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54話 計略を進行しよう

 ――――――それはケーナがフェルスケイロに着く前日のこと。


 その日、タイミングがいいのか悪いのか、スカルゴとマイマイはちょっとした打ち合わせをするために教会にいた。 『闘技祭に合わせたこの時期に毎年開催される学園行事』へ派遣される人員などの取り決めである。 とは言っても毎年の事なので、派遣する者は予め決定している。 確認するためだけに顔をあわせる兄妹だった。


「護衛は足りているのでしょうね?」

「今年は姫様が参加するってんで、騎士団から幾人か回してくれるそうだけど。 毎年参加してくれる冒険者も募集を掛ける前に尋ねて来てくれたし。 出来れば御母様の手も借りたいところよね……」

「はした金で母上殿を雇おうとする気ですか? それは高望みが過ぎるということですよ、マイマイ」

「冒険者なりの適正価格を毎年キチンと支払っているわよ! 御母様だって冒険者をやっているんなら同じ値段で受けてくれるはずよ」

「まあ、それはそうなのでしょうが……」


 語気強く力説する妹に同意せざるを得ないスカルゴ。 確かにあの母親であれば自分達のお願いを無碍に断ることもないだろう。


 この毎年恒例の学院行事の内容は、王都の外で行われるサバイバル実習である。 なんだってまた闘技祭前にそんな授業があるのかと言うと、この時期ならではの理由が幾つか。


 まずはフェルスケイロに冒険者が集まってくることにより、王都周辺の魔物脅威度が下がる事が挙げられる。 この時期は何処の宿屋も早いうちに満室になるため、あらかじめ長期滞在する冒険者が多い。 彼等は宿泊費を稼ぐ為、王都近辺のモンスター退治依頼から片付けるのだ。 安全が確実に確保されるわけではないが、群れる魔物が王都周辺から駆逐される。 更に十数日前からお祭り騒ぎが本格的になるので、浮ついた空気の中では学院全体が緩み、授業どころではなくなってしまう。 仕方なく学院も祭りに溶け込むように校庭を開放し、生徒達の有志による出店が立ち並ぶ。 そうなると監督責任者以外の教師が手空きになるので、サバイバル実習の方に人員が回せるのだ。 一応、実習自体は希望者のみな上、『もしこの実習で命を落とした場合の責任は学院に問わない』といった誓約書を書かされる。 教師や冒険者等の護衛が居ても、毎年何かしら不慮の事故によって命を落とす者が後を絶たないからだ。 引率役の教師と言っても全員が野外生活に慣れているわけでもなく、一部は引き篭もりの研究職である。 マイマイは学院長で諸々の理由もあり王都の外へ出ることはまず無い。 実習の責任者は冒険者や騎士を引退して教職を勤めている者達が担当していた。


 教会からはその一団に救護役を同行させる。 ベテラン一名に見習い三~四名の修道士や修道女が派遣され、実戦の空気に慣れてもらうのが目的だ。 基本的に旅に出ることが無ければ王都の中で一生を過ごす者が多いので、サバイバル実習は丁度いい訓練の機会になっている。 流石にこの年は王都の中でモンスターが暴れたり、襲撃事件があったりしたので、さぞ関係者達は緊迫した空気に触れられたと推測できる。


 そのあたりを多少ぼかしながら話し合い、教会の執務室を出た二人は大聖堂まで移動した。 マイマイは学院に戻るために、スカルゴは妹の見送りに。 そしていつもであれば多少なりともざわめきが満ちている聖堂が、静寂に包まれているのに気が付いた。 ここの聖堂は造りやステンドガラスの美麗さゆえに観光ルートにされているので、特に礼拝がない昼間は開放されている。 礼拝は早朝と夜なので、扉が開くのは早朝の礼拝が終わってから夜間の礼拝が始まるまでだ。 普段であれば聖堂のあらまし等を説明する修道女の声や、熱心な信者の為に簡易礼拝を行う司祭の厳かな声が響き渡っているのだがそれもない。 不思議に思った二人が首をめぐらせるまでもなく、原因はそこにいた。 光差し込む聖堂入り口に長身の魔人族が。


