?」
「スルーッ!?」
「書類の山うるさい。ちょっと黙ってて!」
「……はぃ」
ケーナのあまりといえばあまりな息子の扱いに、マイリーネは苦笑を浮かべる。
「新年の日ですか」
といってもそんなに先のことではない。実のところほんの数日後にはきてしまう。
「いつも通りであれば、城内バルコニーで父が民に向かって新たな挨拶をしまして。そのあとはす、スカルゴ様のありがたい説法ですか」
「ふむふむ。もう結婚したんだから呼び捨てするのも慣れていかないと」
「は、はい。ええと、それが終わったら王都に居を構える貴族たちが挨拶に来ますが、五の鐘くらいまでには終わると思います」
鐘というのは一年ほど前に、辺境の村で鳴り響くことになったものである。
現在、辺境の村では朝六時から夕方の六時まで二時間おきに鐘を鳴らすことにしている。
畑が広がったせいで戻るのが億劫になり、昼食を抜く村人が増えたために設置したものだ。
朝六時に鳴るのが一の鐘。夕方六時に鳴るのが七の鐘だ。
どこをどう渡って広まったのかが不明だが、フェルスケイロの王都やヘルシュペル国でもつい先日から鳴らすことになったらしい。
訪れたケーナもずいぶんと困惑したものだ。
「宴とかはないんだ」
「それは二日目ですね。褒賞会と言いますが、前年に功績のあった貴族や騎士を呼んで褒賞を与えたりするんです。既に召喚状は送っていますので、王都には先日から滞在している方も多いと思いますよ」
「ふーむ。じゃあ六の鐘が鳴ってから夜少しくらいまで、うちでする宴会に出られないかな?」
「お義母様の所の宴ですか?」
「母上の!?」
書類の山をモーゼのように割り、大瀑布を背負ったスカルゴが顔を見せる。
「そうそう。身内を集めたいから、出来れば王様や王妃様やデン助にも声をかけてくれないかな」
「いいんですか!?」
「ちょっとね。今後もうちとの付き合いが続くならば、顔を会わせておきたい馬鹿がいるからね。今のうちに免疫をつけておいてもらえればと」
「は、はあ……」
「ま、軽い顔合わせだと思えばいいよ」
「わかりました。お父様たちにも伝えておきます」
「うんよろしくぅ。あ、当日はゴテゴテ飾り付けた格好で来なくて平気だと思うから。こっちは平民ばっかりだと思うし」
「は、あ」
平民どころの話ではない筆頭が目の前にいるのだが、そこに突っ込むと負の闇黒スパイラルに足を踏み入れることになると経験しているマイリーネは、言葉を飲み込んだ。
「母上はこれからどちらへ?」
そのまま手を振って部屋を出ようとしたケーナにスカルゴが問い掛ける。
「マイマイに伝えたらヘルシュペルに飛ぶわ」
「え……?」
その返事だけでだいたい誘う人物が読めたスカルゴは困惑する。固まる夫には気付いていないマイリーネは少し考えていたことを聞いてみた。
「お義母様! もしかしたら護衛無しだと出歩けない可能性もあるのですが」
「じゃあ騎士団長くらいなら大丈夫よ。あれも身内カテゴリーにはかろうじて入ってるから」
「はぁ、わかりました。それも聞いてみます」
ケーナは「じゃあ当日にお城の方へ迎えに行くからねー」と声をかけてからマイマイの所へ向かった。
ただ学院が休みだったため、王都内のどこかにある男爵家を探し出せずに、再び神殿に戻ることになってしまったのは余談である。
━━━でその当日。
ヘルシュペルでケイリナとケイリックを会場へ連れていった(イヅークも一緒にと誘ったが、サカイ家を空けるわけにはいかないと断られた)あと、フェルスケイロ陣を迎えにお城へ行った。
王様のトライストと王妃のアルナシィ。王女のマイリーネと王子のディオルク。大司祭のスカルゴと護衛役の騎士団長のシャイニングセイバー六人を、まとめてパーティ会場まで転移で運び込む。
マイマイとその夫のロプスは、すでにオプスが輸送を終えていた。
その会場に降り立った人たちがまず目にするのは、足元に広がる緑の大地だ。
そこにあるのだとは信じられない透明度を誇る床である。
空中に放り出されたのかと誰もが錯覚し、「ううわあああああっ!?」と情けない悲鳴をあげ、尻餅をついてから、手探りで床を確かめるという行動をとってしまう。
そして周囲から向けられる視線に自分を取り戻し、生暖かい目で自分も通った道だと声をかけられる。それを発端として無理なく談笑を始められるところだ。
誰もが同じ経験をしたという安心感から、自分が感じた心境をついつい喋ってしまうのである。
