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21話 秘密の会合をしてみよう

 後に王都大攻防戦は緩やかに沈静していった。


 中洲側の魔導師団組と住宅街の騎士団長シャイニングセイバー&協力者コーラル&補助回復要員大司祭スカルゴ。二面の波状攻撃によって右へ左へと翻弄されたイベントモンスター。 

 問題はソレとほぼ同レベルであるシャイニングセイバーから見て、敵のHPが微弱程度にしか減って行かない現状に抗戦側のMPがまず切れた。

 いくら【MP回復】のスキルがあると言えど、所有しているのはスカルゴとマイマイの二名だけだ。回復する量より消費する方が圧倒的に多いのであれば考えられる事であった。


 これはもう相打ち覚悟で特攻するしかないか?

 と皆の思考が行きついた所で天から突如轟雷が降りそそぎ、イベントモンスターの頭部を木っ端微塵に粉砕した。

 やや遅れて周囲の逃げ遅れた民や、兵士等の視覚と聴覚を麻痺させるほどの爆光と轟音が響き渡る。続いてその足元から巨躯を丸々飲み込む火柱が噴き上がり、イベントモンスター諸共巨大な一本のトーチと化す。


 これには状況に関わった大半の者達の顔色が驚愕に染まったが、スカルゴとマイマイだけは安堵した。

 こんな魔法が使える術者は後にも先にも彼等の母しか存在しないからだ。


 スカルゴの提案により遠回りで王都を迂回し、息せき切って母親を探しに出かけたカータツは、王都から然程離れていない東の通商路の途中で無事にケーナと出会う事が出来た。

 ケーナも足手纏いに神経をすり減らすよりは、手早く運んで移動した方が得策と割り切り。ゼアウルフ達に『人目に付かない様に王都近辺まで運んでしまえ』と命令した。

 おかげで最初の二日の行程はなんだったのかと、頭痛を感じるくらいすんなりと帰還の途につく事が出来た。

 そこで安心していたら切羽詰ったカータツと出会い、報告を聞いてビックリ。


 カータツに二人の事を任せて先行し、住宅街手前近辺で波状攻撃に挟撃されているイベントモンスターを見つけたのである。

 野盗の時とは違い相手に情けを掛けたり、判断に悩まなくていいと決断したケーナは『銀環』を召喚。

 【二重詠唱(ダブルスペル)】に【増幅(ブースト)】まで使い、念のため姿を視認されないよう上空に移動し、最大威力の雷撃上級魔法と火炎最上級魔法を行使した。


 高々四百レベルのシロモノであったイベントモンスターは、最高峰の全力を駆使したスキルマスター兼限界突破者の前では唯のザコである。


 そうであるとは知らない王都の住民たちは、この街を救った超上の奇蹟に神の下した天罰だと認識して、口々に神を称える歓声を天に捧げた。



 王都の上空から戻るときに【姿隠し】を使い、ロンティらの下へ戻ったケーナは二人の面倒を頼んだカータツにお礼を言い、何食わぬ顔で王都に戻った。

 全部何食わぬ顔と言うわけでもなく、原因はポツリと漏らしたカータツの一言にある。


「ところで、なんで姫様と一緒にいるんだ? お袋……」

「あー? 姫様ぁ?」

「わあぁあっ!? カータツ様、しーっしーっ! 黙ってくださるって約束だったじゃないですか!」

「黙ってくれと言うのは聞いたがよ、俺は了承した覚えはねえな。それに……」

「そ、それに?」

