ベクトル プロローグ
この作品は長毛種の猫が書いた連載中「たぶん私は世界一幸運で不幸な元女の子」のサブキャラである、生徒会長の直樹が主人公の1人です。
お読みでない方は、お時間があれば是非読んでください。
話の中にリンクする名前を出すので、もっと楽しめるかも知れません。
繁華街に並ぶ古いビルの一つに、1人の男が地下へ続く階段を降りていく。
男の容姿は若いが、体格がよく身長も長身。鍛えられているのかがっちりとした体つきで、顔も上級な部類に入る。道を歩くとお姉さんに声を掛けられるのだけど、男は軽くかわして道を急いでやってきた。
外の音を遮断するために厚いドアを開き、室内へ入ると男は最低限の証明しかない中で目を動かし、ここの主を探す。
「よう、予定通りに完成したんだな。ご苦労ご苦労」
外からやってきた男はポツンと置かれた、小汚いソファへ向かって労う。
店内というよりは、工場の仕事場といったほうが相応しい室内を体格のいい男が平然と歩き近づく。
室内は、作業テーブルの上に様々な工具が置かれ、中には一般家庭にはお目にかかれない大型の機械まで揃えられ、コンクリートの壁にも立てかけた工具や部品、設計図が所狭しと張られて異様な雰囲気を出している。
工房といった室内にある大きな黒いソファからは不精ひげと黒いプラッチックのメガネをかけた中年一歩手前の男が起き上がった。
「うるせぇぞ!誰の責で徹夜ぶっつづけデットレース、連続記録更新おめでとうになってるんだと思っているんだ」
中年一歩手前の男の眼にはうっすらと隈が浮き上がっている、本当に徹夜仕事をしていたという証明があった。
「いつも悪いな、だがアンタほど信頼できるのがいなくてね」
「信頼よりも、無茶苦茶な注文を『押し付けられる』間違いだろうが!」
ガルルルッと噛み付きそうな顔で、男へ食って掛かる中年一歩手前の男は服部 宏一年齢はオッサン直前で、繁華街の中にあるビルの地下を根城&仕事場にしている変人だ。
仕事の内容は、基本的にはオーダーメイドの何でも屋。依頼人が望む工具、防犯グッツなど改造から製造まで手がける。
ただ、天才と謳われるほどの腕を持つが、残念なくらいに変わり者。よくある人との繋がりを嫌がったり、自分の作品を子供といいのけ乱暴や雑な扱いをする者に二度と商売の相手にしない等々。
改造された自分の作品が犯罪に使われる可能性があるものは一切取り合わず、気難しく自我が強いので服部の客は余り多くない。
いても半分以上が追い返されていく、しかし服部は不機嫌ながらも男を客として迎え入れた。
その男は待ちきれない様子で服部に質問する。
「で?俺の注文してたアレは?」
「そこだ、ペイントも完璧だろう?」
顎で服部は方向を指した、そこには壁に掛けられている一着の服があった。
壁にかけられている服を、外から来た男は見上げる。予想通り……いや予想以上の出来だ。
「しかし、お嬢ちゃんも気の毒に。兄貴の奇行に付き合わされるなんてな」
服部は胸ポケットからタバコを取り出して、銜え火をつけて呟いた。
「そういうなよ、最後のフィナーレは華々しく飾るもんだろう?」
「どうだか……」
と独り言を呟く服部を他所に、外から来た男―――名門学園である鳳凰学園の生徒会長、甲本 直樹は嬉しそうに見ている先。
壁にかけてある漆黒の細めのレーシングスーツと同じく、黒い色なのに黒猫のイラストが描かれたフルフェイスのヘルメットが装着する者を静かに待っていた。
***
華も恥らう、女子高校の一つの教室では1人の女子生徒が大きく背伸びをする。
「くあ~やっと…終わった」
ついでに大きな口もあけちゃう。
「下品だよ?あんたは正真正銘のお嬢様なんだから、お淑やかにしないと」
前の席に座っていた友だちが、振り向き笑いながら注意をするが。
「そんなの関係ないわね。しっかし長かったわ…担任の話は…」
ぐったりそのまま机に、ダイブ。ひんやりしていて気持ちがいい。だらしない後ろの席のお嬢さまへ前の席の友達が呆れた声をだす。
「その代わり、明日から夏休みよ…って高校最後の夏休みなんて勉強に決まってるけどさ」
そうだ、明日から一ヶ月とちょっとの休みがある。毎日家にいると退屈だけど、毎日学校へ通うと休みは愛おしい。
「大丈夫、私は勉強しなくても進路きまっているから」
