3話 お出掛けをしよう
こんな駄文にお気に入りが16件も……。
お、拝んでいいですか?
「本当にそんな軽装で大丈夫なのかい?」
「これでもそこそこの腕は持っていますので、ご心配なく」
宿屋の前で、村の外に出ようとするケーナの身を案じたマレールとの押し問答が続いていた。
装備以外に道具袋すら持っていない彼女の格好が原因である。異空間に膨大な数を収納するアイテムボックスがあるとは言えないケーナは、この窮地をどうやって乗り越えたものかと悩んでいた。
助けは意外なところから出たが。
「じゃあおねーちゃん、これだけでも持っていって……」
「え、リットちゃん?」
リットが持っていた革の水袋をケーナへ差し出していた。真摯に心配する瞳に絆されたケーナは満面の笑みでそれを受け取る。
「ありがとうリットちゃん。ありがたく借りておくね、お土産探してくるから楽しみにしてて」
「気をつけてね、おねーちゃん」
「はぁ、まったく……。いいかいケーナ。旦那に気合を入れて夕食を作ってもらうからね。それまでには帰っておいで」
「分かりました、マレールさん」
村の出入り口まで元気に手を振って行ったケーナを見送った親子は、街道から彼女が見えなくなった時点で踵を返す。
昨日は銀の塔を探すと言っていた割には、今日になって薬草を採取に行ってくると意見を変えたのが腑に落ちなかったが。娘から話を聞くに魔法を使えるらしいので、余程の魔物に出会わなければ命の危険は無いだろうと思っていた。
彼女の本来のスペックからすると、この近辺の魔物の命の方が遥かに危険に晒されている。……などとは知る由もない。
「ここまで来れば大丈夫かな?」
暫くは普通に街道を進んでいたケーナは村の建物が見えなくなったのを確認してから、街道沿いの森へ進路を変更。何かに導かれるように森の中の開かれた草原に足を踏み入れた。途中何度も空耳にしてはオカシイほどの囁き声を聞いている。おそらく自然な形でのハイエルフの能力で、木々や草花と意思疎通ができているのだろう。
それはそれで一部の技術技能がとても遣り難そうである。
“守護者の指輪”を高く掲げ、キーワードを唱える。
このキーワードが村中で唱えたくない理由で、スキルマスター全員で頭をつき合わせて考案した全指輪共通の呪文であるからだ。会議が踊ると後が怖いというのはこの時に実感した。
【乱世を守護する者よ! 堕落した世界を混沌より救済せしめ給え!】
唱えたケーナの周囲に銀色の光が舞う。
光の帯が足元から何本も吹き上がり、繭のように彼女の周囲に銀光煌く円筒形を造り上げる。筒の上空で残りの帯が複雑に絡み合い、曼荼羅にも似た魔法陣を造り上げた。
銀粉が粉雪のように舞う氷原を表し、氷上を演出するように輝く。ケーナだからこのようなエフェクトが使用されているのであって、竜宮城の持ち主の場合だと荘厳な滝に囲まれるそうだ。
「毎度のことながら、いちいちエフェクトが無駄に凝り過ぎだってーの……」
頭上の曼荼羅の中央に黒い空間が開き、魔法陣ごと回転しながら徐々にケーナに迫ってくる。円筒形のヴェールもろとも飲み込まれたケーナが一瞬の暗闇を抜けて立っていた場所は、何の変哲も無い石壁に囲まれた部屋であった。
大きな溜息を吐いたケーナは肩を落として、正面の石壁へ指輪を向けた。
ゴゴゴギリギリと、やたらと軋みが酷い音を立てて石壁が左右に開いていく。その先にあるのは特に飾り立てたもののないつるぺたな石壁の廊下である。
「なんでこう内部は質素っぽいんだろう? 運営側のデザインって理解に苦しむなあ……」
背後で開いた扉が再び閉じていく。閉じきった後に残るのは部屋があったことすら感じさせぬ繋ぎ目もない石壁である。
右へ行くとここへ続く試練のメイン舞台。この塔は全高五百メートルもあるが、内部の階段は人が登り始めると回転して無限に増え続ける。制限時間分回転したところで停まり、来訪者を最上階へと誘う仕組みだ。
