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10話 幽霊を退治しよう

キャラが増えてきたので一覧を作ろうか迷っています。

PV12万5千とかユニーク1万4千とか、初心者に付く数字じゃないですよね!?

ありがとうございます。ありがとうございます。毎度毎度拙い文章やわけわからん言い回しでごめんなさい。

 ケーナが王都にやって来て十日が経過した。


 ギルドの依頼では長期に残っていて、ほかの人に言わせると『中々面倒なもの』を中心に片づけていった。


 適当に選んだ中での一件『特殊な植物の捕獲』。

 内容はその植物からの抽出物を染料に使うとのことらしい。捕獲ってところに嫌な予感がして、依頼人とともにそれが生えている王都より上流の湿地帯へ向かう。


 そこで見たものは、全高五メートルはあろうかというモウセンゴケみたいな食虫植物だった。

 さすがに直接手を出すのは気持ち悪かったので、岩人形(ロックゴーレム)を三体作り出し、引き抜く方法で退治した。その後もゴーレムがロープで纏めて依頼人に引き渡したのだが、どうやって抽出したのかは(はなは)だ疑問である。




 次にギルド前で待ち伏せていたアガイドに直接依頼された珍注文。 


「実はワシはこの国の宰相での」

「へー、ふーん」

「ものすっごい興味無いくらいに流しおったの……」

「そんな体育会系の宰相がどこの世界に居ますか。隠居した水戸の爺いじゃあるまいしー」

「タイイクカイケイ? ミトノジジイ? お主、時々妙な言葉を使うのう」

「それでご注文は?」


 なんでも再開発地域をなんとかしたいが、国費がないとかでどうにもできず困ってるそうだ。

 放っておくとデン助みたいなのが溜まったり、治安にも影響するというのでなんとかならないか? と相談された。


「……ところで何で私に白羽の矢が立つのよ?」

「聞いたぞ。お主、王立学院の学院長とスカルゴ大司祭の母親だそうじゃな。オマケに学院で古代の御技を使ったと。色々と報告が来ておるぞ」

「特には突っ込まないけど政治材料にするってんなら、怒るわよ」

「それについては大司祭から猛反発を喰らっとる最中でのう。よくできた息子じゃの」

「あの子にはまだ会ってないからなあ……」


 とにかく依頼を受けてどうしようか考えた。


 村おこしで城を建てたとかいうニュースを病院で聞いた覚えがあったので、それを参考にすることに。

 廃屋を全部分解してできた材木を材料に【技術技能(クラフトスキル):建築:城】を実行。一晩で誰も知らないうちに更地になったスラム区域に高さ八メートル程度の日本式の城が建った。


 実のところ、一度城を作った際に『観光名所みたいにするのなら内部空洞でもいいよね』とか思い、考え無しに支柱を取っ払い倒壊してしまったのだ。その時にまともな廃材を尽くダメにしてしまい、現在建っているのは材料の関係上、初期に作成した時より一回り小さくなってしまっている。 


 翌日、王都をひっくり返すほどの大騒ぎになった。

 騎士や文官が派遣された調査の結果、危険性が無いと判断された。

 その頃には野次馬や屋台が集まり、謎建物まんじゅうやら謎建物焼きやら、謎建物ミニチュアやらでどこのエセ観光名所かという騒動に発展していた。その後も連日大賑わいとなっているのは全くの余談である。


 当の依頼人は愉快痛快と大喜びで、ケーナに報酬として二十銀貨を支払った。



 最近では厳つい冒険者たちにも『実力は計り知れないが、世間知らずで抜けている嬢ちゃん』などと認識され、何かと助言を貰ったり雑談に混ぜてもらったりと積極的に交流を図っている。

