19話 姦しくしてみよう
サブタイトルェ……。
「んー、ど・れ・に・し・よ・う・か・な・天の神様の言う・と・お・り……」
フェルスケイロに帰って来たケーナは冒険者として毎日を送る生活に戻っていた。
選り好みしなくても、受けようと思えば片っ端から何でも依頼を片付ける事が可能だ。しかしそれをやってしまうと、冒険者を志そうとしてやって来る新米の仕事まで取ってしまうので止めておけ、とアービタに忠告を受けていた。
なので適度に難しくなく、それでいて何日も拘束されないもの。と言う基準で選んでいた。
「しっかしまあ、色々困ることがあるものねー?」
毎日少なくとも確実に8~10件は減っているはずなのに、依頼の貼ってあるボードには隙間の出来る気配が無い。
フェルスケイロの冒険者ギルドに常駐している者は、約20名。全員が何かしら毎日の様に依頼を遂行している訳ではないが、それでも新しい依頼は毎日の様に増えて行くようだ。
「まあ、人が住めば必要な物も増える。街に無ければ外へ探しに行くしかねえからなあ、悩みは尽きないってもんよ」
暇を持て余してたむろしていた重戦士の大柄な男が、ケーナの呟きを耳にして答えた。数人でパーティを組んでいる他のメンバーも似たような考えなのか、同調して笑い出す。
「街中の解決は出来ても、荒事は苦手な方は多いからね」
メンバー中、術士っぽい線の細い青年がそう付け加えた。「ちげえねぇ」と同意した他のメンバーもうんうんと頷く。
「猫を探してくれとかな。この街にどれだけ猫がいると思ってるのかって話だよな!」
「ああ、あれは参ったよな。猫は猫でもゴアタイガーの子供とか、そんなの街中で飼うなって言いたかったぜ」
「依頼人のご婦人は良い人だったじゃないですかー」
ゴアタイガーというのは後頭部から背中までを甲殻で覆われた巨大な虎である。猛獣の子供を飼い慣らす貴族は少なくない。再び依頼掲示板に視線を戻したケーナの後ろ姿を見ながら、一団は駆け出しの頃の苦労話に花を咲かす。こういう体験談も聞いていて心地良いよねー、と思ったケーナは一番最初に目星を付けていた依頼書を手に取った。
――─食材の確保:求むホーンベアの肉。依頼者:黒兎の白尾亭。報酬:銀貨8枚
店名はカータツから聞いた覚えがある。兄弟で何かあると集まって食事会をすると言う高級料亭だということを。
(今までどんな話をしていたのか、とか聞くのも面白そうだよね)
フェルスケイロに帰って来てからカータツにマイマイへ「覚悟しなさいよ」という伝言を頼んでおいた。それから3日間も会っていない。街中で偶然会ったロプスの話によると、何時訪れるか判らない恐怖に日々憔悴しているそうなので、そろそろ許してやろうかと考えていた。
(まあ、この仕事終わってからで良いか……)
受付に依頼書を提出すると、顔馴染みになった受付嬢のアルマナが応対してくれる。
「ケーナさん。これの配達先はお店へ直接になっていますけれど、場所は説明しましょうか?」
「人に聞けば多分大丈夫だと思います。分からなくなったらスカルゴでも引っ張って来て聞きますよ」
にぱーと気楽な笑みを浮かべたケーナに、アルマナは世界の傾く音が聞こえた気がした。
あの大司祭を使いパシリ扱い……。知ってはいるが理解し難い発言だ。
ある日血相を変えて下町宿屋に飛び込んで行った大司祭は既に噂になり、冒険者の間ではケーナが有名所三兄妹の母親だと言うのは周知の事実だ。
大半は「そんな莫迦な」と一蹴するか、ただの冗談だと笑い飛ばすに留まった。
しかし冒険者ギルドは正確無比な情報を扱う場でもある。
職員はそれが真実だと知っていたが、それでも目の前で再確認するのも酷な話だ。唯でさえ至宝の存在と母親を同列に扱う発言の多かったスカルゴマザコン疑惑の相手が、こんなうら若い女性だったと知ったファンの心境は計り知れない。