机に頬をつけたまま、私が喋ると前の席の友だち。花村 恵子は唇を尖がらせてすねた表情を作る。
「いいわよね~あんたは…私のうちは所詮は成金だもん……あ~ぁコネが欲しいわぁ」
ソレを聞いて机から顔を上げて、苦笑いをする。
私のうちは確かに裕福な家だ、名家である加藤家から分家した甲本家のご令嬢である。加藤家の跡取りの妹が私の母親で、加藤家は様々な事業をしていて、甲本家は加藤家の右腕的な存在。
加藤家の古くからある職の一つは学園の運営であり、名前は名門鳳凰学園という。
次世代の長を育成するという目的の元に設立された由緒正しいエリート男子校だった。そこには私の兄も通っている。
そして私は甲本 奈保子、ピッチピッチの18歳。
悩みは平均より体格がよいことと、中々男気の溢れる性格。
特に身長は178センチ…女の子にしては大きいほうで、別にバスケをやってないのにムクムク大きくなっちゃった。
ここで何の悩みもなく、自分の進路を楽観しているのは私の伯父が鳳凰学園の理事長を勤めて、私の通っている私立応龍女子高校は姉妹校の関係にあるからだ。
密接な関係がある鳳凰学園の関係者の私を、放り投げる訳がない。
いざとなったら私立応龍女子高校の大学、私立応龍大学へは裏口入門でもさせる勢いがある。別にそこまで私の頭も馬鹿じゃないけどね。
こういう話になると恵子は羨ましくていいな~的な発言をするので、私は一応言っておく。
「八つ当たりはやめなよ、私は平凡にここの大学へ上がるだけ、恵子は自分で医学の道に進むつもりで留学でしょ?」
恵子は「まあね」なんて、屈託なく笑って答えた。恵子の家は恵子が子供の頃に急成長した病院の大切なお嬢さん。
だけど、自分で成金と申すようにまだ家としては名が知られてないので、その子供となる恵子も自分が頑張らないとならない。
どこの業界もコネクションは重要な武器。
しかも恵子には急成長する子供の病気を治すという高い志の夢があった。それはとても難しい遺伝子の病気で未だ治療は難しくて十代なのに三十代の臓器を持つ子などがいる。
そんな子供たちの病気を研究して治したい、恵子の両親が医者として働いている姿を見て育ったから。
夢は未だに揺らぐことなく、一年の頃から希望している大学へ行くための準備をしていて、最終調整を三年にあがったのでしているだけだ。
元から恵子には休みなどない、世界中から入学を希望している学生と恵子は戦わなくてはいけない。それほどまでに競争率の高い外国の医科大学へ挑戦する。
大変そうだと、高みの見物気分が半分。なのに、うらやましい気持ちが半分。
奈保子はカバンに参考書を入れている恵子を見ると、カバンを持ち立ち上がった。
恵子はこれから図書室のぶっ厚い何語が書いてあるか分からない本を読みに行く。一緒にいたって邪魔になるだけなのを知っているのから、机の中を空にしていた奈保子はいつもより重いカバンをもって恵子に手を振って教室を出た。
廊下は明日から夏休みというので、テンションが上がっている生徒が多い。先ほど言った鳳凰学園は日本中のエリートたちを集めた寮制度の学校だけど、ここ応龍女子高校は其処までの敷居が高くない。
確かに、自分を含めご令嬢と呼ばれるお嬢様は多く通っているが、一般家庭の子も半分くらいいる。
遠くから通う子には寮もあるが、私は家から通学しているから閉鎖的な息苦しさは鳳凰学園に比べて大分ゆるいと兄が言っていたっけ。
私の生活は平凡ボンボン……、恵子みたいに情熱をもって生きてもいない。家だって跡取りは兄で何もかも自由なのに、私は何かにのめり込むって意欲がない。
このまま大人になってもいいのかな?
なんて最近、進路で色々言われる三年だからだろうか、考えるようになっていた。
正直のことろ恵子が眩しい、一年から思っていたけれど最近はとても。ちょっとの休憩でも英語とドイツ語を懸命に勉強している姿は夢に向かって確実に歩んでいるのを目の当たりにしていた。
モンモンとした気分で歩いている奈保子に声がかけられた。
「奈保子ぉーー!!」
奈保子が校舎を出て、裏門近くにあるバス停から家に帰ろうとして第三体育館の中で声の主は、同級生の前川 富。
彼女は体操部のエースでクラスメイトだ、彼女も私も同じ女だけどレオタードに目が行っちゃうぞ!細長い足にロックオン!!