 勿論、嫌みややっかみを言う奴はどこにでも居るが、その辺りは努めて気にしない方向で。


 時折興味深い情報が混じっていたり、美味しい屋台の場所を聞けたりするので、暇なときは大抵ギルドに足を運ぶようにしていた。



「あれ?」

「おう、どうした嬢ちゃん?」


 そうして過ごしているある日。

 依頼板を見ていて首を傾げると顔馴染みの冒険者たちに疑問を聞かれ、声を掛けられた。そうして下の方に張ってあった依頼書を指差し聞いてみる。


「これってこの前誰か受けてませんでした?」


 ケーナが指した紙を声を掛けた大柄な男性が仲間を呼んでから揃って覗き込む。他にも暇そうな冒険者たちに声を掛けたりして情報が飛び交う。


「結局、失敗して違約金を払ったって話だぜ」

「見掛けねえ四人組だったんで、外から来た奴らだと思ったがな」

「金額だけで選ぶから痛い目を見たんだろうさ」


 依頼書には『幽霊をなんとかしてください・闘技場運営委員会・銀貨八枚』とある。


「ふーん」


 なんとなく面白そうだと判断したケーナはそれを手にとった。


「おー、嬢ちゃん受ける気か」

「ほう、幽霊に会ったらよろしく言っといてくれ」

「ま、気を付けていけ」

「うん、ありがとう」


 依頼書を持って「アルマナさーん!」(赤毛の受付嬢)と声を掛けるのを、厳つい男たちは微笑ましく見送った。







 翌日ケーナは闘技場を訪れた。


 これが町の中には無く、どこに建っているのかと言うと丘の上に建つ王城の更にその向こう側にあった。


 一度大河を渡り(川から直接町の内外にでるのは禁止されているため)、貴族街の東の街壁門にいた衛兵に依頼書を見せて外へ。そこから丘を迂回してテクテク歩くこと二十分。闘技場に到着した。


 ギルドで聞いた話によると、一年に一度闘技祭とか言う勝ち抜き戦が開かれる所だそうだ。大陸中から猛者が集まろため、その時期だけ警備の依頼が増えたりするらしい。

 他にも騎士団の模擬戦に使われたり、学院の試験場所になったり、サーカスが来たりすると聞いた。


 入り口の衛兵に依頼書を見せると、実に頼りなさそうな顔をされた後、中へ案内された。

 まあ四人組やら五人組やらが失敗した依頼に、小娘が一人で来れば誰もが同じ反応をするだろう。中にいた責任者という細面のマクスという青年も似たような反応だったが、藁をも掴む気持ちだったのだろう。「なんとかしてください。よろしくお願い致します」と真摯に頭を下げられた。


 問題の幽霊だが、十日くらい前から通路や舞台に不意に現れたりするのだそうな。中には後をずっとついてきたりして、気味が悪いと感じた関係者が辞めたりと仕事に支障が出たりしているとか。


 出てくる幽霊も老人のような子供のような姿をしていて、統一感が全くないのだそうだ。

 ただどの姿も薄ぼんやりとしていて、それが皆の恐怖を誘うのだとか。そんな情報を一通り貰ったケーナは、二~三日泊まり込む許可を貰って幽霊に備えることにした。



 先ずは構造を把握するのに闘技場内をぐるぐると歩いてみる。

 見た目はテレビで見たことのあるローマの円形闘技場(コロッセウム)に酷似している。あれを完全に白い大理石で修復した感じの建造物だ 話によると王都ができる前からここにあるそうで、誰が建てたのか一切不明だという。



『ヨクソレダケノ怪シイ施設ヲソノママ使オウトシマスネ?』

「なんかそれだけで嫌な予感がするなー」


 キーの疑問に同意するケーナ。

 今回は対アンデッド(?)ということでいつもの装備に、赤い宝玉が柄にハメ込まれた長剣が一本。

 剣自体にサラマンダーを宿す、名称エターナルフレイム。場合によっては剣からトカゲ型に変形し、敵と戦うことが可能などこぞの特撮ヒーローの持つ素敵アイテムのようなブツである。

