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34話 その子供、暴走す

 ケーナの娘へ過剰な程の過保護っぷりが「ケーナ、お母さん……鬱陶しい」との言葉で、(ようや)く一段落した。

 義理の娘から厳しい一言を告げられた本人というと、自室で真っ白になって立ち尽くしていたらしい。

 その心にぶっ刺さった矢のダメージは筆舌に尽くし難い。

 まあ、それも一晩経てば回復し、翌日には落ち込みぶりが残るものの元気な姿を村人に見せていたが。


「あーあ、なんか随分横道に逸れてた気がするけど、とりあえずケイリックの所へ行ってみますかー」

「殆どはケーナ様がお嬢様への構い方が粘着質だったのが原因では?」

「…………」


 背骨をボキボキ鳴らしつつ柔軟体操をするケーナの独り言へ、主を主とも思わぬロクシーヌの毒舌が突き刺さった。

 伸びをした姿勢で固まり、ギギギギとブリキ玩具のように首を向けるケーナに対し、ロクシーヌは素知らぬ顔で一礼する。


「申し訳ありません。口が滑りました」


 冗談で済むうちに謝っておく。

 これが冗談で済むうちならまだいいが、マジ切れした主が敵に回ったらロクシーヌたちに勝機は無い。

 ジト目のケーナは「まあいいけどね」とふっかーーい溜め息を吐く。

 ロクシリウスを伴って外へ出てきたルカの頭を撫でた。


 少女はこれから友人たちと一緒に公共浴場を掃除する予定だ。

 前回の無茶を踏まえ、実行犯のラテムとリットには村長から罰が言い渡された。

 それが公共浴場の掃除である。現在のところ罰の終わりはなく、ほぼ無期限で続けることになりそうだ。

 二人共ルカが居なければ確実に命を落としていたという実感もあり、反省も兼ねてしっかりと仕事をしている。

 流石に子供二人だけではどうにもならない所もあるので、監督も兼ねてロクシリウスも手を貸す予定だ。

 ルカは自分が止めもしなかったという自責の念もあり、自主的にそれを手伝っていた。


 ルカの首にはケーナによってきちんと修理されたペンダントがぶら下がっている。

【召喚Lv9】のホワイトドラゴンでは存在を短時間に留めるのが精一杯だったこともあって、改良が施された。

 今は【召喚Lv6】にダウンサイズされたブラウンドラゴンになっている。

 それでも出現するのはLv660の化け物クラスだが。


 回復や結界と言った方向の能力を持つホワイトドラゴンは、竜族の中で戦闘能力は最低ラインでしかない。

 角の生えた茶色い鎧竜(アンキロサウルス)と言った外見のブラウンドラゴンも、攻撃力は低いが守護に関しては竜族の中では一級品である。

 考え無しに最大レベルで召喚されたホワイトドラゴンは残念なことに村からもその巨体はハッキリ視認出来ていた。

 大騒ぎになってしまったのを反省し踏まえて、今回喚び出されるのはせいぜい雑居ビル程度の大きさだ。

 限度を知らない人物のやることなどそんなものである。



「んじゃーちょっとヘルシュペルまで行って来るけど……」

「うん、平気。ケーナ、お母さんに……心配は、掛けない。……から」

「今回は私共もキッチリ目を光らせますので、ご安心くださいませ」


 ぶんぶんと頷くルカと恭しく礼をするロクシリウス。

 娘の「お母さん」発言に感極まったケーナに抱きしめられて、いい加減慣れたルカは苦笑してその場を乗り切った。

 困難は子供を成長させる、自分で自分の首を絞めている気がするルカは内心大きな溜め息をついた。


 足元に広がった紫色の魔法陣から立ち昇る光に包まれてケーナがその場から姿を消す。