相手も同じならばなんの気兼ねもすることはない。
「ホレ見ろ。我のこの計算された計略に、身分の壁は取り払われるのじゃ」
「もうちょっと限度ってもんがあるでしょーが!」
ケーナに殴られてブッ飛ばされるまでが、オプスの計算の内であればだが。
ここはフェルスケイロの王都からエッジド大河をやや遡った森林。の、二百メートルくらいの高度に設置された、床が透明なドーム型の宴会会場である。
会場の作成と場所を設置したのはオプスだ。
なんで空中に浮いてるのかと尋ねれば「いや、この空間に“繋げて”あるので、落ちたりはせぬぞ」ということらしい。
この説明にはケーナ以外の誰もが首を傾げたが、「遺失魔法」と説明したら誰もが納得した。
ちょろいものである。
「ひ・さ・し・ぶ・り・で・す・ね、お母様。ごぶさたしております」
「え、ええ……」
「ええ、母様とお会いするのは、ひい、ふう、みい、よう……。何年ぶりでしょうか?」
「は、はは……」
早速会場の片隅では、うん十年ぶりに顔を合わせた母と双子の姉弟が火花を散らしている。
あそこの空間だけやたらとおどろおどろしいのは気のせいだろう。
「というか、あの子は子供の顔を何年見てないのかしら?」
「それはお袋がいう言葉でもないと思うぜ」
「あー、そうね。ごめんなさい」
ついつい呟いた言葉をカータツに拾われ、謝ってしまうケーナであった。
「これで全部かよ」
「まあ、身内という意味ではたぶんね」
「えーと。フェルスケイロの王族に、ヘルシュペルの大商人に、オウタロクエスの王族もいるんだが……。声をかけるのも畏れ多い面子ばっかりなんだが……」
「そこはもう、しらないふりして接するのが一番よ」
「…………ああ」
何言っても無駄だと悟ったカータツの諦めは早かった。
母親の人徳? ハイエルフ徳に突っ込みをいれているとキリがないとカータツは理解している。
会場の広さは直径百メートルほど。十数人程度のパーティ会場としては広すぎるくらいである。
それは壁際に並んだ遊具の数々を見てもらえれば、広さは気にならない。一つ一つが大きいからだ。
中央には立食パーティ用に白いテーブルクロスのかけられた丸いテーブルが幾つか並び、その上には色とりどりの料理が並んでいる。
既存の料理だけではなく、スキルでしか作れない物珍しい物も多い。
サイレンたちもきちんと料理スキルを使えるので、それ以外はルカが主導して作ったと聞いている。
それらを見ながらケーナはうんうんと頷いた。
あちこち飛び回っているから、こうやって目に見えるルカの成長は嬉しいものがある。
「伯母さま。先に始めさせてもらっています」
「うん、構わないよ。楽しそうねサハラシェード」
「ええ、たとえ一時でも政務から離れられると思うと」
口から物理化した「ふ」が垂れ流されるのを見て、ケーナは苦笑いをする。
どこも現状は変わらんのだなあ、と。
実のところサハラシェードに関しては呼ぶ予定ではなかったのだが、オプスが連れてきたのだ。
サハナとは犬猿の仲なのに、娘にはその感情はないようだ。ちょっと気を使ったケーナは取り越し苦労だったみたいだ。
サハナはというと連絡はしてみたのだが、返信が来なかったので参加が見送られた。
そのままサハラシェードを引き連れてフェルスケイロ組に合流する。
「おお、ケーナ殿。ここの料理は素晴らしいな! 可能ならば料理人を引き抜かせてもらいたいところだ」
「あ・な・た?」
「あ、ああ、いや、ウン。もちろん冗談だと理解してもらえるとありがたい」
さっそくトライストとアルナシィの夫婦間の上下関係を披露するくらいには、リラックスできているようだ。
ケーナもなんといったらいいものかと苦笑するしかない。
その横から一歩踏み出したサハラシェードは軽く一礼する。
「おひさしぶりですね、フェルスケイロの王よ。先日の件ではそちらのお手を煩わせてしまい、深くお礼を申し上げます」
「これはこれは、サハラシェード女王ではありませんか。このような場所でお逢いできるとは。先日の件では失礼いたしました」
政治のことには関与しないようにして、サハラシェードがこの場にいることを疑問に思っているであろうトライストたちに紹介する。
「サハラシェードは私の妹の娘なのですよ」
「なんと!?」
「まあ!」
「ゲームの中の妹分だがな!」というのには触れずに。
招待した側ではあるが、王族同士の面倒な会話には巻き込まれたくないケーナは紹介もそこそこにその場を離れる。