 なんで剣型の必要性があるのかが不明なネタ武器のひとつだったりする。


 後は索敵関連の【能動技能(アクティブスキル)】を全部立ち上げてゆっくりと通路を進む。

 闘技場を運営管理する人達は怖がってここには入らないらしいので、中に居るのはケーナだけだ。


 昼になる前にあらかた回り終えたケーナはアイテムボックスから食材を取り出し、闘技場の中央で火を起こして焼き始めた。燃やすのは例の城を作った時に使用に耐えられない廃材。食材は市場で買い求めたコルトバードとか、人参と大根を足して割ったような根菜とかである。


 なんでこんな所で焼いているかというと餌のためで、稚拙な隠遁で後を付けてきた者が居たからに他ならない。(見つけたのはキーだけど)幾つかの罠も仕掛けたし、ほっとけば捕まるだろうと考えていた。



 程なくして「ぎゃああああっ!」と言う悲鳴が聞こえ、闘技場の選手入場口から馬くらいの大きさの三頭犬(ケルベロス)が口に侵入者をくわえて尻尾をパタパタ振りながらやってきた。ちなみに中央頭がくわえていた侵入者は、みすぼらしい服を着て一般人に変装したデン助だった。


「ちょっ、おまっ、何だよコイツはっ!?」

「唯の召喚魔法だけど?」

「こんな魔法があるなんて聞いたことがねーぞ」

「そりゃまた随分とモノを知らないねー。ああ、学がないんだっけ?」


 デン助に関しては王族とかでなく、唯の子供として扱うとアガイドとも交渉が済んでいる。見つけたらぞんざいな扱いでもいいので衛兵に連絡して引き取ってもらうように通達されているとのことだ。


 ケルベロス(わんこーズ)に下ろされたデン助から、ぐうぅ~、と腹の虫が聞こえてくる。

 ひもじそうなので鳥の足を一本差し出してやると、奪い取って食い始めた。ホントに王族なのかと疑わしくなるほどの欠食児童っぷりだ。


 何でここに居るのかと聞いたら、見掛けたからと答えが返ってきた。

 「毛糸に群がる猫じゃあるまいし……」と思ったものの、さすがにここの衛兵さんに持ち場を離れさせるわけにもいかず、暫くは預かることにする。




 わんこーズにデン助を守れと命令しようとしたら、本人がどうしてもついてくると言うので、仕方なく連れ回す羽目になった。

 恐れを知らない度胸には好感が持てるけれど、それが無謀から出たのか蛮勇から出たのかは不明である。そこまで突っ込んだ内情を聞こうとはケーナも思っていない。

 只でさえ今現在のコロッセウムの内部には彼女が召喚した色々な魔獣が跳梁跋扈しているので、逆に目を離した途端襲われないか心配になる。人を襲えという命令はしてないが。


「それにしても何だよこの魔獣……」


 デン助を優先するようにと命令を出し、二人の後ろを『へっへっへっ』と三重奏で追従してくるわんこーズ。黒い体躯に赤く爛々と輝く瞳。生暖かいを通り越して時折熱い息。後ろを振り向く度に、鋭い牙がゾロリと並んでいるのが見えるので、ビクビクしているデン助に苦笑する。


 一系統という分類からすると、召喚魔法がおそらくはリアデイルの魔法の中で一番種類が豊富であろう。現にこれは【召喚魔法:獣】をひとつ覚えれば、単独で打ち勝った獣系のモンスターを片っ端から登録できる。

 唯一の制限としては、呼び出すモンスターは倒した時に一番高いレベル状態のだけしか呼び出せない所だろう。ケルベロスは魔界エリアで捕獲した時点で四百八十レベル。これに関しては一通り試してあるが、ゲーム中は『攻撃しろor戻れ』しか命令できなかったのが、かなり細かい命令まで聞くようになっているので、実に便利だと実感している。