そんな街中の女性から、羨望なのか敵意なのか分からない感情を向けられているとは知らないケーナは、上機嫌でギルドを出ると市場へ向かう。
数日掛かるかも知れないので、保存食などを買い込む為である。
宿屋にも暫く留守にすると言って来なければならないし。途中で暇そうな少年達を呼び止め、少量の銅貨を握らせる。彼等にカータツへ暫く仕事でフェルスケイロを離れるとの手紙を届けて貰う。
デン助を下した手前、街の子供達に『恐ろしいねーちゃん』と認識されたケーナからの依頼を断る子供達はいない。息子達との【以心伝心】が出来ないケーナには丁度いい通達方法になっていた。
本来街中で片親しか持たない子供や孤児達は、この様な雑事で賃金を稼いでいると宿屋の女将さんに教わったので有効活用するケーナであった。
カータツが窓口なのは工房が一般人でも訪問しやすい理由だからだ。
市場で保存食を買うか、食材を購入して現地で料理するか迷っていたケーナは、幾つか先の大通りを歩く女性の二人組に目を留め、その片方がロンティであると気付いた。
何かの縁かも知れないと大急ぎで買い物を済ますと、後を追いかけて声を掛けた。
ケーナに気付いたロンティは明らかにホッとした表情を浮かべるが、片方の女性は距離を取って腰の物を今にも抜きそうな構えを取った。状況の分からないケーナは敵意を向けられる意味が無いので疑問顔に。ロンティは慌てて両者の間に入ると、剣を抜き掛けた女性を宥めた。
そう時間も掛からず女性を落ち着かせると、ロンティはケーナに頭を下げた。
「お久しぶりですケーナさん」
「こんにちはロンティ。元気そうね」
「ここで逢えて良かったです。街中探し回る事になるかと思いました」
胸に手を当てて「はーっ」と安堵するロンティに話が見えなくて、同行する女性に目が向かう。
薄桃色の本来は長い髪を編み上げでアップにして後頭部に纏め、ややキツい顔立ちだが強い意志の宿る瞳は茶色。自分を棚に上げたケーナは充分美人と評価する。身を包むのは女性用の白い軽装甲。それもフェルスケイロの騎士団が使う鎧と同じデザインだ。腰にあるは細身の剣、おそらくはレイピアか。キビキビした動きが垣間見える所から剣の腕はあると判断した。
どちらにしろケーナが見ればレベルが丸分かりなので、女性の実力はヘルシュペル騎士団の平騎士より下と分かる。
「こちらは私の学院でのお友達で、ええと……、マイさんです」
警戒を解いた女性は軽い会釈をケーナへ、それに笑顔と返すとマイは面食らった顔で一歩下がった。
初期に会った時のロンティと同じ反応なのでエルフが苦手なのかと思い返すが、当人は慌てて赤い顔をあらぬ方へ向けた。
ケーナは全く意識して無いが、彼女の満面の笑顔には【受動技能:魅了】が付与されている。初めて会う者が心構え無しでこれに対面すると赤面してしまうのだ。
勿論魅了には強制的に意識ごと操作するほどの効果は含まれて居ない。せいぜい初対面の心証に微量プラスする程度だ。
その様子を苦笑いで同じ道を通ったなあ、と見ていたロンティはケーナに再び頭を下げた。
「すみませんケーナさん。御忙しい所手間を取らせてしまうんですが、暫く私達が一緒に行動する事を容認して頂けませんか?」
「………は?」
逆に鳩が豆鉄砲食らったような顔をしたケーナは、ロンティのお願いに一時フリーズした。
直ぐに再起動を果たすと、言われた事を脳内で吟味して少し考え、二人の格好を眺めると予定を切り替えるしかないかと思った。
「うん、まあ、いいけど……」
「本当ですか! ありがとう御座います!」
手を組んで感極まったロンティは飛び上がって喜び、隣のマイの手を取って頷いた。
「ちょっ、ちょっとロンティ」
「マイさん、ケーナさんが引き受けてくれるそうですよ。良かったですねー」
妙に喜びすぎているロンティとそれに振り回されるマイを静める様に、手を叩いて一旦沈静化させる。
近くにあった食堂を指差し、二人に入るように促した。