だいたいこれは身内の集まりだし、無礼講だし、そこまで付き合えるほど修羅場はくぐってないし。
心の中で言い訳をしながら、人が固まってるところを避けて端のテーブルで料理を摘まむ。
会場で忙しく歩き回ってるのはサイレンたちだけである。
各個人のお世話は焼かなくていいと言ったが、料理の運搬と片付けは任せてしまっている。
後日2~3日の休暇を設けると言ったが、本人たちは休暇に好きなことをするイコール仕事なので、オプスが山奥に作った温泉別荘要塞にでも放り込む予定だ。
皆があちこちでおもいおもいに談笑する様子を眺めながら、料理をパクパクと食べているケーナに近付く者がいた。
「どしたの、シャイニングセイバー?」
「護衛だと言われたが場違いすぎて、どーすればいいかと迷っている」
銀の竜人族が白い鎧を着て立っていれば物凄い目立つ。
呆れたケーナは「ここに敵なんかいないでしょーよ。私服くらい持ってるでしょ。着替えたら?」とシャイニングセイバーを促した。
「形式的なものだからな。脱ぎはせん。盾と剣は消しておこう」
武装だけ解除したシャイニングセイバーはようやく料理に手をつけ始める。
しばらくは無言でひょいパクひょいパクと二人の食事風景だけが流れていく。
少し離れたところでは二人の様子を固唾を呑んで見守っている数人がいたが、気の張っていないケーナは気付かなかった。
ケーナの中のキーはそれを観察していた。
「なあ」
「なに」
「そろそろ俺たちの関係の誤解を解きたいんだが……」
「ああ、あれね。あれに関してはアンタがいきなりお姫様だっこなんかするからいけないんでしょーが!」
「いや、あん時はすまんかった。反省している。悪かった」
あの行動自体もシャイニングセイバーの悪のりがあったようで、後々までに続く影響を考えもしなかったようだ。団長という立場なんだから、部下からどう見えているかも自覚してほしいとケーナは溜め息を吐く。
「あ!」
「なんだ? どうした?」
「いっそのこと本当に付き合ってみるとかどう?」
「………………は?」
シャイニングセイバーがフリーズし、こちらを窺っている一団から金色で青いのが飛び出しかけたが床に引き倒され沈黙した。不幸な事故である。
口元に怪しげな笑みを浮かべたケーナがすっ、とシャイニングセイバーへ寄り添う。
ビキッと音がして石膏細工のような人形になりかかった銀の竜人族が硬直した。
「いやいやいやいやいやいやいやまてまてまてまてまてまて!」
「同じプレイヤー同士、とてもいいお話だと思うのだけど。どう?」
「ふひっ!?」
ピーっと鳴るヤカンのような音を出しながら真っ赤になったシャイニングセイバーがひっくり返った。
目撃した全員が呆れかえる中、音も無く近づいたサイレンが濡れタオルを頭に置き、毛布を掛けて離れていった。介抱するまでのサービスは無いらしい。
「これはこれで傷付く反応だわ……」
「まさかシャイニングセイバー殿が女性の誘惑にここまで弱いとは知りませんでした」
マイリーネがとても驚いた表情で倒れたシャイニングセイバーを眺めている。
フェルスケイロの貴族は人族が多く、夜会などで警備に駆り出されても人気なのは人族の騎士のようだ。
竜人族のシャイニングセイバーは貴族のお嬢様方の嗜好の範疇外らしい。
そのためこういった本気混じりの誘惑に耐性がなかったようである。
心底残念そうに溜息を吐いたケーナにオプスが近付いて「どれくらい本気じゃった?」と聞いていた。
「んー。70パーセントくらいかな?」
「そうかそうか。何を選ぶにしても我らは関与せんからな。好きにせい」
「ほいほい、りょーかい」
頭の中でもキーに同じことを言われ、ケーナは「なるほど」と呟く。
守護役たちにはその時その時の人生に、そこまで制限をかけるようなことはしないみたいである。
食事を再開しようとしたケーナは別の者に腕をがっしり掴まれた。
「あれ、アルナシィ様どうなさったんです?」
「あちらにあるものなのですけれども、使い方が知りたくて。教えていただけますか?」
「あちら?」
ケーナが首を巡らせれば、少し離れたところにある巨大なUFOキャッチャーに王族二人が固まっているのが見えた。
ここにあるものはオプスが用意したものなので、全ての使い方をケーナが知っているわけではない。魂パスでオプスに呼びかけつつ、ケーナはアルナシィに引っ張られるようにそこへ向かった。
