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62話 有志、集結す

 



 ――― ある村ある所にて


「ちょっ、ちょいとアンタ、いきなり昔のものとか取り出してどうする気だい?」


 村に唯一ある道具屋のカミさんが、出会った頃のように武装をし始めた夫を見て声を荒げた。 家のどこにこの様なモノが仕舞ってあったのかと思われる全身鎧に大剣、かつて途方に暮れた顔でふらりと現れた彼が纏っていた装備だ。 如何なる手段に依るものか、傷どころか埃にも汚れていない。


「ああ、ワリィ。 ちょっと行かなきゃなんねーみてぇなんでな」


 まるで隣家に農具を借りに行くみたいに、気さくな態度をとる夫の背には何かの決意が宿っていた。 所帯を持って早十数年、初めて見る夫の態度に妻は戸惑う。 いや、会ったばかりの頃、村の近辺で魔物が見掛けられた時に退治を請け負った昔の夫がそうだったのではないか。


「まあ、何日か家を空ける事になるが、ちゃんと戻ってくっから心配すんなって」


 子供をあやすようにポンポンと頭を撫でられ、妻は既視感を感じて顔を上げた。 あの時のように、子供みたいな笑みを浮かべた戦士がそこにいた。 髭面のオジサンに変わってはいたけれど、懐かしむようににじんだ涙を誤魔化した妻は、夫の顔面に平手打ちを放つ。


「あタッ!?」

「ふん! アンタが居ないとこちとら商売上がったりなんだからね。 とっとと帰っておいで!」

「おーいてぇ……、あの純朴なお嬢さんはどこ行っちまったんだかなぁ」

「グダグダ言ってないでさっさと済ませてきなっ!」


 スリコギ棒を振りかざす妻から逃げ出し、夫は笑いながら外へ。 窓越しにひらひらと手を振った夫は懐から取り出した石(緊急イベント用のアイテム)を握りつぶした。 光と化した夫が西へ飛んで行くのを見て、妻は手を組んで祈った。 昼頃に村の上に現れた天使が関わらない神に。



  







 ―――― ある森の入り口で。


「それでは」

「ああ、気をつけてな」


 見た目年若い女エルフと老いたエルフが言葉を交わす。 出立しようとしているのは革鎧を着込み、腰に細剣と短い杖をぶら下げた黒髪の女性。 見送るのは白いひげを腰までたらし碧色のローブに身を包んだ老エルフ。 二人とも耳は先端が少し尖るだけのハイエルフ族であり、この森は彼等の住まう異界“深緑の森”に繋がる場所だ。


「もし同族に出会えたのなら、森に戻れと言っておいてくれんか?」

「その人の頑固次第によりますねー。 でも一応勧誘はしておきますが、一人も来なかったからって恨まないで下さいよ?」

「それはしかたあるまい。 またの機会にじゃな……」

「あんまりしつこいと嫌われますよー」


 祖父と娘のような会話を楽しむように笑いながら背を向けた老ハイエルフは【森よ開け(フォレスト・ノッカー)】を使い、開いた扉の中に姿を消す。


「はー、やーれやれ、出たら出たで色々とやる事あるわねぇ」


 それを見送った女性はうんざりと呟き、懐から石を取り出すと握りつぶす。 瞬時にその身を光の矢と化し、西南西へ向かって飛んで行った。



  

  






 ――――ヘルシュペルの西にて


「あー、キミ、その行為ちょっと待ってー!」

「ん?」


 騎士団長とケイリナに許可を取り、王都防衛から外して貰ったコイローグ。 彼は西門から離れた街道にて、取り出した石を握ったところで声をかけられた。 振り向くと片手を上げて駆けてくる猫人族(ワーキャット)の少年型。 その種族には珍しい金属鎧を重厚に着込み、ガシャガシャと音を立てて近付いて来た。


「はー、御同輩がいて良かったー。 キミ、プレイヤーだよね?」

「ああ、コイローグだ。 そう聞いて来るってことはアンタもか?」

「うん、僕はヒルネル。 緊急用の転移アイテム切らしちゃっててさー、一緒してもいいかな?」

「分かった、パーティー登録要請をこっちから出す、確認してくれ」

「ありがとう」


 双方が自分のウィンドウを開き、パーティー登録を済ませる。 それをしっかり確認したところでヒルネルはホッとひと息吐いた。


「いきなりの運営呼び掛けで緊急ミッションだもんねー、びっくりしたよ。 まだこっちにも運営出来る人とか残ってたんだねー」


 運営と聞いてコイローグがピンとくる該当者は二人だけだ。 間違ってはいないのだが普通のプレイヤーだったコイローグにとって、GM権限持ち=運営関係者という認識である。 会ったのは一人でしかないが、その言動からはもう一人が確実に存在していると確信できた。