足をまじまじ見てたら、親父か!?と軽く殴られた、そして。
「ちょっと後輩に奈保子のバク転を見せてあげて」
「なんで…私は体操選手じゃないよ?帰宅部よん?」
富の後ろには数十人の後輩たち、夏の大会に向けて最後の追い込みをやっている。
その子たちが、私を怪訝そうに見ている。そりゃ、私は体操部でもないのに体操部のエースに指名を受けているのだから。
「分かっているわよ、才能の不法投棄よね奈保子は…」
「酷い言われようじゃない私。それくらいなら、まっいいけど」
そういって、私は軽くストレッチをしてマットのある方へ歩いていく。
「ねえ、ズボン貸して」
スカートのまま飛んだら、パンチラしちゃうじゃない?
富に借りた体操服の短パンをスカートの下にはき、軽くジャンプ。
凄い視線、超見られてるわ~。
「よ~く見てなさい、体の重心の掛けたかと体のバネの重要さを」
そう教えると富は目で合図を送られ私は動き出す。
助走をつけて長細いマットの上までくると、走りながら体を前に倒して、マットに手をつけると側転のあとバク転を三回披露して見せた。
バク転だからね、一度からだの向きをかえる為に、側転してかえなきゃ前転になっちゃう。
ストッとマットの上に、上手く乗り止る。半信半疑だった体操部の後輩たちから拍手が私に送られた。
「まったく、奈保子が体操部ならもっと楽なんだけどな~」
毎回私を勧誘してくる富に、私の脱ぎたてホカホカの体操服を渡す。
奈保子は苦笑いをして。
「無理、私のは一応護身術として身につけてたから基本が違うよ」
毎度の勧誘攻撃が熱を上げる前にじゃあね、って手を富に振ってカバンを持って今度こそバス停に真っ直ぐに向かう。
本当はわたしには甲本家のお抱え運転手さんがいる、けど私の為に呼び出すのが申し訳なくて呼ばない。
応龍女子と実家では片道一時間ほどかかるから、私も時々には寄り道もしたいので乗せてもらう習慣をつけるのは躊躇われるというのが前提で、昔からの知り合いならともかく一般家庭の女の子からドラマであるような高飛車なお嬢様のイメージを私に持ってほしくないってのもある。
中身は大雑把な性格なのに、わたくし貴女方はと違うのですわよみたいな性格に思われやすいんだ、金持ちのお嬢に抱く先入観として。
これでもファグラよりも街のラーメン屋さんの鳥餃子がすきなのよ?贔屓にしているお店が主人がもう高齢になられて引退された時は絶望したっけ。
手の届かない味を思い出しつつ他の生徒と混じってバスに奈保子は乗り、学校から自宅へ向かってバスは発進した。
家はマンション、一応は高級マンション。本当の家というか屋敷は他にあるけどちょっと事情があって家族はここに暮らしている。
バスから降りて、少しだけ歩き自分の暮らしているマンションの広々としたエントランスホールで暗証番号をエレベータ前の入口で入力してエレベーターに乗る。
住んでいるマンションの最上階だから部屋の階まで時間がかかる、だけど景色は最高。
最上階までになると一つの階に三つしか部屋のドアがない、その中の一つの前に奈保子が立ち止まり。
鍵を出すのが面倒だから玄関のチャイムを鳴らす。すると暫くしてドアのカギが開き鍵を開けてくれた人物が顔を覗かせた。
「よっ、お帰り」
「お兄ちゃんこそお帰りなさい!」
ドアの向こうには、双子の兄。直樹お兄ちゃんがいた。
私から優性遺伝子を全て吸い取ったようなお兄ちゃんだ、やきもちや嫉妬はしないけど実の兄ながら素敵な人。
黒髪は艶があって顔もハンサム、私よりも長身で足だって長い。そして強い。
見て?この体格、男のグラビアに出そうなほどに逞しい。(それってゲイ雑誌だっけ?まあいいや)
勉強だって、いつも中の中である私とは違って、かなり眩しい成績を守り続けている。
身内である妹の贔屓を除いても、我が兄は凄い。
夏休みの少し前に鳳凰学園と交流会があって、鳳凰学園の男子生徒と応龍女子生徒がダンスパーティをした、その後にお兄ちゃんを紹介して欲しいと女の子が私に殺到したのは苦い思い出。