 なにやらいわくつきのありそうな黒いコートに全身を包み、両手をポケットに突っ込んだ魔人族の男性。 その彼が居るだけで聖堂にいた誰もが息を呑み、身を強張らせて成り行きを見守っているのだ。 スカルゴとマイマイはその者が身に纏う雰囲気を見て理解した。 これ(・・)は自分達の母親と似た同質のもの、すなわち超越者(スキルマスター)だと。


 ゆっくりと聖堂内を見渡した魔人族は、鋭い眼光をスカルゴとマイマイで停止し「ほう?」と呟いた。 そのまま二人の方へ向けて歩み寄る。 母親以外の超越者(スキルマスター)相手に失礼があってはならないと感じ、スカルゴがマイマイの前に立つ。


「ふむ、御主等がスカルゴにマイマイであったか?」

「え、ええ……」


 挨拶を交わそうとしたスカルゴは、相手方が此方の名を知っていることに面食らった。 母親から聞いているのかもしれないという可能性もあるので、無難に返しておく。 問題は何用があってケーナの子供達へ声を掛けてきたかである。 ニヤリと意地が悪そうな笑みを浮かべた魔人族は兄妹にとって衝撃的な言葉を言い放った。


「我はオプス、ケーナの腐れ縁よ。 名前など覚えてもらわなくて構わんが、──────」

「「え……、ええええええええええっ!?」」












 ────── そして二日後。


「「どーいうことですかっ!?」」

「あ、あははは……」


 スカルゴとマイマイは同時に母親に詰め寄った。 息子と娘の必死な形相に詰め寄られた側のケーナは引きつった笑みで誤魔化す。 現在はケーナの泊まっている『常連となった人族お断り宿屋』の一室、部屋の中に居るのはケーナとサイレン、早朝から扉を蹴破る勢いで突撃してきたスカルゴとマイマイだ。 一番可哀想なのは、二度目になる大司祭の襲撃と真っ先に対面するハメとなった宿屋の女将さんだろう。


「御母様があのオプスとか言う魔人族の方と『同居している』と言う話は本当なのですかっ!」

「まさか母上殿が父上殿以外の方とそんな羨まs……同棲をするだなどと!」


(いまなんかスカルゴから変な言葉が? それにしても妙な気を回すオプスのアホタレめ……)

『イズレバレルモノダト思イマスガ?』


 余計な火種を生んだオプスに念で恨みを送りつけたケーナ。 キーの言葉も尤もだと思い、子供たちに向き直る。 イイ笑顔のケーナに怒らせたかとビビル二人。


「同じ屋根の下で一緒に住んでいるってだけだよ。 ベッドを共にしているわけでもないし、ルカやサイレン達もいるし、何を慌てているの?」 

「む、むう……」

「御母様がそう言うのなら……」


 ギルドにいた問題児のおかげで、男女間の道徳についてそれなりに知識のあるケーナ。 マイマイ達は父親以外の男性が母親を取ってしまいやしないか心配なのだろう。 妹は渋りながら頷いたが、兄は納得しかねるようだ。 不満をありありと顔に表した。


「母上殿にその気がないといってもあちらに気があったらどうするのです!?」

「まあ、確かにオプスは私より強いし。 人をおちょくることに関しては天才的だし、放って置くと何しでかすか分からないし、人に責任なすりつけて逃げちゃうけど。 腐れ縁のなじみで切り離せない関係なんだよ、うん」


「「…………」」


「あ、あれ? どうしたのマイマイもスカルゴも?」


 前世からの繋がり的になどという痛い事を省いたが、二人の子供達は唖然としていた。 スカルゴ達の方は、母親の話に聞き覚えがあったための驚愕である。 オプスとやらの性格は、以前母親が語ってくれた父親の性格と瓜二つではないか、と。 マイマイには後日スカルゴが話をそのまま伝えたので、その場に居なかった彼女はそのことを知り得ている。 生まれる種族的な問題だとか疑問点はあるが、この機会を逃すスカルゴではない。 『怒涛の荒波』をバックに母親に突撃。