「GM権限を持ってる奴なら二人知っている」

「ええっ!? それ本当? “くりーむちーず”とかこっちにいるなんて初耳だよ。 コイローグは会ったことがあるの?」

「……『魔女と策士』だな」

「ぶっ!? よ、よく無事だったね……」


 コイローグやヒルネル等の一般的な中堅~初心者プレイヤーにとって、廃人プレイヤーの中でもあだ名で呼ばれる者達は危険性のある爆発物みたいなものである。 ――正面きってケンカ売った挙げ句、身の程を知らされて殺される寸前だった――などとは言えず、強張った笑みで「あ、ああ、まあな……」と対応するコイローグ。 そんな表情から何かを読み取ってくれたらしいヒルネルは、「ドンマイ」と肩を叩いて慰めてくれた。 初めて同郷人に気苦労を労ってもらったコイローグは、涙ぐみながら石を握り潰した。 








 ――――現場


 オプスが陣地とした場所。 フェルスケイロから伸びる街道と、大陸の海岸線を南北に繋ぐ通商外殻路が交わる所へ、先端がパラボラアンテナとなった鉄塔を設置した。 これがゲームをやっていた頃、緊急ミッション用の転移石の受信アンテナである。 ちなみにマイマイ達はオプスが鉄塔を建てる前にフェルスケイロへ【転移】させた。 アークはプレイヤーの立ち位置にあるが、レア武器のお陰で他のプレイヤーと顔を合わすのを嫌ったためだ。 多少の後ろめたさはあったようだが、エクシズ(シスコン)が『姉貴の分まで俺が受け持つ』と力説して強引に追い返した。


「これ、プレイヤーに混ざっていた運営の回し者(オプスとか)が建ててたんだねー」

「我の他にも何人かおったからの」


 そこへ南や東や北から幾つかの光が飛んできて、鉄塔の近辺に何人かのプレイヤーが降り立つ。 既に真っ先に飛んできた者が場を取り仕切り、幾人かがぼちぼちと現れたプレイヤーに声を掛け、レベル帯や前衛と後衛別に臨時のパーティーを組んで貰っている。 この辺のテキパキとした行動は当時と変わらない。 プレイヤーが幾人か集まると、必ずそういった才能を発揮するものは居るからだ。 現在この場に参上しているプレイヤーはパーティーごとに別けられているが、パーティリンクという機能で繋がっている。 誰か一人が範囲防御魔法でも使えば、全員がその恩恵を受けられる仕様だ。


「それでも二十人弱ってところか……」

「こりゃ包囲戦は無理だな。 周囲を封鎖したまま突撃、蹂躙するのが関の山だろう」


 『作戦本部』と書かれた板っきれを咥えた白竜の足元にはケーナとオプスの他、二名のプレイヤーが額を突き合わせていた。 白竜自体は事前にケーナが喚んでおいたものである。 一応何かあった時のためにオプスとケーナで召喚強度九にして七竜を揃えてある。 オウタロクエスへ伝令で飛ばした緑竜はキチンと女王サハラシェードの手紙を携えて戻ってきた。 それを一度送還し、再度最大レベルで召喚し直した。 各竜もそれなりに補助に長けたエキスパートであるからだ。 白竜は全体回復魔法の専門であるし、黒竜は全体攻撃に優れている。 ソロで行動する時は、この二種類でも居ればかなりの戦果を上げれる布陣であった。 それに二人であれば時間や制限に囚われず召喚獣を維持できる利点もある。


「限界突破が居てくれて少しは助かるぜ」

「しかしまあ、アナタ達二人が揃っているところを見た時は寿命が縮みましたよ」


 赤い全身鎧を着込んだ人族(おっさん)のプレイヤーがイェーガー。 かつて赤の国所属、ゲーム内で大御所だった“銀時計”ギルドを率いていた人物である。 そこのギルドに所属していた人数はリアデイルでも最大数の二千名以上と言われ、集団戦闘が必要なミッションクエストやストーリークエスト攻略組の筆頭に位置していた。 基本立ち位置は前衛向きな八百レベル台である。


