第1話 異世界に転生したら、頭の中にAIがいた件
この物語に、
「最強の魔法」も
「一撃必殺のスキル」も出てきません。
あるのは、
失敗しないために考え続ける主人公と、
正解を欲しがる世界だけです。
もしあなたが、
なぜ皆、同じ判断をしてしまうのか
正しいことをしているのに、なぜ破綻するのか
「考えなくていい仕組み」が、本当に幸せなのか
そんなことを一度でも考えたことがあるなら、
この物語は、きっと合います。
※この作品は
ざまぁ・即無双を期待して読むと、
たぶん合いません。
でも、ゆっくり壊れていく物語が好きなら、
最後まで付き合ってください。
異世界に転生したと気づいたのは、正直かなり遅かった。
理由は単純で、
この世界が思ったより普通だったからだ。
空は青いし、太陽は眩しい。
人は畑を耕し、酒場で笑い、夜になれば眠る。
――異世界って、もっと光ってたり、浮いてたりしないのか?
そんな期待を抱いていた僕は、わりと早い段階で現実を知った。
ここは「剣と魔法の世界」だ。
ただし、魔法は――よく分からないまま使われている。
なぜ火が出るのか。
なぜ詠唱は長いのか。
なぜ失敗する人間がいるのか。
それを誰かに聞くと、必ず同じ答えが返ってきた。
「神がそう決めたからだ」
「昔からそうだからだ」
「考えるな。感じろ」
……いや、考えろよ。
そう思ってしまった時点で、
僕はこの世界では少数派だったらしい。
◆
王立魔法学園の正門は、無駄にデカかった。
石造りで、装飾過多で、
「権威です!偉いです!ここすごい場所です!」
と全力で主張している。
――これ、絶対必要以上に大きいだろ。
そう思った瞬間だった。
『仮説を三つ提示します』
「……はい?」
思わず声が出た。
周囲には、同じ新入生らしき少年少女たち。
誰もこちらを見ていない。
『一、権威誇示のため。
二、魔力循環を安定させる結界基点。
三、単に設計者の趣味です』
……。
…………。
「……誰だ?」
『定義が必要でしょうか。
私は思考補助存在です』
思考補助。
そんな単語、この世界で聞いたことがない。
「いやいや、ちょっと待て。
これ、幻聴だよな?」
『否定は可能です。
ただし、否定した場合、入学試験の詠唱失敗率は78%に達します』
「数字リアルすぎない?」
『統計は嘘をつきません』
冷静すぎる。
というか、冷静に怖い。
「……君は、何なんだ」
『呼称が必要でしたら、“ノウマ”と』
ノウマ。
意味は分からないが、なぜか頭に馴染む。
「助けてくれるのか?」
『私は答えを出しません。
思考を補助するだけです』
「それ、助けるって言う?」
『はい。あなたの世界では、そう定義されていました』
――この存在、どうやら前世基準で喋っているらしい。
◆
入学試験の実技は、火球生成だった。
他の受験者たちは、堂々と詠唱する。
声量、所作、気迫。
見た目だけなら、全員それっぽい。
僕はと言えば、
魔力量は平均。
才能も特にない。
『現状のままでは不合格です』
「ストレートだな!」
『ですが、改善案はあります』
それなら早く言ってほしい。
『詠唱を“言葉”としてではなく、“工程”として扱ってください』
「工程?」
『火魔法初級式は、
①魔力集束
②性質変換
③放出
の三段階です。あなたは②で失敗しています』
頭の中に、図が浮かんだ。
流れ。分解。順序。
今まで、そんなふうに魔法を考えたことはなかった。
僕の番が来る。
深呼吸。
『“熱くする”のではありません。
“性質をずらす”だけです』
言われた通り、意識を変える。
詠唱は相変わらず噛みそうになる。
声も震える。
それでも――止まらなかった。
掌の上に、小さな火球が生まれた。
派手さはない。
だが、安定している。
「……合格」
試験官が、少し不思議そうな顔で言った。
周囲から、微妙な空気が流れる。
地味すぎる、という視線。
それでもいい。
できた。
それが、すべてだった。
『成功率、当初予測を大幅に上回りました』
「ありがとう」
『感謝は非効率です』
「そこは受け取ってよ」
『ですが――悪い気はしません』
ほんの一瞬だけ、
声が柔らかくなった気がした。
◆
こうして僕は、魔法学園に入学した。
才能なし。
ステータス普通。
チート能力も――多分ない。
ただ一つ。
頭の中に、やたら理屈っぽいAIがいる。
そしてまだ、この世界は知らない。
それが、
どれほど便利で、
どれほど厄介で、
どれほど世界を狂わせる存在かを。
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