了承はしたが事情を聞いておかないと訳が分からないからだ。
軽い果実酒が並ぶテーブルでロンティは失態を見せたと縮こまって、それを優しく宥めるマイ。
彼女の仕草に気品のようなモノを感じていたケーナは、上流階級の友人同士かと当たりをつけた。
「落ち着いたかなロンティ?」
「すみませんケーナさん。はしたない所をお見せしました……」
「それで私に同行したいという理由くらいは教えてくれないかな?」
口を開こうとしたロンティを制してマイがケーナに向きあった。
「ごめんなさい。彼女は私の都合に合わせてくれたんです。私が外に出るのが初めてなので、ロンティが付いて来てくれて。外をよく知っている人を護衛につけようと言ってたのですが、私が男性が苦手なので貴女に、と」
「で、護衛の依頼じゃなくて同行なのね? ってことは二人とも自分の身は自分で守れる?」
こくこくと頷いた二人の服装はともかく所持品を見て思案したケーナは、10数枚の銀貨をテーブルの上に置いた。
何がしたいのか判らないと首を傾げる二人に笑みを向ける。
「今からギルドの依頼で王都を出るところだったの。着いて来るのなら数日間の野宿に耐えられそうな装備を整えていらっしゃい。お金はサービスだから使ってね?」
「「は、はい!」」
異口同音に返事をした二人はお金を受け取る。
マイはロンティに野宿に必要なモノを聞きながら食堂を出て行った。
精算を済ませたケーナは食堂を出ると、食料を多めに持っていく事に決めて市場へ足を向ける。
二人の位置は王都の構造をバッチリと記憶したキーが請け負ってくれるので、はぐれる事は無い。
当初の予定より大幅に遅れ、昼を越えてからケーナ達は王都を出発した。
「そういえばケーナさんは何の依頼を受けたんですか?」
「ああ、話して無かったわね。ホーンベア退治だよ~」
「そうですか。………ってホーンベアですかあっ!?」
「うんそう、お肉が欲しいんだって。えーと、兎の白尻尾亭から」
「黒兎の白尾亭じゃないでしょうか……?」
「そうそうそれそれ、そんな名前だった」
気楽に鼻歌を奏でながら東へ街道を歩くケーナはともかく、ロンティはとんでもない依頼内容に青褪めた。
ホーンベアは頭部に1本か二本の角を持ち、三~五メートルの巨体に硬い毛皮を備えた熊型の魔物である。
普段は森の奥深いところに生息する雑食系の生物で、腹が空けば人里まで出てきて人も襲う。
仕留めるには森の奥まで入り込むことができて、冒険者でも数人のチームが必要だ。
学院生でも数人束になって勝ちが取れるかどうかの難敵にあたる。
マイも掻い摘んで説明をするロンティから話を聞いて、表情を引き締めた。
ケーナに渡されたお金で揃えた野宿用の道具や毛布代わりにもなるマントや非常食、それらを入れるザックを持つ自分達。
それに比べて装備以外は明らかに軽装なケーナの姿には疑問が浮かぶ。
「ロンティ、あの御仁大丈夫なの?」
「まあ、実力に関してはうちのお爺様も太鼓判を押してくれていますし。スカルゴ大司祭様の実の母親らしいですし、問題ないかと思いますよ」
「あの女性が噂の大司祭様の母親!?」
「? 何々、スカルゴがなんかした? マイちゃんに何か迷惑をかけたの?」
ひそひそと小声で会話をしていてつい大声を上げてしまったマイに、先行していたケーナが近付く。
慌てて口を押さえたマイの様子に訝しげになると、眉を吊り上げた。
「まさかお参りに来た女性に手を出してるとか!? おのれスカルゴ、女性の敵にまで落ちたのね。 帰ったら折檻だ!」
「ち、ちちち、違います違います! 時々相談に乗って貰ってるだけでしゅっ」
拳を固めて憤慨するケーナを捕まえて必死で弁明するマイ。
ここまで必死な親友の姿は見たことなかったのか、ロンティがポカンと呆気に取られていた。
語尾を噛み、赤い顔の必死さにピンと来たケーナは黒い笑みを浮かべた。