 他にも【召喚魔法:竜】があるが、これはスキルを取得した時に出現する竜を国と同じ色の七種類、一~九の召喚レベルから選んで喚べる。

 コレクター魂を持つものはわざわざスキルマスターの所に通い詰め、全九種類を呼び出せるようにした人が居るらしい。趣味人には呆れるばかりである。

 竜や精霊等は召喚する時の強度LV×術者LV×10%が召喚された対象のレベルとなる。ケーナの場合は最低が百十レベル、最大が九百九十レベルだ。






 ─── 一方デン助ならぬこの国の王子は……。


 この王都に来て日が浅いのに、なにかと宰相や大司祭の口に上がるケーナという冒険者に不信感受けまくりだった。


 口もきつくて手も早いと言われる老骨ながら肉体派の宰相から「あの嬢ちゃんは面白いのう」とか聞くし。

 一度とんでもない手段で捕まった時を思い出す。

 嫌味(ひとりごと)を言ったら大司祭に聞きとがめられて、『母の愛は如何に偉大か』というお題目の説教を通り越した論法を三時間延々と聞かされる羽目になった。おかげで自業自得なところで恨みの念が(つの)っていく。


 せめて自分だけでも化けの皮を剥がしてやろうと思い、彼女の後を付けたり、素性を調べたりしてみたのだが、調べれば調べるほど分からない。

 先ずハイエルフである所。エルフの中でも至高の王族(ひきこもり)とかと言われている純粋の一族が、なんでこんな所で冒険者なんぞをやっているのか?


 次にあんなんでも三人の子持ちらしい。

 大司祭と学院の校長、港湾工房の名工ドワーフが彼女の子供だとか。それだけ聞くと国の重要ポストの半分が身内の手に落ちている事になる。

 更に冒険者ギルドで聞き込みをした結果、見た目にもかかわらず手練れの戦士らしい。あとは自分の王族とかを差し置いた友人であるロンティが、異様に尊敬しているところとかが許せない。


 そんな私的な理由で後をつけてきたのだが、忍び込んで腹が空いたと思ったらいい匂いがしたからそっちに移動したら、巨大な三つ首犬に見つかって喰われかけた。悲鳴も上がろうというものである。


 ゴァウゥ

 わうぅ


 背後で何か恐ろしい重圧感と共に、魔獣と何かが言葉を交わす気配が伝わってくる。

 「振り向くな振り向くな」と自分に言い聞かせたデン助は、何か重量のある物が床を震動させた気がして、つい背後を振り返ってしまった。 


 黒い体躯をした魔獣の向こう側。

 更に巨大な天井まで届くかという燃えるような赤い鱗の巨躯。人などひと飲みにできそうな凶悪な口腔。チロチロと赤い灯火が見え隠れし、牙の噛み合う──────。

 それが何なのか理解するよりも縦に裂けた金の瞳と視線が交差。直後どっぷりとした闇に包まれ意識が混濁した。



 ドサッと何かが倒れる音にケーナが後ろを振り向くと、床に伸びているデン助が目に入った。


「え? あれ、どうした………の……」


 鼻面をつけてふんふんと匂いを嗅ぐわんこーズは良いとして、その背後から「容態はどないや?」とでも言うように通路にギリギリなレッドドラゴンが覗き込んでいる。それだけで何で倒れたのか理解した。


 低レベルで呼び出すならともかく、高レベルで呼び出されたモンスターはそれに相応しいスキルを有している。今回は対アンデッドの対策用に火系モンスターを何匹か呼び出してあった。

 一応ケーナがゲーム中で遭遇した最大レベルのアンデッドであるデュラハンが八百レベルオーバーだったので、予備兵力にドラゴンを七百七十レベル(最大九百九十で呼び出そうとしたら他の召喚獣との兼ね合いから無理とキーに進言された)で出現させたのが拙かったらしい。

 様子を見る限りでは【威圧】(対象の回避を下げる)か【気圧】(戦闘意欲を削ぐ)、【魔眼】(気絶効果)にやられたのだろう。




 結局、うろうろしているうちに夜になってしまったので、闘技場の中央で夜を明かすことにした。

 それはそれとしてこのデン助はここに居ていいのだろうか? と疑問はつきない。

 今まさに誘拐にあったとかで王宮が大騒ぎになっていなきゃいいなと思うケーナだった。


「しかし、アンデッドの仕業とも思えないんだけどー……」


 一応最大レベルでの【召喚魔法(サモンマジック)屍せる人形クリエイト・アンデッド】も唱えてみたが反応が無かったため、相手がアンデッドでないと確信されただけである。


 この魔法はリアデイルのゲーム内でも禁忌に指定されているわけでもないが、極端に毛嫌いされている魔法だ。街以外のフィールドには何処も隠しパラメーターとして、不浄度というものが設定されている。