「ほっ」と息を吐いたルカにロクシリウスのみならず、玄関口で見送っていたロクシーヌも噴き出した。


「ご苦労様です、御嬢様」

「ケーナ、お母さん……。信用して、ほしい……」

「仕方ありません。まだあれからそう経っていませんから。むしろ御嬢様に認められて貰えたのが嬉しいのですよ。主は家族というものに対し執着を持っていますから」

「……そう、なんだ」





 久し振りに人通りの多い都市に出てきたせいでテンションアップしたケーナは、堺屋に向かう前に市場に足を運んだ。

 ロクシーヌに頼まれていた食材を買い込み、珍しい物が無いかとひと通り見て回る。

 色とりどりの野菜や果物。

 その場で捌かれる巨大な淡水魚。

 いい匂いを漂わせている鍋をかき回すご婦人。

 籠に入った鶏とほぼ同サイズの卵みたいなキノコ。

 その殆どが食物だが、中には椅子や棚、皿などの食器類。サリーに似た服飾類や靴など。多種多様な物が売られている。

 うちひとつの露店で随分といびつな仏像らしきものが売られていたのを見た時は早足で通り過ぎることにした。 


 相変わらず作業員と客がごったがえす堺屋前の通りへ串焼きを頬張りながらやってきたケーナは、久し振りに見る顔を見つけて声を掛けた。


「コーラル、よね?」

「あ? ケーナか。こんなトコで会うなんて奇遇だな」


 以前にあげた大剣を背負ったコーラルと、その仲間達四人は途方に暮れていた表情を安堵に変えてケーナと挨拶を交わす。 


「つーか堺屋に用事かなんか?」

「ああ、ちょっとな。ギルドに護衛の依頼が出てたんで俺等で請け負った、んだが……。コレだけ人がいるとなると誰に話しかけたら責任者に会えるんだか、さっぱり分からねえ」

「ほほー、護衛かー」


 ケーナは人込みをくるりと見渡し、算盤を弾いてる猫人族(ワーキャット)に「すいませーん」と近付いた。


「ああ、はい。なんでしょう?」

「イヅークいますか? ケーナが来たって伝えて貰えません?」

「若旦那ですか……。はい、少々お待ちください」


 首を傾げながら店の中に引っ込む猫人族。

 コーラル達が待っている通りの反対側に戻ったケーナは「とりあえず若旦那を呼んで貰ったから」と伝えた。

 とたんに戸惑いからヘンテコな表情に変わるコーラルの仲間一同。

 一介の冒険者が大陸の各地に根を伸ばす堺屋の若旦那を名指しで呼び出せるところに困惑した表情だ。

 その程度は特に気にしない冒険者(ケーナ)仲間の一人(コーラル)は呑気に話を続けている。


「良く来るのかよ、ここ?」

「まあ、それなりにね。コネがあるっていいよね」

「ええいこの運ブルジョワめ!」

「持つべきものは孫よね~」

「意味がわかんねーし……。つーか、最近は全然フェルスケイロでも姿見せなかったじゃねーか。なにやってたんだよ?」

「ここらでひとつ酒屋でも営もうかと思ってねー。ウィスキーとビールだけど」

「ほほう、ウィスキーとな。ぜひ飲ませろ」

「命令形かいっ!? 飲みたかったら自分で作ればいーじゃないのよ」

「あ? 作れるわきゃねーだろ。アレには大掛りな蒸留器とかを所有する工場がないとダメじゃん」

「成る程。貴方が技術技能(クラフトスキル)という可能性をことごとく捨ててきたのは分かりました」

「なにぃ、そんなスキルがあったのかっ! ぜひ伝授してくれ」

「ヤダ」

「一刀両断!?」


 和気藹々とした会話がウィスキーの美味しい飲み方に発展し、『~年物』が如何に美味しいかと語り出すコーラルに、ふんふんと真面目に聞きつつ重要な事はキーに記憶させるケーナ。