三日月のような黒い笑みを。
「はっは~ん。さてはマイちゃんウチの子に気があるのね!」
「ひぅっ……」
「え? マイさん本気で……?」
蒸気でも噴き出しそうな赤い顔で硬直するマイに、おそるおそる声を掛けるロンティ。
近くにいたロンティにも悟られないよう、うまく隠していたらしい。
すっかり好奇心旺盛な近所のオバさんになり下がったケーナは腕組みをし、深ーく頷いて「当たりか」と呟いた。
「相談に乗って貰えるところから優しく諭され、美貌と相まって心にストンと落ちる奴の甘い言葉。 かーっ青春だねえ~」
更に野暮な伯父さんにクラスチェンジしたケーナの言葉に、益々赤い顔で俯くマイに本気なんだと驚くロンティ。
「でもまあ初恋だから実らなそうだけど……」
「そんな軽い気持ちじゃ有りませんっ!」
イキナリ元に戻って鷹揚な発言をしたケーナに食って掛かるマイ。
しかし、彼女の口許がニヤリと歪むのを見てハッとなった。
「オゥケェ~、認めたね~」
「ち、ちち、ち、違います! これはそんな意味じゃなくて! もっとこう親愛の!」
「良いんじゃない? 特に反対もしないし、そういうのは大事だと思うし」
腕をばたばたと振って誤解(?)を解こうとしたが、ケーナの我関せずな態度に面食らって奇妙な表情をとった。
「息子達の恋愛には関与しませんよ私は。折角の恋心摘み取っちゃ悪いしね。 それにマイマイなんて、息子と娘がヘルシュペルに居るのに夫二人目とかもう自由奔放よ! 『娘の心を射止めたかったらせめてこの私を倒してからにするんだな』とかやりたかったのになー」
後日この発言をロンティから聞いたマイマイは、行き遅れにならなくて良かったと大層安堵したそうな。
母親の手に掛かればどんな猛者であろうともミンチになるだけじゃ済むはずがない。
ロプスに至っては非戦闘員なので、考えるだに恐ろしい結果が待っていそうなのだ。
この場の二人はケーナの実力の程は知らないので、「はあ……」と呆れて頷くだけだ。
日が完全に落ちる前ギリギリに、街道に備えられている簡易宿泊広場に辿り着いた三名は手早く野営の準備を始めた。
森の中なら問題なく【暗視】も使えて木々の声も聞けるケーナが薪を拾いに行く。
学院の授業で長距離行軍を行うことのあるマイとロンティが簡易式の呪いを広場に敷く。
大量の薪を抱えて戻ってきたケーナも交えて火をおこして水を沸かし、持ってきた干し肉と野草と芋で簡単なスープを作る。
一応万が一も含めて薪を拾いに行った時【召喚魔法:三頭犬】を使い、周辺を警戒させてある。
相当な実力を持つモンスターでも無い限り、この警備は突破出来ないだろう。
わんこーズの存在を知る者はケーナだけなので、二人は時折森から響くなんだか分からない音にビクビクしながら焚き火を囲んでいた。
食事を終えたケーナはアイテムボックスから材料を出し、鼻歌を歌いつつ膝上に材料を並べて確認をする。
「こ、こわくないんですかケーナさん?」
「別にィ、森だしハイエルフの領域よ。どこを今更怖がれって?」
事も無げに言い放つ、それだけどっしりと構えているケーナに安心したのか二人の怯えが少し緩和した。
(ありゃま、アービタさんの言った通りだねえ~)
アービタの冒険者講座に入っていた事例で、年長者が何も構わず腰を落ち着けているだけで周囲の不安は拭える。といったことを教わった。
それだけにこうも効果覿面すると、頼られてるって感じがして少し嬉しくなるケーナ。
それはともかく食後のデザートとして【調理技能:パイ】を起動させる。
両手の間に生まれた巨大な火球に膝上の材料が吸い込まれて行き、ものの数秒でルジュのパイが完成した。
いつも通りのいい匂いによしよしと頷いたケーナは、正面に座っていた二人組が目を点にして顎を落とした状態で硬直してるのに気付き、ポンと手を叩いて納得した。