私はともかくお兄ちゃんは鳳凰学園の生徒会長として代表にいたから、直接には会って会話してない。目が合ったら手を振って挨拶した程度だったな。
「早かったんだね、明日くらいに帰ってくると思っていたわよ?」
久しぶりの再会、今年の春休みぶりの兄に奈保子は抱きつく。兄の直樹も奈保子を抱きしめ返した。
兄妹の仲は良好で、堂々としたハグも恥ずかしくはない。寧ろ自慢したいくらいだ。
「母さんとお前とマロンに会いたかったからな、すっとんで帰ってきたぜ」
女の子が倒れそうな笑顔を惜しげもなく奈保子に向けて、ドアを大きく開くと奈保子はドアをくぐる。
高級マンションだから部屋も多くて広い、長い廊下を一匹の黒猫が歩いてきた。
可愛いこの子はマロン、前飼っていた猫の子供で足の先だけ白く、それ以外は黒い猫。
そのマロンを直樹が抱き上げて、撫でると気持ちよさそうな顔して喉を鳴らす。
兄と一緒にダイニングルームへ行くと、お母さんが夕食を作っていた。
「お帰りなさい、奈保子ちゃん」
「ただいま、お母さん」
お母さんは私に顔を向けて笑った、夕食を作るといってももう既に下ごしらえしたのが此処まで届き、簡単な調理をするだけで完成する物だけ。
ハンバーグなら温めるだけとか、サラダをお皿に盛るだけとかの。
それでも生まれついての正真正銘、箱入り娘だった母さんからしたら大進歩。
このマンションに家族だけが暮らして、お母さんは最初は沸騰した鍋に怯えていたのよね。お料理はコックが作るものだったけれど、母さんは腕を上げて今はなんと揚げ物までチャレンジしている。
今日のご飯は何かな~?四色のシューマイだ!
私は足に隙あらば頬すりをしようとするマロンと一緒に、一度自分の部屋に戻って服を私服に着替えてから晩御飯が並ぶテーブルへついた。
久しぶりに、家族が3人揃って食事にいつもよりも気持ちがワクワクしながら。
***
夕食の時間になると3人は仲良くテーブルに座り。
「いただきま~す」
と、手を合わせて食事を始める。
モグモグといつものように、温めただけの料理とは言っても母親が一生懸命作ってくれた料理。隠し味の大量に投入された愛情を粗食していると、お母さんは浮かない顔をしていた。
「どうしたの?お母さん」
お母さんは少し俯き、お箸を置いて何かを考えているように黙っていたが。今度は上目使いに私たちを見つけてきた。
身長の低いお母さんは、見た目も若い印象を持つので、言う事を聞きたくなってしまう。
「あのね……私、昭仁さんのところ……へ行こうかなって思っているの、直ちゃんと奈保子ちゃんが夏休みでお休みの間……」
は?一瞬だけ私とお兄ちゃんは呆然とした。人ごみを酷く嫌うお母さんからまさかの発言がでてくるとわって。
因みに昭仁ってのは、私たちのお父さんの名前。加藤家の右腕として現在はフランスで幹部の指導をしている、なんでも外国に住んでいる日本人を対象にビジネスをしているのだとか。
だから、フランスに長期出張中で次のクリスマス近くならないと帰ってこない。
其処へお母さんが、私たちの夏休みの間だけお父さんのいるフランスへ行きたいのか。
「あ……だっ駄目だよね!何言ってんだろう、お母さん馬鹿なこと言っちゃってゴメンナサイ、直ちゃんも奈保子ちゃんも受験生なのにね」
慌てて、自分の主張を取り消そうとしたお母さんに、私は。
「全然いいわよ!!お母さん行ってらっしゃいよ!!」
「そうそう、思い立ったら吉日って昔からあるし、俺たちは一ヶ月くらい生き延びられる」
私とお兄ちゃんは、ニッコリ笑いお母さんの背中を押す。
お母さんは見る見る笑顔になって。
「本当にいいの?お母さんの我がままを許してくれる?」
勿論、お母さんのチャレンジを私たちが反対するわけがない。
お母さんは極度の人見知りで、そのレベルはもう精神病クラスらしい。だから私たちが本当の家である甲本家の屋敷で住まず、マンションで暮らしているのがその理由だった。