「黙ってて後でお袋に追求されるのが怖ええっ!」


 力説したカータツの様子に、がっくりと肩を落として心配そうな顔でケーナを見るロンティ。

 恐怖の対象にされたケーナはあららと苦笑した。そのまま視線をマイに向けてにっこり笑いかける。


「まあ、あんなせせこましい所にいるよりは外の方がずっといいかもね。お金があれば幾らでも護衛してあげるから何時でもいらっしゃい」

「え? ……ええと、その……。追求、しないんですか?」

「して欲しいのなら追求するけど? 私がそんなの気にしないと知ってて、最初からロンティが私の所に来たんでしょ?」


 騒ぎのお陰で周囲を行き交う人々はケーナたちの会話に注意を払う事も無い。

 やれやれと頭を傾けたカータツは、普通の者ならなにかしら疑問を持つ事すらあっけなくスルーした母親がいつも通りで安心した。


「まあ、お袋はそうだ。最初から『権力者だーっ』て来ない限りは全部懐に入れやがる。姫様も相手がお袋でよかったな」

「ハナッから相手が『貴族です偉いです』とか来たら、呪いを掛けてブタに変えるけどね」


 ふふんと何でも無いように鼻歌で流したケーナ。

 あまりの自信たっぷり具合に、二人はカータツに寄ってケーナの発言の真偽を聞いてみた。


「あんなこと言ってますけど?」

「ケーナさんって貴族とか嫌いなんですか?」

「言ったなら実行するだろ。お袋の前で権力を振りかざしたら破滅しかねえな」


 ごくごく普通に真面目な顔で返答したカータツに二人の顔から血の気が引いた。

 王都を遠目に見ていた二人でさえ、怪物が火柱になるのを唖然と見てるしかなかったのだ。あんなものが個人に向けられたらと思うとぞっとする。

 待ってる間カータツに聞いた状況だけで魔法師団+マイマイ+本気の騎士団長+スカルゴ+αと言う布陣。それだけの人員を揃えても倒すに至らなかったのがケーナの魔法二発で終了だ。 


 力の歴然とした差は明白で、本気の彼女を敵に回したら何も残らないと思える現実に身震いするマイ。

 それで彼女を怖いと思えても否定する気になれないのは、三日間行動を共にして実に丁寧に自分達を護衛してくれていたのが判ったから。

 夜の怖さを紛らわせ、移動中も声を掛けて注意を促したりしてくれていたからだ。


「ホラ、お迎えみたいだよ?」


 ケーナが前方を指差した先に四つの人影があった。

 ボロボロのシャイニングセイバーとその部下の騎士。コーラルと何か丸いモノを抱えたスカルゴが人通りの絶えた一角で、一行を待っていた。


「二晩も姿が見えませんでしたのでお父上が心配なさっていました」

「すみません。私が軽率でした」


 シャイニングセイバーに引き渡したマイとロンティは、幾らかの注意を受けて頭を下げていた。

 ソレを横目で見ながらケーナはスカルゴから丸い物を受け取る。金とは違う輝きを放つソレは見た目に反して随分と軽い、大きさはよく熟れたスイカサイズだ。


「なにこれ、神鉄(オリハルコン)じゃない。なんで私に渡すのよ?」

「さっきの怪物のドロップ品らしいんですよ、母上殿。お二人は必要ないらしいので貴方に、と」


 眉をひそめたケーナはボロボロな二人に目を向けた。

 双方とも鎧は傷つきあちこち血だらけだ。コーラルに関しては数日前に見た時に背負っていた剣すらも半分から折れていた。むしろ必要なのはコッチの二人だろうとケーナは思った。