 ローブを着込んで杖を持った青い竜人族(ドラゴイド)がシュピラール。 補助を得意とした後衛職で、こちらもレベル八百台だ。 前衛有望な種族を選びながら後衛専門に特化した変り種であり、同じような変り種プレイヤー(図書館探検専門司書職や穴掘りにゲーム人生を賭けるドワーフや絶壁生息者等)で構成されたギルド“古文書横丁”のリーダーでもある。 変り種の集まりから横繋がりの情報網は、ゲーム中でもコアな情報(ネタ)を扱う部門でもあった。


「問題は中に何がいるかよね?」

「あん? 魔界仙界がこっちに混じってるワケじゃねーんだから、高くても精々六百レベルってところだろう?」

「いやいやー、大陸でも最上級だと『魔王の末裔』とかいますよ~。 あれが居たら洒落にならない……」

「おお、黒の国の地下にいた奴か。 そのうんざりした様子だと戦ったことがあるのか? 初耳だぞ」

「あー、聞いたことがある。 地下迷宮の主って奴だろう?」

「九百レベル台の時に私とエベローペさんとメッシュマウト、タルタロスとワラバンシにサンちゃんで行って全滅した。 一応勝ったといえるかもだけどねー」


 興味深そうなシュビラールは、『全滅』と聞いて顔を引きつらせる。 腕を組んだイェーガーが「相撃ちで全滅したのか?」と聞くが、首を振ったケーナは暗い表情で項垂れた。


「全滅しそうになったから最終手段を使った」

「ほほう、アレを使ったのか。 それは確かに……」


 一人で納得し、うむうむ頷くオプスに疑問の視線が集中する。 それを受けたオプスは涼しい顔でケーナにアイコンタクト、内容を語っていいものかを伺う。 それにあっさりとケーナが頷いたので代わりに解説を入れた。


「【特殊技能(エクストラスキル):自爆】じゃな」

「「自爆ゥッ!?」」


 そんなもんがあるなんて初耳だ、とばかりに驚くイェーガー。 知ってはいたが習得前提技能がかなり多方面に及ぶので、必要性を感じていなかったシュピラール。 【自爆】とは数ある広範囲攻撃技能の中でも最大級の威力を誇るが、それも使う者のステータス次第と使い勝手の悪さがある。 威力は、【次レベルアップに必要な保有経験値×(術者のレベル+残量HP+MP)】で算出されるので、高レベルのケーナが使えば折り紙つきだ。 デメリットは術者死亡の上にレベルダウン、効果無差別なので瀕死のパーティーメンバーもケーナが潰したことになり、全員が結局死に戻りである。 なおかつ攻撃範囲が術者レベル直径のドーム状だったので、ダンジョンの真上にある黒の国首都に滞在していたプレイヤーのほとんどが巻き添えを食って死亡している。 この件に関して討伐メンバーは固く口を噤んでいたので、この『黒王都内突然死』事件はリアデイル七不思議のひとつとなっていた。 メンバー以外でこの事件の背景を知っていたのは、運営側だけである。


「あれはイベントモンスターではなく、固定モンスターであるからココには混じっておらん……と思うぞ」


 こんなところで「集めたのは我だし……」などとは言えないため、推測を述べる程度に留めるオプス。 実際彼自身もここにどれだけのイベントモンスターをかき集めたのか、把握していない。 と言うのも、予めイベントモンスター発生地点にマーカーを設置し、湧いている湧いていないにも拘らず全部を廃都と繋げたからである。 その後は召喚獣に丸投げしていただけなのだから、中でモンスター達がどのような生態系を取っていたかは不明であった。 などと表立って口に出来ないオプスの思惑をよそに話は進む。


「全員飛ばされた時期がばらばらだからな、幾らか歳をとってここに順応しちまうと戦うのも難しいと思うぜ」


 感慨深そうに言うイェーガーに、周囲で話を聞いていたプレイヤーの幾人かが同意するように頷いた。 集まった者の中にはこっちの世界で過ごす先輩プレイヤーに会ったのが居て、一緒に行こうと誘ったのだが「未練が出来たので無理」と断られてしまったとか。 確かにルカを残すことを思えばケーナも心境は分からなくも無い。 そのイェーガーですら待たせる者が居るというのだから、そのあたりはやはり個人的なモチベーションの差であろう。


「俺はアレだ。 多人数の面倒見るのは慣れているからな、生徒会長と思えば気は楽だ」

「限りなく学校の雑用ポジションじゃないですか、それ……」

「部下は優秀だったからな、ある程度の指令出せばフォローはサブギルドマスター達(あいつら)がやってくれたしな」


 そこへ多少汚れた様子のエクシズがやって来た。 小規模のパーティーを組んで入り口の番をしてもらっているのだ。 現在の廃都は既にアージェントが消滅している状態である。 【障壁】の外側にケーナが【遮断結界】を張った後、オプスが召喚状態を解除したためだ。 都市正面のみに出入り口を設けた状態で、そこから突出してくるモンスターを退治する役目を受け持って貰っている。