加藤家から甲本家に嫁いでから唯一心を開いていたメイド長さんが、家庭の事情のために已む無く辞めたのと、お父さんの出張が決まった時が同じ時期でお母さんは鬱一歩手前までになった。
だから、心配したお父さんが私の学校に近い場所にマンションを買って、私とお母さん……たまにお兄ちゃんが一緒に暮らさせた。
お母さんが甲本家の当主の妻になってから、お母さんはよき妻で、私たちが生まれてからよき母親になろうとして自分を追い詰める性格なので、自己主張を余りしない。
悪いのは自分、足りないのは自分。と思い詰める。
決して鳳凰学園の理事長をしている伯父さん、お母さんからしたらお兄さんを始め加藤家の環境が悪かったのでも、嫁いだ甲本家が強要した所為でもない。
傍目から見てお父さんとお母さんは政略結婚にみえても、万年新婚状態で愛し合っている。中学の頃なんか私たちの前でずいぶんイチャイチャしてたもんだ。
とにかく、お父さんに会いたいお母さんの気持ちもわかるし、自分から何かをチャレンジを母さんがしたいなら応援させて欲しかった。
この時……嬉しそうに、しているお母さんとは別にお兄ちゃんが何かを企む笑みをこぼしていたのに気付けば、こんな事にはならなかったのかもしれない。
そう後悔しても、もう私には遅かった。どうして一緒にフランス行こうって言わなかったんだろ私…。
***
お母さんが、次の日の夕方にフランスに行くので空港まで見送った帰り、マンションに着くと私とお兄ちゃんだけとなったマンションで、お兄ちゃんがウキウキした顔で私に近づいてきた。
「奈保子~可愛い我が妹よ!」
何…このおにいちゃんのテンション…。怖ッ!
私は外用の服から早く普段着に着替えたくて、眉を顰めてお兄ちゃんと向かい合う。
「今夜俺のバイク仲間と集会があるんだ、一緒に来い」
「断る」
即座に断る私。
嫌な予感がビンビンする、絶対ろくな事じゃない。
「どうして拒絶する、兄さんは悲しいぞ」
「どうしてって…行く理由がないわ」
お兄ちゃんはバイクが好きだ、自分で拾ってきたポンコツを改造と改良を重ねて現在の愛車にしている。でも私はバイクには興味が無い、免許も持ってない。
お嬢とか抜きにしても自慢じゃないけど、ガソリンスタンドでセルフの給油すらやったことない。多分ガソリンを溢す。
そんな私にお兄ちゃんの集会にいくより、DVDでも鑑賞していた方がよっぽど有意義でしょう。
「大体、バイク仲間って怖い人ばっかりだろうし」
「何を言うか、気のいい奴ばっかりだ。お前も気に入る」
ちょ…ッ、お兄ちゃんの冗談だと軽く受け止めていた私だったけれど、しつこいぞ?もしかして本気?
実の兄の顔は、ニッコリ悪い笑みを浮かべている……つまりは本気だ。
「嫌だよ!?私がいても邪魔になるだけだって」
両手を振って奈保子は拒絶を表現するが、直樹は。
「じゃあ、一ヶ月飯つくるのお前な」
ピタッと停止する、奈保子。
「別に俺は自分の分だけ作ればいいから、楽っちゃー楽だ」
うう……卑怯な!!
お兄ちゃんは食事を武器にしてくる、これは私にとっては有効手段。
つまり私は料理が出来ないんです!!だってマンションに暮らすまで料理なんてお嬢様だからやらなかった、自慢じゃないけど家庭科の調理実習もひたすら食器の後片付けを担当。
お母さんと一緒に料理をやってみても、お母さん以上に私はへたくそ。
そこでオールマイティのお兄ちゃんに何度助けられたか、しかしそのクセにコンビニのお弁当とかインスタント料理とか直ぐに飽きる。でもお母さんが作る料理は愛情が入っているから美味しいの!!
「あ~あぁ…今日は俺の得意料理、ロールキャベツと生クリームのシチュー作るつもりだったのになぁ…」
チラっと此方を窺う、お兄ちゃん。
ロールキャベツもシチューも大好き!!
「…………ッ!……行けばいいんでしょ!!」
ニカッと直樹が笑う、勝利を確信した顔に奈保子は腑に落ちるわけがないのだった。
夏休みが舞台なんで、できるだけ更新は私の夏休みにやりたいです。
この話は20話くらいで終わるくらいの長さなので更新を頑張りたいです。