 その視線を受けてコーラルは苦笑して答えた。


「俺達にはソイツの加工技術が無いんでな。倒したのはアンタだろ、だったらアンタが持っていくのがいいだろう」

「うーん、じゃあ何か作るよ。何が良い?」

「作れるのかっ!?」

「うん、私は武器は間に合ってるし。剣が無い様だから剣にしちゃう?」

「ずいぶんと大盤振る舞いだな。後で加工代を要求されても払えねえぞ?」


 その訝しげな視線に見かねたスカルゴが間に入った。


「コーラルとやら。母上殿がせっかく好意を申し出てくれているのにその対応は失礼ではないか」

「い、いやー。疑り深くないと冒険者はやって行けねえからよ。すまねえな嬢ちゃん」


 スカルゴの目の中に『ギラギラと睨む狼』を見たコーラルは怯んで、素直にケーナへ頭を下げた。 

 ポコっとスカルゴを叩いて横にどかしたケーナは自分の仕事に戻るようにスカルゴに示唆する。渋る息子に向けてメッと視線だけで叱って職務に戻るのを納得させた。

 しぶしぶとその場から名残惜しそうに離れ、萎れたワンコみたいになったスカルゴを見たシャイニングセイバーは爆笑し、マイは忍び笑いを漏らした。


「あとアンタに俺とシャイニングセイバーで話がある。明日にでも時間取らせて貰って良いか?」

「明日ね、別に問題ないよ。あとカータツは私に付き合って、因幡の黒兎ってお店教えてよ」

「なんじゃそりゃ?」

「ケーナさん、黒兎の白尾亭ですよ?」

「あー、そうだった。ついでにマイマイの所にも顔出してこよう」


 二人の騎士に両脇を固められたマイはケーナの間違いを指摘してから「お世話になりました」と綺麗な姿勢で頭を下げる。

 シャイニングセイバーはちょっと驚いてケーナと姫を交互に見詰めていた。




 ケーナはマイに軽く手を振ると、カータツを伴ってその場を離れて移動する。

 カータツは王族だろうが全く普通に接する母親を見て、相変わらず何でああもさり気無く振る舞えるのか首を捻った。


「にしても貴族街の食堂になんの用だよ?」

「依頼で食材調達を受けたのよ」

「それに何で姫様が同行する羽目になってんだよ……」

「さあ?」


 楽しそうに笑みを浮かべてすっとぼけるケーナに、そら恐ろしいモノを感じてカータツは追求するのを止めた。

 追求したら最後、姉にプライベートを尋ねた時の様に冷たい目で見られそうな気がしたからだ。

 母親にそんなモノでも見る目線に晒されなんてゾッとするカータツと共に大河を越え、依頼を果たしたケーナは学院に足を運んだ。カータツとは工房の後片付けがあるというのでそこで別れた。


 ちなみに大河の渡しは生きている舟をかき集めて普段通りに営業していた。

 混乱は残るものの「人の営みって凄いなあ」とケーナが感心するくらい、人々は精力的に動き続けていた。

 中洲内の建物は建造物が水を被った程度の被害で済んでいたが、外に出ていて件の怪物を目撃した者達は波に攫われて半数が行方不明になっているらしい。

 大河に呑まれてしまっていると流石に探せないので、兵士達は住民と協力して港湾区の片付けに奔走していた。



「…………なんで隠れてるのよ、マイマイ」

「え、えっと、……そのぅ、なんと申しましょうか……」


 学院ではロプスとその背後に隠れている娘に迎えられ、ケーナは苦笑する。

 息子経由で抹殺宣言を受けて以来全く会う事もなかったのだから、無理もない。

 顔合わせた途端にぶっ飛ばされる覚悟もしていただけに、母親が特に何のリアクションもしてこないので逆に困惑していた。


「まー、貴女が私に黙って孫の存在を告げずに手紙を持たせたのは腹立たしいけれども。あの子たちとても良い子達だったから感謝するわ」

「ほっ……」


 安心して胸を撫で下ろすマイマイを見てニヤリと笑ったケーナは「それに」と付け加えた。


「むしろ、貴女よりあの子達と仲良くしたほうが楽しいと思うわ。意地が悪くないし素直だし、色々伝手が効きそうだし」

「御免なさい御免なさいお母様捨てないでっ!!?」


 母親の腰に泣きながら縋り付くマイマイを見たロプスは確信した。妻の意地が悪いのは確実に血筋だと。

 ぐずる娘の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべるケーナと目が合ったロプスは、安心するように微笑み掛けられて思わずドキッとした。