「どんな状況?」

「人は増えたんで多少の余裕は出来た。 しかしケーナの言ったような系統の、恐竜や魔導士型のモンスターはまだ見ていない。 大体が三百~四百の一般クエスト分類のものばっかだ」


 手に負えるモンスターなら倒して、後の数を減らす算段である。 現在この場にいるプレイヤーは全てパーティーリンクされているので、多少の割合変動はあるが、誰かがモンスターを倒せば全員に微量ながら経験値が入る仕組みになっていた。 矢面に立つ者と立たない者の差は出るので不満を零す者はいるだろう。 参入したプレイヤーは話を聞いて、腕に自信のある者はそちらに回っている。 蘇生魔法の使い手が控えているものの、率いるクオルケには『実際使用は確認していないので無理はしないように』と通達してもらっていた。 その場に集まっていた者で前線に加わりたい希望者を連れ、エクシズは元来た道を戻る。 数人を半分に分け、万全の態勢で入り口を封鎖するためだ。


「そっちの孔明殿はこういったのは専門だろう?」

「あー、むりむり。 基本的にオプスは『待ち』『ハメ』『騙し討ち』が常套手段だしね。 課金アイテムも無いからどっちの戦法も取り辛いし。 パーティー戦はギルド(うちの)基本“レベルに任せて絨毯爆撃”だったしねー、戦略なんて無かったわ」


 見も蓋も無いことをぶっちゃけるケーナにイェーガーとシュピラールは溜め息を吐いた。 ゲーム中でも戦争時期を除けば付き合いも普通だった二人にとって、パーティーを組めば後衛を二人三人揃えずに単独で済むケーナの存在はかなりの便利屋であった。 それが攻撃一辺倒に傾けば極端な方向に、しかもギルド全員が一丸となればそこにはもう破壊力に特化した一団でしかない。 「分かりきっていたことを今更言われても……」と二人の感想としてはそれくらいである。 “リアデイルの孔明”にも期待していなかったわけではないが、戦争の前後には姿を隠すような人物である。 それが涼しい顔をしてココにいることを鑑みて、あまり期待をするものではないと理解はしていた。 


「うん、こりゃあもう普通の突撃戦だな。 対処は相手のレベル枠に合わせてパーティーを組み替えるか?」

「中堅レベルの者だと前衛に偏っていますがね、その辺りは後衛が一段階下がることになるでしょう」

「つーか、後衛職が少ないとゆーか、少なすぎるわ」

「後期の頃は前衛に転向するという方に風が向いていたからの。 多少便利なアイテムが出たりしてのう」


 シュピラールが現在のパーティーリンク状態図をウィンドウに表示させ、イェーガーと分担し各プレイヤーに組み替え指示を出す。 現状司令部はここの四人が務める形にはなっているが、オプスとケーナはどの場面でも臨機応変に当たれるため全体の後衛ポジションになっている。 最前線に立ててしまえば済む話だが、他のプレイヤーが難色を示した為に後衛に回される事となった。 前衛の司令塔をイェーガーとシュピラールが務め、後衛の司令塔をオプスとケーナが務めるということで話はついている。 ゲームだった頃は特殊エリアを除けば、モンスターの最大レベル上限が六百だったからである。 勿論幾つかのクエストにも例外は存在したが、その場合は悪代官付きの用心棒の如く限界突破が矢面に立てばいい。





「ああああああ───っ!!?!」


 いきなり上がった絶叫に、周囲に居たプレイヤー達が何事かと発生源に振り返る。 今しがた降り立ったばかりの受信アンテナの下、黒髪のハイエルフ女性がケーナを指差して驚愕していた。


「ありゃ……」

「ほう」


 その顔に心当たりがあった二人、ケーナの顔に笑みが浮かび、オプスが無表情に変わる。 ダッシュしてケーナに駆け寄ろうとした黒髪ハイエルフの女性は、瞬時に割り込んだオプスが足を引っ掛けたことにより、ケーナの足元へ顔面からスライディング。 悲しみと嬉しさを混ぜた表情で滂沱の如く涙を流していた。