「母上殿!」

「わっ!? ど、どうしたのよスカルゴ?」

「もしかしてオプス殿とやらは私達の父親なのですかっ?!」


「…………は?」


「今母上殿が言ったオプス殿の性格は、以前に父上殿のことを伺った時の返答とまったく同じではないですか!」


 しかし、ケーナの方は自分で言ったことを完全に忘れていた。 脳内空白地帯となったところに、キーから当時のログを提示され自らのミスを知る。 その時はオプスがこっちの世界に居るとは思わなかったため、適当に言い訳程度で使ったのだ。 まさかここでしっぺ返しが来るとは予想もしなかったのである。


(あちゃー、どう言ったものか……)


「御母様、まさか……?」

「否定なしですか、母上殿……」


 二の句が告げなくなったケーナの沈黙に、子供達は肯定したと受け取った。 さすがに今のオプスを、パートナーか相棒以上の関係として隣に置く気がないケーナ。 ……が、言い訳をしようとして二人の関係をどんなものかと考え直した結果、沈黙するしかない。


(そういやー昔エベローペさんが私達をお似合いだとか言ってたけどそれって恋愛感情アリで?ナシで?なにかと言うとセットにされてたのももしかして理由はそこに落ち着いていたの?いやいや待て待てオプスだよ相手はオプスであって嫌いじゃないし好きだけどそこは恋愛に通じる好きとは違う違うLIKEの方LIKEの方いやマテ何で私は必死にそっち感情否定する方に走ってる?ここでスカルゴ達に弁明すべきは以前の失言を取り繕わなくちゃいけない方向なのよオプスとは腐れ縁の友人と言っても腐れ縁自体を意味深な方向で取られたらアウトぽいなあ待てその考えこそがエベローペさんの罠だあれのお陰でオプスとセットにされたり――――――)


 以下グダグダ脳内エンドレス。 思考の袋小路に陥ったケーナへ、救援はすぐ近くから差し伸べられた。


「スカルゴ様、マイマイ様、早とちりにも程がありますよ」


 一度二人に「オプス専属メイド」と紹介され、三人に紅茶を淹れたあとは壁際で静かに佇んでいたサイレンからである。 彼女は一度ケーナを振り返り、申し訳なさそうな表情をして一礼した後にスカルゴとマイマイへ向き直った。 まるで口止めをさせられていたのを無理やり破るような謝罪に、子供達はやはり母親は何かを隠していたのかと確信する。 当然、何がなんだか分からないままに混乱していたケーナは、サイレンの横槍に事態が更に混迷したような気がしていた。


「率直に申し上げますとケーナ様の夫であられた方はご主人様の弟君でした」

「「つまり伯父上だったと……?」」


 衝撃の告白である。 『でした』というところに聡い二人は事情を察し、しょげた顔で落胆する。 片やケーナはというと、口を挟む暇も無いもないサイレンの告白に唖然としていた。 「いったいいつ自分にはそんな謎設定が付け加えられたのだろう?」とか「オプスそんな里子が居たんだ」とか、驚きを通り越して無表情に。 それすらも子供達には『辛い記憶を思い出して感情を殺している』という風に受け止められ、なんとかこの場を脱することが出来た。 釈然としないしこりをケーナに残したまま……。













「差し出口を致しました、申し訳ありませんケーナ様」


 あのあとサイレンがもっともらしく付け足した『ご兄弟は良く似たお方でした』だの『悪知恵大会があればお二人は首位を独占していたでしょう』などと説明を入れた。 しぶしぶ納得した子供達が帰った後、極度の緊張感から解放されてベッドに突っ伏したケーナ。 もう一度ケーナの為に紅茶を入れたサイレンが深々と頭を下げた。


「内容に色々突っ込みたいところではあるんだけど、変なボロを出さずに済んだわ。 ありがとうね、サイレン。 しかし、あの言い訳だとオプスが義兄になるのか、良くそれだけで引き下がったな二人とも……」

「身内、といったところを納得されたのでしょう。 ご主人様に相談したかいがあってよかったです。 あ、ちなみにご主人様にそんな身内はいらっしゃいませんよ」

「サイレンの機転じゃなくてオプスの入れ知恵っ!?」


 どうやらサイレンはただ沈黙していただけでなく、フレンド通信でケーナの置かれていた状況をオプスに送信。 送られてきた解決策『意味深な謝罪を入れて、でっちあげをぶち撒け、その間ケーナの口を挟ませない』という指令を受け取っていた。 あとはケーナが何かボロを出す前にその場の主導権をもぎ取ってしまえばいい。 このあたりケーナがテンパると途端に沈黙する癖まで考慮に入れてである。 腐れ縁の相棒なだけに良く理解しているところが癪に障るケーナであった。