飛行魔法でも登ってこられぬように、最上階以外には魔法無効化の術式が刻まれているが、階段自体に刻まれている術式は、歩みを止めた者を塔の外へ容赦なく転移させてしまう。これがスキルマスターたるケーナの担当する銀の塔。試練は二十四時間休みなく動き続けて最上階へ着かなければ、敷地外へ放り出されてやり直しという仕様だ。
左へ向かうと来訪者を迎える大広間。
ケーナが足を運ぶと青空が大部分を占めるバロック建築風のベランダ。天井の存在しない舞台のような造りになっている。実際には高密度の障壁が張られていて風雨を通さない天井が存在している。唯一残っている背後の壁にはレンガで刻まれた壁画。不細工な太陽が凹凸で描かれている。刻まれているはずの眼がギョロリと動き、ケーナの動きを目で追う。
『オウオウオウ! 久し振りじゃねーかゴシュジンサマァ。二百年も俺様をほったらかしでどこへ行っていやがりましたカァ?』
「…………はー。なんちゅー口の悪い変化か………」
ゲームでの拠点を管理する守護者は、もっと事務的な受け答えしかしないNPCも斯くあるべしと言った存在だったはず、なのだが……。まさかこんなチンピラというか、ヤンキーというか180度別物に変化しているとは思わなかった。呆れてモノも言えない。
「私が留守中に試練を抜けてきた者は居た?」
『いねェなあ。ここんトコ俺様もすることが無くて平和平和でヘドがでらぁ』
動くこともできないのに何をしようというのだろうか、この素行不良は……。
『ああ~、そういやぁ六十年ほど前にスカルゴの奴が来やがったナァ。ゴシュジンサマと連絡が取りたいっつー話だったが、あんときゴシュジンってば俺様からのコールを無視しやがったナア。エエオイ?』
「あーまー、ちょっと手が離せなくてねー」
留守中に来訪者が来た場合、指輪を通して拠点主側に守護者から連絡があることになっている。
ケーナがふらふらと外を出歩けるのもこの機能があればこそだ。六十年前どころかここ二百年は何をしていたのか自分でもさっぱり記憶の無いケーナは、適当な答えを返した。
『……………………、オイ?』
「え、なに?」
『スカルゴの奴が来やがったんだよ。聞こえてるかァ?』
「聞いたけど、……誰それ?」
『ハァ!?』
「え? ゑ? あれ?」
胴体があったならば天を仰ぎ、顔を覆ってるのであろう。呆れきった大きな溜息を吐いた守護者は誰にともなく呟いた。
『とうとうボケやがったなこノババァ……』
「あ? なんですって?」
聞き逃せない単語にアイテムボックスから瞬時に一本の杖を取り出す。
三匹の龍が複雑に絡み合い三方へ口を開けていて、それぞれに紅、蒼、金の宝玉を咥えている二メートルほどの杖である。
名称を至玉の杖。ワンアクションで火炎系と氷雪系と雷撃系の最大級魔法を撃ち出す極悪武装である。但し、二十四時間に一度しか撃てない使用制限付きだ。
『オイ、ゴシュジンサマ? その杖をどうする気ダァ?』
「口の悪い守護者の性根を叩きなおそうと思って。いっそのこと二百年くらい凍ってみる?」
『俺様が悪かった許してクレ、ゴシュジンサマ』
誠意の「せ」の字も感じられない謝罪だったが、「まあいいか」と思ったケーナは杖を仕舞う。
実際のところこの塔全部が特殊アーティファクトに設定されていたはずなので、魔法が効果を及ぼすかどうかは不明だ。
「……で、スカルゴって誰だっけ?」
『オイオイ、アイツも報われネェナァ、不憫ナ奴め。ゴシュジンサマの息子だろウ、忘れンナよ、ナァオイ?』
「え゛…………? はぁ? 息子ぉ!?」
素っ頓狂な声を上げたケーナを見て「だめだこりゃ」と呟く守護者。しばらく首を傾げていたケーナだったが、何か琴線に引っかかったらしく「息子、スカルゴ、息子、スカルゴ」とぶつぶつ呟きつつ考えに没頭する。
「あ、ああああああっ!!」
十分もするとやっと気付いたらしく、手をポンと叩き大声を上げた。
「そうか、里子システムか。思い出した思い出した」
『……ナんじゃソラ?』
運営側の正式名はNPC補填要員募集。
プレイヤー側の認識は里子システム。
初期デザイナーの“NPCの名前を考えるのが面倒になった”、というとんでもない要求が通った前代未聞の、使用済みサブキャラクター募集告知である。