 この数値の高低が夜間のアンデッドの発生率を示す。ゼロ%でなければアンデッドを召喚することも可能である。

 しかし、ココにはソレが無い。つまりはこの闘技場には不浄なるものは存在しないことになる。


 召喚したモノたちの継続存在時間は最大六時間。

 何があるか分からないので三頭犬(ケルベロス)だけは再度召喚し、残りは時間が過ぎたので自然に消えてしまっている。【捜索】やら【探索】なども虱潰しに行使してみたが何も見つからない。隠し扉の一つも無し。完全にどこからどうすればいいのかお手上げの状態だ。


 いっそのこと穴でも掘って地下空洞でも探してみるかと道具を探しにアイテムボックスを開くと、普段は使わないから仕舞ってある守護者の指輪が点滅していた。

 慌てて引っ張り出してみると(ほの)かに蒼く(またた)いている。


「……って、まさか、ここがそうなの!?」


 思い当ったら即行動。三頭犬(ケルベロス)にデン助を頼むと、指輪を掲げてキーワードを唱える。


【乱世を守護する者よ! 堕落した世界を混沌より救済せしめ給え!】


 瞬間、足元から噴水の如く十字に光り輝く無数の星がケーナを取り囲み、霧散して彼女もろとも瞬き消えた。強い光のお陰か気絶していた王子が眼を覚ました時には、そこは焚き火とケルベロスだけが大人しく鎮座しているだけだった。









 強い光に囲まれたケーナの視界に光が戻ると、周囲の風景は一変していた。


 五十メートル四方の完全な半円ドーム。

 足元には緑のラインで区切られたグリッドのような無機質な床。

 頭上は青い空に雲を備えた映像。その中空をデフォルメされたフェルトで作られたヌイグルミのような太陽がふよふよと移動している。しいていうならば、昔の天動説のミニチュアセットである。


 部屋の中央には腰までしかない大理石の柱みたいな、ホームセンターで売っている白い彫刻状の植木鉢。敷き詰められた土には半分ほど枯れ掛けて茶色い葉を晒す小さな(もみじ)

 これが守護者の中核かとアタリをつけたケーナは、自身の半分ほどのMPをそれに注ぎ込む。

 みるみるうちに枯れた葉が瑞々しさを取り戻すと、中核を挟んだ対面に煙が噴出し、凝り固まって白い人型が姿を現した。


 右手を腹に添えて腰を折った白い人型は、煙の固定できない感じの姿をゆらゆらと淀ませながら言葉を紡ぐ。


『ようこそいらっしゃいマした。此処はスキルマスターNO.9、京太郎様の管理すル守護者の塔です。お客様のお名前を伺ってモ宜しいデしょうか?』

「スキルマスターNO.3、ケーナよ。貴方のマスターはどうしたの?」

『これはケーナ様、失礼致しマした。我が主は不在デございまス。いいえ、二度とこの地に戻ることは無いでしョウ』

「なんですってっ!? どういうことなのそれは!」


 スキルマスターNO.9、京太郎はケーナと同様の限界突破者で竜人族(ドラゴイド)であった。

 ケーナの所属していたギルドとは別で、自ら立ち上げたギルドのマスターを務めていた男だ。主に近接戦闘の完全前衛型で、ケーナの戦闘スタイルとはほぼ対極に位置する。


 その彼は塔が活動を止めるに至ったある日、「最後だから」とここにやってきて「もうすぐ僕たちの夢も終わりが来る。今までありがとう、楽しかった。最後にスキルマスターが十二人でしか集まれなかったのは寂しいことかもしれないけど、また別の舞台で出会えるかもしれないから」とだけ言ってここを去ったそうだ。