 そうこうしていると、若輩ながらもそれなりに貫禄のあるエルフの男性が通りを挟んだケーナ達の所に歩み寄って来て一礼する。


「お待たせして申し訳ありません、曾御婆様。この度はどのような御用でしょう?」

「お久し振り、イヅーク。わざわざごめんね、ケイリックは居る?」

「あ、はい。父上ならばいつも通りに奥にいますが……?」

「イヅークに用事があるのはこっちの冒険者五人ね。なんかギルドの依頼を請け負ったんだって」

「あ、……ああ、はい。それはわざわざ足を運んで頂いて申し訳ありません」


 拍子抜けしたという表情を一瞬だけ通り越して、真面目な商売人の顔になったイヅークは、ヘンテコな顔をしているコーラル達のPTに礼儀正しく頭を下げた。

 ケーナはなんか期待されていたのが分かって苦笑する。

 依頼する側がやたらと腰が低いのも笑える話だが。

 イヅークはコボルトの小間使いを呼ぶとケーナの案内を任せ、コーラル達を連れて依頼の話をする為に中へ引っ込んだ。

 ケーナが案内された先はいつものゆったりとしたケイリックの自室。

 孫は驚きの表情で祖母を迎え入れた。


「これはこれは御婆様。この度はどの様な御用で?」

「石と小麦の荷物は受け取ったわ。商品の認可としては随分と早かったけど、ウィスキーとビールの方はそのまま作り始めてしまっても構わないかしら?」

「ええ、あれはとても上質なお酒でした。友人の幾人かときき酒をしましたが評判が良く、少々味が濃いのですね」

「あー、あれはさっき聞いたんだけど、どうも水か氷で割るものらしいのよねー。あとウィスキーの方は年月を置くと味に深みが増してくるものらしいわ。一年・五年・十年とか?」

「成る程、そういった分類の飲み物だったわけですか。そちらの知識は御婆様はご存じなかったようですが?」

「ああ、今、イヅークの所に依頼で来ている冒険者友人のコーラルから聞いたから、詳しくはそっちに聞いてね」


 成る程成る程と呟きながら、手元の紙に幾つかの走り書きをするケイリック。

 ヘルシュペルへ二樽の商品を送り届け、村に戻ったラックス達から大量の大麦を渡されたケーナ。 流石に置く場所が無いので、追加で倉庫を建てる羽目になった。

 ついでにその倉庫には地階を作り、そこにウィスキー樽を保存して置くつもりだ。

 ビールは材料さえあればその場で幾らでも作成が可能なので、注文を受けてからにしようと思っている。


 問題なのは石のほうだ。

 簡易術式を込めておけば、魔力を補給するだけで一般人にも容易に扱える凶器が出来る。

 関所に襲撃をかけた術士が所持していた炎撃術杖ファイヤーボールスタッフのように。

 その辺りを相談に来たのが今日の訪問のメインだ。

 一応試験的にお試し品を作ってきたので、テーブルの上に三センチ玉を転がす。


「……これは?」

「貴方が送ってきた石を加工、作成したものよ。こういう風に使うわ」


 簡潔な説明と共に指をパチンと鳴らす。

 玉から迸った光が、天井を投光機に照らされたように真っ白に染めるのをケイリックは絶句して見つめた。

 方向を定めた【付加白色光LV5:ライト】を込めてある。

 筒などに入れてしまえばマグライト並みの働きが出来る魔導具だ。

 潤沢にMPが込めてあるので、この状態のままでも数日くらいは持続できる。


「私としてはこういったものを天井に埋め込んで、室内を照らす用途に使って欲しいんだけど……。貴方にはそれ以外の使用方法があるのかしら?」

「い、いやいやいや御婆様、私を死の商人かなんかとお間違えでは!? 私は只、光だけでもあればそれでいいのですよっ!」

 

 憤懣やるかたないといった祖母の様子に震え上がったケイリックは、身振り手振りも併用して誤解を解きに掛かった。

 勿論、そういった攻撃系魔導具の可能性も考慮に入れなかった訳でもないが。

 彼には光源としての使用方法で商売の算段を考えていただけに、ここで祖母を怒らすような扱いは避けたい。

 ケーナも一応確認の為に脅してみせたが、ケイリックの慌てようにその可能性は無いと分かると「冗談よ」と義憤の態度を引っ込めた。


「おおおお、驚かさないでください。……ふぅ」

「あはは、御免ね。んじゃあ光源物として、あるもの全部をコレと同じように加工するね。出来上がったらココに届ければいい?」

「んー、そうですね。出来れば隊商か何かにでも運送をお願い出来ませんか? 御婆様の術に依る瞬時の横行には大変興味がある所ですが、出来れば通商路活性化のためにそういった者に仕事を振り分けてください」