 まるで全てを許す聖母の様な微笑みに。


「……で、現場は何処なのかな?」

「あ、ああ、こっちだ」


 ロプスは頭を振って今の出来事を記憶から追い出すと、学院の敷地の隅に先に立って案内する。

 そこまで広くないので到着は直ぐだが、周囲は掻き回された様に掘り返されていて爆撃の跡地を彷彿とさせる有様だった。


 他の二人には視認出来ないが、ケーナの視覚にはソレがはっきり表示されていた。

 形状は黒の国の採取ポイントと同じ『???』と表示が空中に浮き出ている。

 確か友人からはここの発動アイテムは液体だったと聞いた覚えがある。そのログ部分はキーも記憶していたので確定済みだ。

 ロプスから聞いた話は大量の失敗作を混ぜ合わせた得体の知れない液体だと聞いたので、そのなかにキーアイテムとなる材料が存在していたのだろう。


 キーアイテムの作成は技能(スキル)の中には無く、専用のNPCに材料と交換で手に入れられる。

 この騒ぎの元凶もごくごく奇蹟に近い偶発的な出来事だったのだろう。少し考えたケーナは採取ポイントに爆裂魔法を叩き込んで地面を抉ってみたが、表示は消えない。


「お、おおお、お母様!?」

「な、なんだっ? どうしたんだ!?」

「うーん、消えないかぁ。中洲ごとぶっ飛ばしたら消えるのかなあ?」


 とんでもない爆弾発言に夫婦は戦慄した。

 件の怪物を一撃で消滅させたのが、神の采配では無くケーナの所業と知っているからだ。

 指を額に当てながら難しい顔で振り返ったケーナに二人は一歩下がる。勿論恐怖に駆られて。


「マイマイ?」

「は、はいっ? なんでしょうお母様?」

「この場所、誰も近づけない様に立ち入り禁止にして。その旨キチンと騎士団とかお偉いさんとかにも伝えてね。もしまた同じ事が起きた場合には……」

「お、起きた時にはどうするんですか?」

「……中洲諸共消し飛ばして大河に沈めるしかないわね。悪用されるのを防ぐためには」

「はいっ! 結界張って隔離して近付いた者は片っ端から牢にぶち込みます!!」


 ビシッと姿勢を正して母親の要請に応えたマイマイは早速手続きをする為に大急ぎでこの場を離れた。

 あまりの迅速さに残されたケーナはプッと吹き出し、憮然とした顔つきで会った時から何かを考えているロプスに向き直った。


「それでそっちは何か聞きたそうにしているけれども?」

「……そうだな。この騒ぎを仕出かした理由なんだが、ケーナ殿みたいにポーションを作りたかったんだ」

「はい?」


 ロプスの唐突な訴えに首を傾げるケーナ。

 少しして納得したように頷いた。


「ああ、【ポーション作成Ⅰ】のスキルが使いたいのね? 私の様に……」

「ああ、カータツ殿からは貴女がその”すきる”とやらを管理していると聞いた。譲って貰うのはダメだろうか?」

「うーん、本来なら試練を受けて貰うんだけれども。ま、悪用する人でもなさそうだし、いいか」


 羊皮紙とインクを取り出したケーナは光る球体を作り出し、【スクロール作成】を実行する。

 程なくしてロプスに古代現地文字で書かれた一枚の賞状の様なモノが渡された。


「但しソレが読み込めれば、の話だけれどもね?」



 ─── 翌日。

 シャイニングセイバーから伝えられた会合の指定場所は、闘技場の前広場。

 午後と聞いたので昼食を済ませてから出掛けたが、着いた時には既に二人が揃っていた。何故かコーラルだけは酷く疲れた顔でその辺にあった岩に腰掛けて憔悴している。


「なんでコーラルさんだけくたびれてるの?」

「いや、午前中に功労者って事で城に呼ばれたんだが……。色々作法とか言われて疲れたぜ。報奨金で儲かったが」

「お前さんも呼ぼうって話もあったんだがな。スカルゴの猛反対でお流れになった」


 何でも反対した理由が『母上殿はああ見えてもハイエルフです。人族の王に呼ばれて(・・・・)謁見したとあれば、エルフ族と人族の間に軋轢が生じて面倒な事態になるでしょう』とか言ったお陰だ。