 その後は塔ごとスリープモードにあったが、最近近くで守護者の指輪反応ケーナのことであるがあったのでメッセージだけでも伝えようと思ったらしい。しかしMP枯渇状態だったので、上の施設である闘技場で幽霊騒ぎを起こすのがやっとだったとか。


 ケーナの方は文章から導き出された答えに大体の事情を察した。


 『スキルマスターが十二人でしか集まれなかった』=各務桂菜の死後。

 『僕達の夢も終わりが来る』=リアデイルの終了。 

 

 つまり今居るこの世界は“リアデイルの未来”じゃなくて“プレイヤーの撤退したリアデイルの未来”であって、どこをどう探してもケーナの様な長命種のプレイヤーは見つかるわけが無い、ということだ。


「……いやはや、参ったねこりゃ……」


 ちょっとはそんな存在に会うことを期待していなかったと言えば嘘になるが、陰で心を支えていた気がした柱が木っ端微塵に砕ける音を聞き、ぐんにゃりと座り込んでしまう。「はあ~あ~ぁ~~」と聞いてる者がいたら脱力してしまいそうな大きな溜息を吐く。 

 

 その目の前に白い手に乗せられた守護者の指輪が差し出された。

 ケーナのとは色が違う空の青さを持つそれは……。


『ケーナ様、私の塔のマスターはもう居ませんガ。貴女を我が守護者の塔ノマスターと認識しマス。これを』


 唖然とそれを見るケーナの手を取って、指輪を握らせる。

 そして一歩下がって膝を折り、頭を下げた。


『マイマスター。どうぞ御命令を』


 自分の手にある指輪と渡された指輪を見比べて、自分の守護者を思い浮かべる。

 あの壁画とはこの対応は違い過ぎる。二人の落差にうんざりして、溜息を吐きながら立ち上がった。なんと言うか落ち込んでいても現状が変わるわけでもないので気合を入れた。


「んー、これと言ってお願いするものはないなあ。とりあえず上の闘技場を誰かが使っていても使わせてあげてね?」

『は、了解致しマした。この辺りにはソレほど人が住んでなかったように思えルのですが?」

「あー、アレから二百年ほど経っててねー。この直ぐ向こう側に新国の王城ができてるのよ」

『なるほど、分かりマした。とこロで、上の闘技場で子供がひとり騒いでイルようですが?』


「そういえば置きっぱなしだったのを忘れていた。気が付いたのか……」


 あまりのショックにすっかり意識外に追いやられていた、いや存在ごと忘れていた。

 色々と生意気で小憎らしいが、子供のうちから言いたいことも言えないような、押さえつけるみたいな教育を教え込む気は無いし。なんにせよ他人の子供だ。教育に関してはそれ相応の教育係が居るのだろう。 


