後日談その2 母の日について。兄弟会議
以前某氏に送った小話です。
あれから一年近くも経ってしまい、執筆の目途も立たないので少し修正してここで公開することにしました。
時期が大幅に違いますけれど、楽しんでもらえれば幸いです。
「おう、なんだよ兄貴。いきなり呼びつけて」
「私も暇じゃあないんだから、手早く済ませてよね」
自室にカータツとマイマイを招いた(強引に呼びつけたともいう)スカルゴはもったいぶったように深呼吸をしてから話し始めた。
「2人を集めたのは他でもありません。叔父上から興味深い話を聞いたのです」
「叔父様から?」
顔を見合わせる弟妹。
脳裏に浮かぶオプスはおどろおどろしい背景を背負った魔王のようなイメージである。
もちろん母愛に満ちたスカルゴ主観ではオプスは天使に近いイメージがあり、2人と奈落のように隔絶した溝があるのに気づいてはいない。
「なんでもかつて母上殿が育った場所には『母の日』なる催しがあったとか」
甘いものをうっとりとテイスティングするようなスカルゴの様子に、カータツとマイマイは苦虫を噛み潰したような渋い顔になる。また兄貴の母親暴走節が始まったと内心シンクロ溜息を吐いた。
「……で、それってどういう祭りなんだよ?」
「お母様の誕生日、って雰囲気じゃないわよねえ?」
生粋(かどうかは神のみぞ知る)のリアデイルっ子である2人には馴染みのない言葉である。リアデイルには母の日どころか父の日も存在しないので、知らないのも無理はない。
「産んでくれた母上殿に極上の感謝を捧げ、日頃の苦労をねぎらうべく子供たちが食事を作り、それを母上殿に振る舞う日だというのです!」
「「日頃の苦労?」」
あの自由奔放に振る舞う母親に日頃の苦労というのは当てはまらないんじゃないかと首を傾げる弟妹。どちらかというと長兄が周囲に与える苦労の方が酷いんじゃないかと思ったが、言うだけ無駄である。
極上のシンフォニーと天から降り注ぐ神秘の光に包まれた教祖がデスクの上に仁王立ちになる。さらにその周囲にはファンファーレのラッパを鳴らしながら天使がくるくると回る。
言うまでもなく【薔薇は美しく散る】のスキルエフェクトである。
言うまでもなく弟妹はばっさりスルーである。
そしてカータツは手を上げて発言を求めた。
「すまん兄貴。それはとてつもない穴がねえか?」
「何故です? 計画は完璧ですよ!」
「まず子供たちって言うならば、ルカも必要よね」
「うっ!?」
容赦なく兄の胸の内を抉るマイマイ。
兄に対する手心という単語は彼女の辞書にはない。
「あと手料理って、オレ等に料理スキル持ってるやつはいねえし。まともに料理作れるの姉貴だけじゃねえ?」
「うぐっ!?」
弟も兄に対して遠慮がない。
もともとドワーフはそんな気質である。
「「あと兄さん(兄貴)この王都から動けるの(か)?」」
「ごふおっっ!!」
2本の槍がデスクにスカルゴを縫い付けた。
痛恨の一撃。
スカルゴのHPはゼロになった。
「さて、帰るか」
「そうね、書類もたまってるし早く戻らなきゃ」
その場に残ったのは打開策もなく、滂沱の涙を流す悲しい男がひとりだけであった。
どっとはらい。