 元より神の御技と民には認識されているので居ないものとされたそうだ。


 口を開きかけたシャイニングセイバーを一旦止めたケーナは風精と光精を呼び出して、周囲でコッチを伺っている隠者をここから遠ざける様に頼む。

 光精には光の屈折を歪めて広範囲の【姿隠し】をしてくれるように命令した。


「隠者なんか付いているのか、嬢ちゃんは?」

「自称宰相の御爺さんに一言断られてくっ付いているのよね。こう言う時の会話を聞かれると面倒だし」


「さて、始めるか。俺はシャイニングセイバー、呼び捨てで構わん。“銀月の騎馬”ギルド所属のサブリーダーをやっていた。レベルは四百二十七だ」

「俺はコーラル、ギルドは右に同じ。レベルは三百九十二だ」


 白い鎧をガシャリと鳴らすシャイニングセイバーと、昨日の事件で金属鎧を駄目にしたのか革鎧姿のコーラル。

 聞き覚えのあるギルド名に牛柄の竜人がヒットするケーナ。


「銀月の騎馬? 京太郎さんと同じ所の?」

「ウチのギルドマスターと知り合いだったのか?」

「まあ、それなりに。ケーナと言うわ。嬢ちゃんとか好きに呼んで。所属ギルドは“くりーむちーず”」

「「ブッ!?」」


 ケーナの所属ギルド名を聞いた男二人が同時に吹き出す。コーラルがひきつった顔で後退する。

 このギルド名を知らない者はモグリと呼ばれるくらい有名で、所属していたケーナですら当然の事実。

 ギルド所属人数十八名全員がGM権限を持つ限界突破者だからである。彼等の目の届く範囲で悪さをするともれなく垢バンにされてしまう為、ギルド名自体が恐怖の代名詞みたいなものだ。

 これにハッとなったシャイニングセイバーが気付く。


「待て、ウチのギルドマスターを知っていて、ハイエルフでくりーむちーず所属だと? もしかしてお前『銀環の魔女』か!?」


 途端にシャイニングセイバーの頭上にエンジェルが三体現れ、ラッパを高らかに鳴らして白い羽根を振り撒きつつクルクル回った。


「げ、このスキルは……」

「ご名答~!」


 何やらいきなり不機嫌になったケーナ。

 歪んだ口元に油断ならない気配を漂わせ、笑ってない口調でアイテムボックスより杖を一本引き抜いた。なんなのか目ざとく気付いたコーラルがうめき声を上げた。


「うげ、至玉の杖(アルカルスタッフ)!? そんなんどうする気だよっ!」

「その不名誉な名称嫌いなの。今すぐ忘れてくれれば良し、忘れてくれないのであれば……」


 じりっと杖を構えるケーナの目が座っているのに気付いた男達は、首が千切れるくらいに縦に振り回した。

 疑り深そうに暫くその仕草を見ていたケーナは、杖を仕舞って息を付く。 


「今後、その名称出したら次は警告無しでぶっ放しますからね」

「分かった分かったから、その目をヤメロ!」


「つまりアン……ケーナは千百レベルな訳だな、それもスキルマスターの」

「そうそう、スキルマスターNo.3のケーナよ。試練さえ受けてくれればスキル譲渡は普通にお渡ししますけどね」


 命の危機を脱したコーラルは肩を落として溜息を付く。

 あんなものの直撃を受けたら使用者の魔力次第に依るところが大きいアイテムなだけに、七百近いレベル差があるコーラルとしては一撃で消し炭になりかねない。

 シャイニングセイバーも似た様なモノなので戸惑いは隠せず、とりあえずは安堵した。


「あとこれ、コーラルさんに昨日言っていた約束のブツ」

「密輸品みたいな言い方だな、それ……」


 ケーナはアイテムボックスから大剣を取り出すと、それをコーラルに差し出した。

 受け取った方は剣のステータスを確認して悲鳴を上げた。


「な、なんじゃこりゃあああっ!?」

「なんだなんだ? 何を貰った?」


 横から手を出したシャイニングセイバーも、剣を手にとってステータスをひと目見て息を呑む。


聖戦士の魂(ヴァルハラ)っ!? 大剣の中でも最高峰の武器じゃねーかっ!!」

「ステータス軒並みUP効果と聖属性武器ですからね、そうそう簡単には壊れませんよ。金剛石とか鋼玉とか手持ち材料もありましたからいっその事と思ってグレードも上げたので、渾身の作品になりました」