「くそう、早く帰って来いオプスめぇ……」


 勿論八つ当たり的な意味で、顔を合わせたら何をブチ込もうか今から考える。 悪巧みをし始めたケーナを微笑ましく見守っていたサイレンは、さりげない動作で部屋の扉へ移動して何気なく開いた。 途端に室内へ倒れこんでくる人物、どうやら扉に耳をつけていたと思われる姿勢で。 ニッコリと笑い見下ろすメイドに、件の人物は冷や汗をひとつ。


「……あ、ええと……」

「何をなさっているのでしょうか、マイマイ様?」


 呆れ返った顔で倒れた娘を見たケーナは、もしや今の会話を聞かれたかと焦る。 自然と臨戦態勢を取る母親に、虎の尾を踏んだと理解する娘は慌てて立ち上がって直立不動の姿勢をとった。


「マイマイ、正直に答えなさい。 何を聞いていたの?」

「聞いてないっ、聞いてませんから! 御母様に言い忘れたことがあったんですけど、さっきの今ではちょっと部屋に入り辛いのでタイミングを計ろうかと思ったら扉開けられました!」

 

 鬼軍曹に問い詰められた下士官のように正直に答えるマイマイ。 自分の証言がジト目の母親に全く信用されていないと悟って、もう必死である。 


「いえ、ケーナ様。 マイマイ様が扉の外にいらっしゃったのは、私が開ける直前ですのでその心配はないと思われますよ」


 サイレンの弁護に首を上下に振りまくるマイマイ。 それを見て「まあ、サイレンがそう言うんなら」と追及を止めるケーナ。 元々の非は出鱈目で無理矢理子供達を納得させたこちら側にある。 一時の感情で盗み聞きをしようとした娘には悪いところなどありはしない。 全ては後ろめたいことが満載のこちら側にあるのだから。 目を伏せて嘆息した母親から呆れられたような気がして、マイマイはノックをしなかった自分を恥じた。


「それで?」

「は、はいっ!」

「『はい』じゃなくて、何か言い忘れていたことがあるんでしょう?」

「あ、はい。 ちょっと御母様に依頼したい事がありまして……」

「ええ、構わないわよ。 私は別に闘技祭を見に王都まで来た訳じゃないし」

「いいんですか? 数日間拘束することになりますけれど」


 ケーナの目的は村までの中継に不備がでないようにするMPプールの役割である。 ついでに廃都大結界の様子を見ることも含まれ、シャイニングセイバーと行動を共にした先日に王都の西側へ出る許可を取得済みだ。 残りはオプスから廃都の情報待ちであるが、なんとなく事はそれだけで済むような予感はしていない。 問題はそれが何かの事態を呼び込んで、ケーナやオプスが全力を出すような場面になった時だろう。


 その辺りはなったらなったで考えるとして、マイマイの依頼とは野外実習の護衛であった。 それがちょっと特殊で生徒達に任せられるところは任せて、生徒で対処できない危険には冒険者の対応をお願いするという護衛依頼だった。 ケーナの他にも二組のPTと騎士が数人同行すると聞いて安堵する。 理由は生徒数十人の護衛を一人でやるのかと勘違いしたからだ。


「生徒っていうと、何レベル以下?」

「何レベル以下と言いますか……。 御母様に比べたら誰も彼もひよっこ同然じゃない」

「いや、モンスターを何処まで相手させればいいのかって目処が立つじゃない?」


 なんとなくゲーム中に初心者の狩りを後ろで見守っていた時を思い出して口元が緩む。 『あんな初々しい感じなのかなあ』と考えていると、目の前のマイマイがむくれていた。 意思外だったのが悔しいらしい。 