リアデイルでは課金一口に作成できるキャラクターの数が二人有り、一般的なプレイヤーは片方を倉庫キャラと称して、重要だけど早々使わないアイテムを入れて使っていたりしてる者が多い。拠点を持つとそこを倉庫代わりに利用できるため、自然に忘れ去られていく悲しい境遇の極みたる者だ。
それを要所のNPCとして運営側が買い取ろうという魂胆だった。
特典はキャラクターがそれなりに使える技能を持っていれば、高位の要職に就くことが可能で、給料の半分が提供者に流れてくるというものである。
これには『どうやってゲーム内でお金を稼いだらいいのか?』といった初心者プレイヤーが多く登録した。登録してもキャラクター枠が無くなるわけではないので、初心者にも玄人にも安心設計だ。提供したキャラクターと提供者には何らかの繋がりの設定を求められるが。
中にはやっぱりオカシナのも居て「儂の妹は百八式まであるぞ」と言う者から、「全部俺の嫁」と宣言するよく分からない者まで出る始末。
ケーナの提供したサブキャラたちのスカルゴというのは、スクロール作成で回復系魔法を習得させまくったので教会へ貰われていったはずだ。エルフ男性なのでまだ存命しているだろう。
その際にケーナが設定した続柄というのが親子である。守護者の指輪を劣化コピーした物を渡していたので、試練の道を通らずに直接ここに来たのだろう。
「未婚十七歳にして二百歳超えの子持ち、かぁ……」
『あぁん? ワケわかんねえェこと言ってンじゃねぇよ』
まあこれはこれで味があって良いのかも?
ちょっとそんな気になったケーナは、守護者の何か言いたそうな視線も気にせず舞台の端へ。
床の窪みに指輪を重ね合わせて九十度回転させると、カチッと音がして大人が収められそうな石棺がせり上がった。拠点の倉庫となっているそれの蓋を開け、中を確認する。
実際に覗き込めば分かるが、中には何かが入っているようには見えない。
ケーナの視界には右側に自分のアイテムウィンドウが開き、左側に倉庫の品目が大量に表示されている。この辺はゲームと同じだというのはどういうことなのだろうか? 疑問は尽きないが考えても分からないので後回しにする。
持っていく物と置いていく物を厳密にチェックしていると、守護者が話しかけてくるので対応はしておく。こういった者が友人で居たらそれはそれで楽しそうかな、などとも考えながら。
『ナア、ゴシュジン。ひょっとしてアイテムを取りに来たダケってんじゃネェだろうナ?』
「う~ん、やっぱり植物系材料は少ないか……。うん、主な目的はそれね。後、最近の状勢とか知ってる?」
『アア、スカルゴの奴が色々言ってタナァ。七国が統一されテ三国にナっただとかナントカ』
「あれ? なんでこんなネタ武器がこんなに? 誰かの預かり物だったかな? プレイヤーの人たちってどうなったんだろーね?」
『俺様が知るワキャあネーだろっ。ゴシュジンの仲間は半分は人間だったしナ。もウ墓の下じゃネーノ』
「まあ、そうなるよね……」
ひとしきりアイテム整理をし、作業が終わった頃には太陽が中天に昇っていた。
ケーナは石棺の蓋を閉め床に押し込んだ。
ついでに壁画の守護者へ歩み寄り、壁に手を付けてMPのおよそ9割を守護者へ譲渡する。
ワールド管理とそれに伴うクエストは運営側の仕事だが、守護者自体の維持は塔を受け持つスキルマスターに委ねられる。もろもろの恩恵でリアデイル史上最大MP値賞を獲得したこともあるケーナは、何かにつけて守護者用の魔力タンクを満タンにしていた。
だからこそ留守状態で二百年経過してもなんとか動いていたのだろう。しかし、今確認した時点では枯渇寸前であった。満タンにはしたい気もあるが、いくらMP常時回復状態の【常時技能:MPヒーリング】があったとしても、いっぱいにするにはここで夜を明かす必要がある。
どうしようか考え込んでいると、守護者側から話を持ちかけてきた。
『ナあ、ゴシュジン頼みがあるんだガ?』
「ん? 貴方がそんなことを言うなんて珍しいね、何?」
『どうも他の守護者の塔ナんだが、機能停止しちまってるらしいンだよ。時間があったラ見といてくれネェカ?』