「ほー、そーかそーか。確かに私の持つ技能(スキル)には人何十人分の仕事を一瞬で終わらせちゃうようなのがあるけれど、逆に考えるとそれだけの人の仕事が無くなっちゃうって事なんだねー。でも私がやったほうがその分費用も浮くけど……」

「生憎とこの堺屋、そのような瑣末な費用で傾くほど落ちぶれてはいません。見くびらないで頂きたい」

「あー、はいはい。餅は餅屋ってね、うん。そういうことなら了解しておくわ」


 その流れで運送費用に対してケイリックと交渉を続ける。

 顔馴染みな所からエーリネの隊商に託せば、着払いにして堺屋の方で運賃を払ってくれる事などを話し合う。それに含んで最近の状勢なども。


「へー、東の関所を駐留地に改良するんだー」

「一度西から流れて来た盗賊に潰されていますからね。国境をまたいでいるとは言え、直ぐ近くには御婆様の居住する村もあることですし。勿論御婆様の存在は国の上層部の知るところですが、(おおやけ)に出来ない以上備えは必要です。資材の発送を請け負った堺屋(ウチ)からの代表と国の重鎮、フェルスケイロからの使者を交えて関所で会合をするそうですよ」

「ああ、それでコーラル達か。護衛まるっと国の重鎮にくっついてきた騎士に任せるとかしないの?」

「御婆様、先ほども言いましたがお金は流れるものですよ」

「左様で……。徹底してるんなら運送できるものを作るしかないなあ」


 当たり障りが無いものを連想していたケーナは、庭を見てから陽の光にオレンジ色が混じり始めたのに気付いた。

 ヘルシュペルに飛んできたのが昼前、市場を回って屋台で昼食を済ませてからココへ来たのだ。 陽のあるうちに戻るとは言って無いが、ルカが心配になってきたケーナはこの辺りで話を切り上げて帰る事にした。

 心配と言うよりは恋しい事に気付き、自分の娘馬鹿っぷりに苦笑する。


「この辺で失礼するわ、突然来たのに丁寧な応対をありがとう、ケイリック」

「そういえば女の子を引き取ったんでしたね。さぞ心配なされている頃でしょう。早く帰ってあげてください。今後とも私共に出来る事があれば遠慮なく仰ってください」

「あ、ハハハ……」


 この場合どっちが心配しているか、なんてのはケイリックの考えとは逆だろう。

 引きつった笑顔でその場を離れようとしたケーナは、家を作る時に考えていた事を思い出した。


「そだ、ケイリック」

「なんでしょう、御婆様?」

「こっちへ隊商を出す時には、山羊と鶏を送ってくれない?」

「ああ、はい、わかりました。御代は着払いでお願いしておきますよ」

「うん、ごめんねー。それじゃあまたね」


 生物(いきもの)はアイテムボックスに入らない他、PT登録も出来ないので【転移】で一緒に持っていけないからだ。

 そのままそこから庭側に出たケーナはバイバイと孫に手を振り、紫の光を伴って姿を消した。

 釣られて手を振り返したケイリックは祖母が消えた場所を眺める。

 紫の光で薄く表示されていた魔法陣は、光の粉末となって消えてしまい痕跡は無い。


「相変わらず消えたり現れたりと忙しい方だ。さてと、先ずは美味しいお酒の飲み方からか? 明りに関しては先ずは貴族に勧めて見るとして、御婆様は『ガイトウ』がどーとか言っておられたな」