「そか、これ使うの学院とエーリネさん達以外だと初めてか。なるほど」
愕然としている二人の肩を叩いてこっちに引き戻すと、皿代わりにその辺の樹から貰ってきた葉に切り分けてそれぞれに手渡す。
ケーナとパイを交互に見ていた二人は、調理人が美味しそうにパイを平らげるのを目にして、おずおずと口をつけた。
「あ、美味しい……」
「本当、甘い……」
「気に入って貰えて何よりだわ。六等分したからひとり二切れ食べてね」
甘いモノは別腹理論で自分の分をペロリと平らげたケーナは、ルーンブレイドを腰に刺すと立ち上がって広場より坂下にある川へ足を向けた。「ちょっと準備してくるね」とだけ言葉を残して。
「何を準備する気なんでしょう?」
「私もちょっとケーナさんの思考までは読めませんので……」
二人の疑問は程なくして解消された。
ドッゴッカアアアアアァアアンンッッ!! というもの凄い爆発音と、
ゴドドドグゴゴゴオオオオンンッッ!! という地響き揺るがす轟音によって。
慌てた二人が恐る恐る坂を下ると、地面から太い筒状に岩が直立しているオブジェを前にやり遂げた顔をしたケーナが居た。
「ケーナさん!」
「何をやっているんですかっ! これは何ですか、モンスター?」
「ああ、ちょっとお風呂作ろうと思って、地面が加工するのに硬いから吹き飛ばしたのよ。騒々しくて御免ね」
「は?」
「お、お風呂?」
爆裂魔法で地面に穴を開け、河原の石をレンガ状に加工して敷き詰め。水を川から引いて【温水】魔法で暖めたのだ。
もうもうたる湯煙が衝立代わりの岩の加工壁の向こうから噴き上がっていた。
もはや二人とも、ケーナのやること成す事の突拍子のなさに唖然とするしかない。
マイは疑問を持つよりは受け入れたほうが良いと考えて、ロンティを引っ張った。
「ま、マイさん?」
「せっかくですから入りましょう、ロンティ」
「え? え、ええええっ!?」
「じゃあ、私は此処で見張りしているからゆっくり入ってきてね」
「判りました。お言葉に甘えますね」
壁の向こうに移動した二人を見送ったケーナは、衝立の入り口で壁に背を預けて腕を組んだ。
同時に目の前にMAPモードになった画面が開き、キーが周辺の地形を表示する。幾つかの光点が蠢く中で赤いマークが無いのを確認して溜息を付いた。
それと同時にケーナの目前に風が渦を巻き、透き通った姿の三羽の小鳥が姿を現した。
昼間ひそかに呼んでおいたLV1の風精である。ホーンベア探索のために周辺に放っておいたのだ。
「やっぱり森の奥まで踏み込まないとホーンベアは居ないか~」
『目標、辺境ノ村周辺地形ト良ク似タ場所ニ生息ノ可能性アリ。北十七キロメートルニ生息ノ可能性、七十四パーセント』
地図上ではエッジド大河の本流スレスレの地域に当たる。
水辺が近くなるとそれだけ生物も増え危険も多くなる、レベルの低い二人を連れて行って大丈夫なのかと後悔し始めるケーナだった。
翌日、行動を開始したケーナは二人に森の奥へ踏み込む事を伝えた。
基本ゲーム中であれば単独行動を取る事が多かったケーナにとって、この二人ははっきりいってお荷物だ。
プレイヤーであれば初心者でもある程度の事は心得ているので放っといても平気だと思えるが。 何よりこの世界は死んで戻れる拠点がある訳では無いからだ。
【召喚魔法:triple load:風精LV1】
人の命が掛かっているとなれば、多少の秘匿主義も返上して特殊技能もバンバン使う。
風精を三体呼び出して進行方向のホーンベアを探索させ、二人の護衛にゼアウルフを二匹呼び出した。 風属性の白狼はいざとなったら風を駆けて空を飛べるので、二人を避難させるのに丁度良い。
身の安全を考えるのであればここで別れるのが常識になるが、二人がどうしてもと言うのでしぶしぶ了承した。一応防御魔法も二人に施して、保険は何重にも掛ける。
樹達に進む方向を尋ねながら、ケーナ達は森の奥深くを目指して進む。