「……あ、そっちもほったらかしなのね。分かったわ、時間があったら探してみる」
守護者の塔同士で通信できる手段もあるが、どちらかの守護者が落ちていてはその機能も宝の持ち腐れだろう。指輪は全守護者の塔に適用されるので、少なくとも罠は回避することができるはずだ。海は潜らなければならないが……。
そうなると十三箇所の塔を定期的に巡回しなければいけないのだろうか? 当面の目標はそれだとして、実のところケーナも全塔の位置を把握しているわけではない。
ワールドマップすらも当てにならないため、いざ実行に移すには人の多いところで情報を収集する必要がある。
とりあえずベランダからある方向を指差して、守護者に教えておく。
「しばらくはあっちの方角にある村にいるからね。なにかあったら呼んで」
『わかっタぜ。さっキノ件よろシく頼ムわ、ゴシュジンサマ』
舞台の中央で守護者に合図を送ると、ケーナの足元に青白い五亡星が現れて眩しい光を放つ。
再び周囲を確認した時、そこは銀の塔を見上げる位置にある森の外だった。暫く塔を見上げていたケーナはくるりと踵を返し、先程指差した方向へ向かう。
「んー、しまった……。転移目標にする物でも置いてくれば良かったなあ」
少なくとも出掛ける前に掛けた【距離測定】魔法によると、直線距離で四十キロメートル以上も離れている。徒歩だと山裾をやや迂回しなけれならないので、測定よりは少し増えるだろう。普通に歩いたとしても宿屋の夕飯に間に合うかどうか、少し不安ではある。
「ヘェ……ゼェ、ハァー……ヒー……」
思案に思案を重ねてケーナが選んだ手段は、結局走ることだった。
それはそれでまあ魔法特化フルスペックハイエルフの腕の見せ所。誰も見てくれた人などは居ないのが悲しいところだ。
能動技能で【走行速度上昇】(持続時間1分)を起こし、魔法技能から【敏捷上昇】と【移動速度上昇】を選択。
あとは道々掛け直しながら爆走してきたのである。
森の中の移動だったため、木々のサポートがあり平地に比べて移動しやすかったのと、走るのに慣れていなかったのもあって、村近辺に辿り着く頃にはお空がオレンジ色になっていた。
きっとケーナをよく知るギルド仲間がこの有様を見れば『お前は馬鹿か?』ぐらい言いそうだ。
飛行魔法という選択肢もあるにはあったが、MP消費の関係上、通常の一割以下しかないケーナにとっては飛んだとしても五分と持ちそうに無かったからである。
ともかく後は一度街道沿いに出て歩けば、村まで数分で済む。
リットに貸してもらった水袋で喉を潤し、息を整えたケーナが深呼吸を一つ。背伸びをしてさあ帰るかー、と気分を一新したところに、
ゴアアアアアアアアアッ!
───と獣の吠え声が森に響き渡った。
「は? え? どこ!?」
『街道ノ方デス。ケーナ様』
思わず自分が襲われたのかと思って、珍妙な格好で構えたケーナにキーが棒読みで警告する。ハッとなって自らの格好に赤くなるも、誰かが襲われているんじゃないかと気付き、慌てて駆け出した。
林を突っ切ったケーナの前に広がった光景は、街道にへたり込んでいる毛皮服姿のマタギ風と言った感じの猟師。昨夜、マレールに余計なことを言ったせいでお盆の洗礼を受けた村人である。
その人に襲い掛かろうと両前足を振り上げた熊。熊は熊でも全高四メートルくらいで、耳の後ろから捻じくれた角が口の辺りまで伸びている。
ゲーム時代では初心者には辛いが中級者にはザコ扱いされるホーンベアという魔物だ。通称、ツマー。
ホーンベアは新たに横合いから現れたケーナを見るや否や硬直した。
戦闘態勢に意識を切り替えたケーナが持つ能動技能の所為である。本人の意識外で自動起動した【威圧】(敵の回避を大幅に下げる)と【眼光】(敵の行動を遅くする)と【強者の微笑み】(敵の防御を22%の確率で無効化する)によって。
まあ、駆け寄ったケーナには武器で応戦するといった気も無く、“村人のピンチを救わなければ”くらいにしか考えてはいなかった。助走をつけたまま倒すとかではなく退かす意味で、立ちつくしたホーンベアのドテっ腹へ飛び蹴りを叩き込んだ。
ゴアッ!?