 息子から冒険者の情報を聞いて、祖母から聞いた件に対しての質問を詳しく聞く。

 それから商隊の手配をして家畜を購入。

 家族ひとつ分となるとどのくらい必要なのか? などと考えながら堺屋を立ち上げたばかりの頃を思い出していた。

 今は店を息子が切盛りしている為、商売の見直し程度くらいしかやる事が無いが。

 祖母からの依頼は昔を思い出させてくれる楽しさがある。

 先を考えて逸る心を押さえながらケイリックは息子の部屋を訪ねた。








 一瞬で目の前に居た孫から見慣れた自宅へと風景が切り替わる。

 半分くらいが橙色に変わってきている空を見上げていたケーナは、気がついたロクシーヌに迎えられた。

 買って来た食材を渡し、家の中を伺うとルカは居ない様だ。


「御嬢様でしたら宿屋の方へ。あの間抜けも付いているので問題はありません」

「宿屋?」

「はい、何かフェルスケイロから要人が来たとかなんとか」

「要人? それがなんでルカに関係……が……」


 ついさっき似たような話を孫から聞いた事を思い出した。

 関所を駐留地にする為に隣国との取り決めでフェルスケイロから使者が出ると言う。

 使者に出せそうなのでルカに会う事を望みそうなのは、まだ会っていないマイマイが有力だ。


 宿屋まで足を運んだところ、立派な装飾の箱馬車と以前遠征の時に見た騎馬が六頭、宿屋脇に停めてあった。

 しかし、ここから関所までは一日掛かるとしても、ヘルシュペルから関所までは九日ばかり掛かる筈だ。

 八日も間を空けるなんて使者業も暇なんだなー、とケーナは呆れた。


 ……が、次の瞬間宿屋から出て来た人物に、彼女の表情は引きつった。

 左右に突き出た耳を持つエルフの男性。

 高位の神官職を示す蒼い法衣に、主神光の神の印が金糸で刺繍されている。

 きめ細やかな手入れがされていると思われる長い金の髪、甘いマスクでどんな女性も虜にする美丈夫、主にその悩殺な笑みは身内にしか向けられていない。

 ケーナの中でも上位の問題児になっている長男スカルゴその人であった。


 ルカとロクシリウスを伴って宿屋から出て来たスカルゴはケーナを視界に入れた途端『輝いた』。『点描バック』に涙を『爆涙』させながらスターン! スターン! と怪しい歩法で接近し、正座の形でズザザザー! とケーナの足元へ滑り込んだ。


「母上殿ォ~! お会いしとうございましたァ~!」


 両手を広げて陶酔しながら嬉しさをアピール。

 ついでにどばっと周囲に『青い薔薇が咲き誇り』その背景には『花言葉は永遠の愛』と(激しく間違っている)テロップがエンドレスで流れまくる。

 ケーナの左手を取って手の甲にむっちゅう~と口付けた。


 ケーナはというと息子に接近された辺りから真っ白になっていたが、ここにきて再起動を果たす。 唖然として見ていたルカと表情の変わらないロクシリウスにはどこからともなく『ぷっちーん』という音が聞こえてきた。






「お、おかえりなさ……い。ケーナ、お、お母さん……」

「うん、ただいまルカ」


 何故かおどおどしているルカをしっかりと抱き締めたケーナは安堵した。

 ポケットから取り出した物を娘の手のひらに乗せる。

 赤、青、緑の小さな色水晶の欠片を見たルカの表情は嬉しさで輝く。


「三つあるからリットちゃんとラテムくんと分けなさいね」

「……うん。 ありがとう、ケーナ……お母さん」


 夕暮れの中、手を繋いで家路を辿る微笑ましい家族の姿があった。



 そこへ「あ、あの~?」と空気を読まない無粋な第三者の言葉が掛けられようとした時、素早く間に割り込んだロクシリウスが牽制した。

 ビシッと執事服を着こなした猫耳少年から強烈な威圧感を感じ、口を半開きにしたスカルゴ護衛の騎士達は「うっ」と凍り付いた。


「主は多忙です。御用がおありでしたら私がお聞き致しましょう」


 ひとりが近衛騎士団の誇りを振り絞り問い掛けた。


「だ、大司祭様はどうしたらいいのでしょうか?」


 その場にいた全員の視線が横へ移動。

 感涙にむせび泣いているように見えなくもない、猪八戒(ぶた)で止まる。


「放置しておけば宜しいかと」


 肩を竦めたロクシリウスは(むべ)も無く言い放つと、踵を返して主の後を追う。

 残された騎士六人は途方に暮れて顔を見合わせるしかなかった。



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