「出来れば明日学院の方に一度顔を出してくださいね、御母様」


 捨てゼリフっぽくそれだけ言って帰っていた。 噴き出すサイレンに苦笑するケーナ。


「冒険者のお仕事だって」

「私はこちらでお待ちしていた方が宜しいでしょうね」

「そだね、オプスが帰ってくるかもしれないし。 私が出ている間にアレが戻ってきたら連絡頂戴」

「分かりました」


 顔を見合わせて笑いあう。











 ──── その頃オプスはというと……。



「ハ、真逆お主がこの前のカメ事件を裏から操っていたとはのう」

「スキルマスターであれば誰でも出来るであろう? 我が確保するのが早かったと言うだけじゃ」


 天空に浮かぶ孤島、平屋の古びた武家屋敷風の縁側でドワーフの老人と酒を酌み交わしていた。 老人と言っても精神だけで、その年齢はドワーフ族と言うカテゴリーの中では若輩者に相当する。 それでいて外見は頑健かつ髭ぼうぼうに厳つい顔立ちなので、他種族がその実年齢を言い当てるのは難しい。 彼はスキルマスターNo.12、隠れ鬼、この空中庭園とも言うべき孤島は彼の管理する守護者の塔であった。 孤島と言ってもそれほど大きくはなく、武家屋敷のほかには小さな庭と菜園のある程度。 縁側には赤い首輪をした白い猫が寝そべり、さんさんと降り注ぐ陽気に大きなあくびをこぼしていた。 この白猫がこの塔の守護者である。 オプスと隠れ鬼の他、この場所には二人の姿があった。 一人は菜園に如雨露で水をあげている魔人族の女性、ゆったりとしたローブ姿に赤茶色の髪、種族を象徴する角は耳の上にちょこんと出ているくらい短い。 もう一人はオプスと隠れ鬼に酒の肴を用意する着物姿のエルフ女性、色素の薄い銀色の髪に薄い水色の着物柄が清涼感漂う。


「どうぞごゆっくり、オプス殿」

「うむ、すまんの」


 お盆を持って優雅に一礼するエルフ女性に隠れ鬼は声を掛ける。


「ルペイシ、皆を揃えるとなるとどれくらい掛かりそうじゃ?」

「皆を、ですか? お言葉ですがお兄様、我等を揃えるなどとはどこかに戦争でも吹っかけるおつもりで?」

「まあ……、予備兵力みたいなものじゃな。 後詰めしてもらえると助かるのう」


 ルペイシと呼ばれたエルフ女性が眉をひそめ隠れ鬼に問い質した。 兄である隠れ鬼の代わりに答えたのはオプスである。 こちらの答えもはっきりとした事態を想定しているわけでないと、その言葉が物語っている。 


「兄上、戦争するの?」

「じゃから後詰めだとオプスが言っておるじゃろう。 いやに嬉しそうじゃな、ユーニオ?」


 キラキラした瞳で隠れ鬼を見つめる魔人族の女性。 やや子供っぽい言動には期待感が詰まっていた。


「久しぶりに攻撃魔法をどかーんって、どどーんて」

「なんとなくケーナに通じるものがある言い方じゃな?」


 手を振り上げて喜ぶ様子に心当たりのあるオプスが呟くと、ユーニオと呼ばれた魔人族の女性は憧れの眼差しを同種族のオプスへ向けた。 その純粋な瞳にたじろぐオプス。


「ケーナ様いるの? 何処?」

「……おい、隠れ鬼。 この里子の設定をどうやった?」

「ああ、すみませんオプス殿。 その子はケーナ様に憧れているのですよ。 それでお兄様、皆を集合させる場合、最低でも十日程は必要かと思います」

「そうか、ではそのように頼む」

「はい、承りました」


 ルペイシは楽しそうにはしゃぐユーニオを宥めると、手を繋いで縁側に寝転ぶ白猫に近付く。 そして守護者の力で外へ送られて姿を消した。 それを見届けた隠れ鬼は満足そうに頷くが、オプスは呆れ顔だった。


「ふむ、妹達を集めるとしても全盛期の半分以下しかおらんからのう。 あんまり期待するなと言っておくぞい?」

「その時には他にいる数人のプレイヤーに頑張ってもらうしかなかろう。 しかしよくもまあ里子を妹設定で百八人も作ったものよな……」

「ふっふっふっふ、男のロマンだからの」

「………………そうか、ほどほどにな」

 





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