 こちらの依頼は大体終了したし、後で衛兵にでも突き出そうと意識を切り替える。

 とりあえず話をしているうちにある程度回復したMPの残りを核に注ぎ込むと、お(いとま)することにした。


「そろそろ戻るわ。また今度にでも補給には来るから」

『分かりマシた、御送りしましょウ。お気をつけて』


 視界が瞬時に切り替わる。

 ケーナの出現場所は闘技場のフチの部分、観客席の一番高い場所に出た。

 闘技場の舞台となる所を見下ろすと、思わず首を傾げてしまうほどの妙な光景が広がっていた。


 先ずはデン助、これはまだいい。わんこーズの背後で焦った表情でおろおろしている。

 次に三頭犬(ケルベロス)。デン助を背後に庇い、三つ首の牙を剥き出しにして唸る唸る唸る、そして三重奏で吠える。命令を見事に遵守する忠犬っぷり。

 最後に抜剣した白い鎧姿の騎士が三人。わんこーズを取り囲み、その卓越した剣捌きを障害に対して繰り出しているが、悲しいかな掠り傷一つ付けられないでいる。 


「なによこれ?」


 観客席を下ってからその下の舞台へと軽やかに飛び降りる。

 土を踏む音に気付いたデン助が大慌てで駆け寄ってきた。


「おいこら! あれをなんとかしろあれをっ!」

「いやいや、一体全体何がどうしてこうなったのか?」

「俺を迎えに父上の騎士が来たんだ。でもお前のペットがそれを邪魔しやがって。あいつらは俺に近づけないでいるんだ!」


 なるほど。この世界にも隠密とかそれに似たような者は居るらしい。

 アガイドが堂々と「ケーナ殿にも一人付けさせてもらってるぞい」とか申告してきたので、それからここに至ったのだろう。でもケーナが『デン助を守れ』と命令したために連れていくことはできなかったと。


三頭犬(ケルベロス)! もういいわ、止めなさい!」


 それを聞くや否や、わんこーズは戦闘態勢を解除してケーナまで走り寄ってきた。

 体を摺り寄せてくるので、首元を軽く撫でてやる。毛皮があっても硬いのでもふもふとはいかず、ごわごわだが。それと一緒に抜剣したままの騎士も警戒するように近付いてきた。


 わんこーズと一緒に道を空けるように脇に退いて、デン助を前に押し出してやる。


「すみません、ウチの子が粗相を致しまして。夜の野外は危険だからその子を守らせていただけなのですが……」

「貴公か、宰相殿が言っていた冒険者というのは?」

「そのような危険な魔物を野放しにするとは何事か!? 大事が無かったから良かったものの!」

「君の行動は我々の眼に余るものがある。すまないが騎士団詰め所まで来ていただこう」


 なんとなくケーナは察した「だめだこいつら、典型的な頭の固いお役所仕事人だ」と。


「申し訳ありませんが、今は依頼をこなしている最中なのです。また後日ということでいいですかね?」

「我々に逆らうというのか? たかが冒険者ごときが!」


 不穏な空気を察してか、わんこーズは再び唸り始めた。手綱を離したら一瞬のうちに勝負が付くだろう。それをやると後に禍根が残りまくりそうだが……。

 デン助に至っては騎士たちの後ろで「そうだもっと言ってやれ」と煽っている。


 やれやれ、権力に対抗するにはやはり権力しかないのか。

 溜息を吐いたケーナは腰のポシェットから、鈴ストラップの付いたボタンを取り出した。真逆こんなに早く使う羽目になろうとは……。

 あとでくれた本人に聞いたところ、これを提示するだけでケーナにアルバレスト侯爵の保証が付くのだそうな。罪過を無理やり放免しているようで気分は悪いが。

 つーか牢に入れられたなんて聞いたら息子と娘の反応が怖い。いやマジで。


 ケーナの提示したボタンひとつで騎士たちは恐れ(おのの)いた。

 膝を折って非礼を詫びるのを押し止め、デン助を連れ帰るように頼んでおく。直ぐに彼らは要求を飲んでくれて、ジタバタ暴れる子供を引っ張って闘技場を去っていった。

 姿が見えなくなるのを待って、焚き火の傍にケーナは座り込んだ。それを支えるようにわんこーズが背後に回る。


「あー、もうなんか疲れたー。色々考えてたのが馬鹿らしいわ……」


 毛布を取り出すと包まってさっさっと寝ることにする。

 朝になったら依頼終了だ。


 くぅ~ん





 翌朝、焚き火を綺麗さっぱり片付けて、わんこーズを送り返した後、代表者のマクスに会いに行ったケーナは「原因は取り除きました」と告げておいた。

 一概には信用してもらえないので、報酬は完全に幽霊が出ないのを確認してからということになった。


 結局、三日後にキチンと冒険者ギルドから銀貨八枚は支払われたのである。


病院の待合室で思いついた事をメールにしてポチポチ打っていたら怒られました(←当たり前だ!)

くそうあの婦長めー、過去ドジっ子看護婦だったくせにー(#

土日なので結局更新は変らなかったという……。

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