「あ! お義母様。これはどうやって使うのですか?」
「……」
喜色満面のマイリーネと仏頂面のディオルクに迎えられる。
彼女らの背後にあるUFOキャッチャーは、家が一軒丸ごと入るようなガラス張りの容器にアーム操作用のコンソールが取り付けてあるような代物だ。
ガラス張りの中には、まるっこくディフォルメされた動物のような人間大のぬいぐるみが、ところ狭しと詰め込まれていた
ただ、上の稼働アームの先には景品を取るようなカギ爪のようなものは見当たらない。
ワクワクしているアルナシィとマイリーネには担当者が来るまで待っていてほしいと言っておく。
ほどなくしてやってきたオプスは、傍でぶつくさ言っていたディオルクを引っ掴み、稼働アームの高さまで飛んでいった。
そして本来はカギ爪がついている場所へディオルクを結びつけると、下へ降りてきた。
上の方では即席の景品取り機にさせられたディオルクが「降ろせー!」だの「このクソヤロー!」だの喚いている。
そして使用方法を説明すると、別の機械の前で首を捻っているトライストとスカルゴの方へと歩いて行った。
別の所ではサハラシェードとルカとケイリナが弓を使った射的に興じているようだ。
標的が十字に張り付けられたオークだったり、ホーンベアだったりするが。些細な出来事である。
UFOキャッチャーの方は手元にある上・下・右・左と矢印表示されたボタンを押して、ぶら下げられた哀れな人員がアーム代わりに景品を掴めばいいだけであるようだ。
下からその説明をされたディオルクは母親と姉には逆らえないのか、観念した表情でぐったりしていた。
「この矢印に触れながら魔力を流せばいいのね」
「頑張ってください。お母さま」
ようは一般に普及されている魔道具と同じようにすればいいのであるが、そこはかとない不安がケーナの胸中に宿っていた。
左の矢印を押しながら魔力を込めたアルナシィではあったが、稼働アームの方は瞬時に指示された稼働範囲の限界へと動いた。
つまり残像が残るような速度で左端まで移動した。
その結果、固定されておらずぶら下げられているだけのディオルクは、その勢いでガラス張りの壁に叩きつけられることに。「グペッ!?」という珍妙な悲鳴と、ビシャという音と共に上の方から聞こえていたディオルクの文句が聞こえなくなる。
「あー……」
オプスのことだから安全性には問題ないだろうが、これは想定してしかるべきだった。
一般で普及している魔道具というのはほんのちょっとの魔力で動くようになっている。
大抵は原動力となる魔石がはめ込まれているが、いつも動かしていればすぐそれを使い切ってしまうためオン・オフが必要となる。
それは使用者がちょっとの魔力を流すことで代用してるため、一般民は子供でも魔力の加減が分かっていた。
貴族そのものに普及している魔道具というのはそれほど多くない。ほとんどは従者や侍女が使っているだろう。そのため貴族王族はちょっとの魔力加減には不向きな者が多い。
もちろん普段から魔法を使い慣れてる者はそういった加減を習得している者はいるだろうが、いかんせん一般の魔道具を直に使う者はほぼいないだろう。
飛び上がったケーナがディオルクを救出すると、怪我はこぶくらいで目を回しているだけだった。
アルナシィがずいぶんと焦っていたが、チョップで沈静化させたケーナはこういった魔道具の危険性を伝えておく。だいたいさっき使用方法を説明したオプスも「ちょっとの魔力でいい」と言っていたのだからして。
ロクシーヌの簡単な応急処置で目覚めたディオルクは、それ以降母親と姉には近づかず、トライストとスカルゴと行動を共にして、ゲームセンターばりの機械群を遊び歩いていた。
UFOキャッチャーにはケーナがとりあえず手の形をしたゴーレムを取り付け、その後は遊ばれていたようだ。2~3回ゴーレムをぶっ壊されたが、その後のアルナシィたちはちょっとの魔力を習得したようで、幾つかのぬいぐるみをゲットしていた。
少し離れた席で、ちょっとした騒ぎに安堵しつつ、ケーナはオプスとワインの入ったグラスで乾杯していた。
「ゆかいな日常に」
「まだまだ続く予定じゃがな」
チン、と鳴る音が二人には何かの始まる合図に聞こえたという。
誤字報告して下さった方々、ありがとうございました。
子供の頃は伊達巻を一本丸ごと食べてみたかったのですが、それが叶うと一本一万五千円の伊達巻はどんな味なのか凄い気になります。