「おねええぇさまああぁ~」

「ちょっと大丈夫、サハナ? オプスも毎回止めなさいよねそれ……」


 周囲でオプスの行為に非難が飛ぶ。 一部の者は「毎回やってたんかい」と呆れ、ケーナが手を引いて立たせたサハナに同情の視線を向けた。 土埃を払ってケーナに向かい合ったサハナは涙を拭い、ひしぃっと抱きついた。 はたから見ると姉妹の再会劇のようだ、義姉妹の上にサハナの方が年上っぽいが。


「シュピラール、強力な後衛助っ人が来たわよ」

「ハイエルフコミュの者だな、これで少しは充実しただろう」


 抱きつかれたままのケーナがシュピラールと言葉を交わす。 かつてのハイエルフコミュの三女、サハナ。 長身黒髪黒目のハイエルフで補助魔法の専門家、コミュ内でも傍迷惑な程の長女(ケーナ)傾倒派で八百五十レベルである。 ゲーム後期の時点ではメンバー六人が八百レベル平均な、ゲーム内でも有力な後衛の集団だった。 後衛しかいないメンバーでこの脅威、というのも前代未聞である。 

 少し待って、シュピラールがサハナにかくかくしかじかと現在のパーティー割合を説明、快く前衛側補助役の了承を得られた。 拍子抜けするくらいあっさりと。


「いや、ふたつ返事で受けてくれるとは思わんかった」

「お姉様の手を煩わせることなんてありませんわ! 私が全力を以って面倒見ます!」


 その猛々しい気合の入りように周囲のプレイヤーが引くくらい。


「ま、まあ、絶対とかはないから気をつけてね? ちょっとでも苦労すると思ったら前衛纏めて飛んじゃっていいから」

「はいっ! 分かりましたわお姉様!」


「大丈夫か、こやつ……」


 オプスの呟きに「お前が言うな」と言う殺意の視線が返って来る。 どうやらケーナに出会えた嬉しさで有頂天になっているわけではないようだ、とオプスは一安心する。 そこへサイレンが近付いてきて恭しく一礼。


「とりあえず今回はこちらの方々で最後のようです」

「ん、ご苦労であった」

「え、あれ?」


 サイレンにくっついてきた四人の一人、騎士鎧で装備を固めた魔人族を見て瞠目するケーナ。 彼に同行していた重武装猫人族はシュピラールと「りぃ~だぁ~!」「友よ~」と抱擁を交わしていた。 


「ああ、来たんだ。 騎士団に拘束状態で出て来れないかと思っていたけど?」

「ここで死ぬ気は無い。 まだやらなきゃいけないことがあるから……」


 悲痛な表情で呟くコイローグの額をデコピンで弾くケーナ。 何やら親しそうな関係にコイローグを睨むサハナ。 同族な上に騎士と見て「ああ例の」と納得するオプス。 残りの人族と竜人族は「俺等には挨拶無しかよ」とふてくされていた。


「コーラルは分かるけど、シャイニングセイバーは平気なの?」

「……俺は良いのかよ。 仲間を納得させるの大変だったんだぞ」

「一応王には許可を頂いたし、副団長が優秀だから防衛戦くらいなら問題ないだろう。 それにお前のことだから、廃都(ココ)から奴等を出す気なんて無いんだろう?」


 ケーナに聞いたが周囲のプレイヤーから「当たり前だろ!」、との答えが口々に返って来たことに頷くシャイニングセイバー。 ルール規定は無いに等しいが、それがクエストの達成目標である。 こちらに飛ばされて、こちらで過ごしたプレイヤー達は、三桁レベルのモンスターが野に放たれることがどんな悲劇をもたらすのか良く理解していた。 志は皆同じなのが嬉しいのであろう。 何せココを突破されれば、フェルスケイロが真っ先に波に飲まれそうな位置にある。


「んじゃ、そろそろ殲滅戦(クエスト)を開始するかー」


 パーティーチャットにイェーガーが呼び掛けると、そこかしこから雄叫びが上がる。 チャットからも聞こえてくるので、この瞬間だけが異様に騒々しい。 それでもちょっと懐かしい状況にケーナのボルテージが上がっていく。 ふと「オプスもこの感情を共有できるかな?」と隣を伺ってみれば、受信アンテナを見ながらしきりに首をかしげていた。


「どうしたの?」

「いや、隠れ鬼が来んな、と思っての」


 そういえば、とケーナは隠れ鬼もこっちにいたことを思い出す。 以前にエクシズが対面したときの話では『こちらとの接触を避けたい』とのことらしいので、人それぞれ色々な事情があるのだろうと納得した。




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