 渾身の作品で片付けられるレベルじゃねーだろうよ、と二人の顔は物語っていた。

 ケーナは胸を張ってふふんと威張る。

 ゲーム中でも普通に売り払うならば七千万ほどの高値が付く代物だからだ。今の世にして金貨七十万枚分に相当する。

 暫く武器談義で盛り上がりそうになったが、途中で気を取り直したシャイニングセイバーが話の軌道を強引に戻した。


「ともかく色々と情報交換がしたい。俺はこの世界に降り立って三年くらいしか経過してないしな……」

「サブリーダーはそんな短いのか。 俺なんか十年も経ってるぜ」

「そんなこと言ったら私なんかまだ二ヶ月くらいだよ。それより、リアデイルのサービス終了について聞きたいんだけどー?」


 ケーナの疑問に二人は顔を見合わせて、訝しげになった。


「ちょっと待て、ケーナは何か。リアデイルのサービス終了を知らないのか?」

「うん、私の最後の記憶では五月の終わりくらいだったしね」

「リアデイルが終了したのは大晦日だぜ。なんで半年前にINしてた奴がここにいるんだ?」

「だって私、ゲーム中に死んじゃったんだもん」


「「ああそうなのか………ってなにぃっ!?!」」


 すわ幽霊かと青い顔になる男二人を諌めたケーナは軽く説明を入れる。

 リアルでは事故の後遺症で寝たきりだった事、推測になるが落雷で生命維持に支障が生じて精神がゲームに逃げ込んだ事、目が覚めたのが最期のセーブ地である自分の塔のお膝元の辺境の村だとかをざっと掻い摘んで話した。

 それだけ聞くとコーラルが納得顔で頷いた。


「つーことはあれか、一時期噂に出ていたゲーム中に死んだ奴ってのはケーナのことか?」

「げ、なに? 噂が立ってたの? 叔父さんがそういうの外部に漏らすとは思えないけどなあ」


 なんでも『ゲーム中に死んだ奴がいる』という噂が立ってから、リアデイルを運営している所へ親会社から圧力が掛かり、あれよあれよと言う間にサービス終了が決定してしまい。

 プレイヤー達の知る所になった時点にはもうどうにもならなくなっていたらしい。


 最後まで残っていたシャイニングセイバーの話に依ると、適当にパーティー組んで最後まで狩りを楽しんでいてサービス終了時間を越えて気が付いたら、街道にぽつんと立っていたとか。

 他のメンバーがコッチに来ていた痕跡は見当たらなかったそうだ。


「んー、細かい事情までは分からずじまいね」

「運営側とか親会社の事情まではどうにもならねえな。俺達が分かるのはこれくらいだ」

「だったら細かい事情はこれをどうにかするしかないかー」


 ケーナが取り出すのはオプスに託された本一冊だけだ。

 クエスチョンマークを浮かべる男二人にかくかくしかじかと説明をする。

 シャイニングセイバーは好奇心から手を伸ばし、手に取れないのに気付いて愕然とした。アイテムの所持制限レベルが千百なのだから当然の結果である。


「オペケッテンシュルトハイマー? 聞いた事ねーな」

「別名『リアデイルの孔明』とか言うんだけど……」

「うげ、あいつか。俺、大木が転がってきて避けたらソレに繋がっていたロープに足取られて、山裾まで引きずられた挙句、谷底へ大木ごと落とされて死んだ記憶がある……」


 思い出すと情けなくなって落ち込んだコーラルに、同じ記憶でもあるのか肩を叩いて首を振るシャイニングセイバー。見詰め合った二人はひしぃっと抱き合って涙を流す。

 置いてけぼりになったケーナはむさくるしい風景につい本音が漏れた。


「なんだこのコント……」

「「同じ傷を持つ仲間だっ!!」」



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