叩き込んだ瞬間【戦術技能:チャージ】がオートで起動する。筋力最低値を誇る種族だとしてもレベルの後押しもあり、ホーンベアの巨体を地面と平行に軽々と跳ね飛ばした。
吹っ飛んだ熊は街道沿いの森の中へ。バキバキバキー! といった木々を薙ぎ倒す音が響き渡り、薄暗い闇の中へ消えていく。
猟師は勿論、蹴り飛ばしたケーナすらも油汗を流して固まっていた。
しばし静寂が辺りを覆いつくす。
真っ先に再起動したケーナは猟師に駆け寄った。
「大丈夫ですかっ!? 怪我とかありませんか?」
「あ……、ああ。……嬢ちゃん……、凄い、んだな……?」
「あ、ああ、ええーと……。ええ! 私に掛かれば熊の十匹や二十匹、敵ではありませんよ! はっはっはー」
本当に敵にもならないのが誇張でもない真実だ。胸を張りやけくそに笑い飛ばすケーナに毒気を抜かれたのか、猟師のおじさんは立ち上がり礼を述べる。
「ありがとう嬢ちゃん。あやうく命を落とすところだったよ。何か礼ができればいいんだが、あいにくと持ち合わせが無くてな」
「礼なんてそんな。困っている人が居たら助けるのが当たり前じゃないですか?」
「あ、ああ。じゃあ、そうだなあ……」
「じゃあ礼の代わりに、私の名前はケーナです。嬢ちゃんじゃなくてそっちで呼んでもらえると嬉しいです」
「ああ、そうか、そうだな。俺の名前はロットルだ。改めてありがとうなケーナちゃん」
「はい、ご無事でよかったです」
はー、と安堵したケーナは熊の消えていった森の暗闇を覗き込む。
飛び蹴りが決まった瞬間、敵のHPバーは黄色から赤を通り越してゼロになったのは確認できた。つまり即死である。
「どうしましょう、あの熊?」
たしか公式HPの説明文には「肉は美味」とか書いてあったはず、村では良いご馳走になるのではと思い、森の中へ足を踏み入れた。角や毛皮も武器などの材料になるし。それをロットルが慌てて追う。
「待て待て、生きてたらどうするんだ? 森の中で熊と戦うなんて死にに行くようなもんだぞ」
「大丈夫ですよ、死んでますから。ちょっと待っていてくださいね?」
ケーナは銀貨にライトの魔法を掛け森の奥に踏み込む。
四本の樹木を薙ぎ倒したホーンベアは、血泡を吹いて絶命していた。角を掴んで試しに持ち上げてみたが、意外にも軽かったためそのまま引きずって街道まで戻る。
その華奢な容姿で、自分の三倍はあるホーンベアを難なく引き摺る姿を見たロットルの度肝を抜いたり。村に着いた時にはとっぷりと日が暮れていて、心配そうなリットが帰ってきたケーナに泣き付いたり。ホーンベアを見て悲鳴を上げたりもしたが、ドデカイ獲物に急遽村の広場で焼肉宴会が開かれた。
当然猟師のロットルからはケーナの武勇伝が披露され、紅くなって縮こまるケーナを村人たちが褒め称えた。意識すること無く、村公認の凄腕冒険者にされたケーナは強引に勧められて飲んだ酒であっさり酔っ払い、宴の終わりを迎えること無く眠りにつくことになる。
ちょっと戦闘っぽいものを入れてみました。 難しいですね……。
しかし、目覚めてから2日しか経過していない…。