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呪われ王子と金次第聖女※第二章完結  作者: まる
第一章

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誰のための呪いか



使用人がおいてくれた紅茶のポットは温かそうだ。カップは変えられますか、という問いに二人揃って首を振った。使用人は左様でございますか、と言って静かに部屋を出ていった。


また王太子殿下がカップに紅茶を注いでくれる。二人で静かに紅茶を飲む。しばらくの沈黙の後、王太子殿下が口を開いた。


「今度は俺の番だな。俺は第一王子だ。第六まで王子がいて、呪いを受けているのは俺だけだ」

「王太子殿下だけですか」

「ああ、アルル王国の第一王子だけがこの呪いを受け継ぐ」


そう言って王太子殿下はカップを置いた。足を組み替えて両手を腹のあたりで組んでいる。


「俺の母は側室でな。正妻の息子の第二王子が王位を継ぐだろうと目されている。そのうち死ぬだろうと思われている俺はだからこうやって好きにできている」

「なるほど、そのうち死ぬ第一王子はどうでもいいということですね」

「そう、昔は呪いを継がせるためだけに産んだのだと母さえ恨んだな」


腰から上に這ってくる呪いを幼い王太子殿下はどう思ったのだろう。そう考えるとやっぱり暗い場所に放り込まれたように怖くなる。


「呪いを解く方法はずっと探している。ただ手がかりさえないんだ」

「呪いはずっと広がっていくんですか?」

「全身に回ると死ぬそうだが、正式な記録がなくてな。まあ死ぬと分かっていて記録したくはないだろう。俺もこれを毎日人に見せたくはない」

「なるほど」

「二十五までにはだいたいが死ぬ。俺もあと五、六年だな」


その時初めて王太子殿下が十九歳なことを知った。私より二つ年上だ。


「いくつから呪いは出始めたんですか?」

「十になった頃からだ。だいたいがそれくらいらしい」

「私の力が呪いに効けば二十五よりは生きられるかもしれないですね」

「そうだ。だが俺はこの呪いをこの代で終わらせたい。だから解く方法を探し続けるつもりだ」


そうなのか。自分さえ生き延びれられればいいということではないらしい。それなら話も変わってくる。私の力で延命させることはできるが、呪いを解くことはできない。

その方法はご自身で探してもらわないといけない。


「そして堂々と王になるつもりだ」


続けられたその言葉に、王太子殿下を見る。ふざけているような表情ではない。第一王子はどうせ死ぬのだから、死ぬまではいい夢を見せてやろう、という意味で王位継承権は第一位になっているのかもしれないし、私にはそこらへんの事情はわからない。


ただ、王になる、と言っても簡単なことではないだろう。第二王子の周辺は第二王子が王になると確信している。それが死にませんでした、王になります、と言われても受け入れ難いだろう。

つまり呪いを解いた後も大変だということだ。


「だからお前の力が必要だ。力を貸してくれ」

「治療費をいただけるのならばいくらでも」


そう言ってカップに口をつける。治療費をいただけるのなら、本当にいくらでも。ただ、魔力の消費がこんなに激しいとは思っていなかった。27サルーでは安かったのではないかと思ってしまう。


「金を欲しがる奴は信用できるな」

「そうでしょうか」

「それ以外のものの方がずっと困る」


それ以外のものってなんだろう。金以外に王太子殿下からいただきたいものなんてない。そう思っていると、王太子殿下がそろそろ失礼する、と言って立ち上がった。


「フューイ、明日の朝食はユルレムととるからな。寝坊するなよ」

「使用人達がしたくてもさせてくれませんよ」


王太子殿下はそれもそうだな、と言って部屋を出て行った。置かれた紅茶のポットから紅茶を自分でカップに注ぐ。毒味役をつけないなんて不用心だな、と思った。私は毒は効かない。女神の加護というらしい。


この話もして、毒味役としてのお金も貰えばよかった、と思いながら紅茶を飲む。ふらふら歩いてベッドに横になると、すぐに眠気が襲ってきた。少しだけ、と思って目を瞑る。














「やらかした」


これは完全にやらかしている。起きるとおそらく真夜中だった。風呂に入りたかったのに、もうこの時間では使用人も起きてはいないだろう。そう思うのに風呂への未練が断ち切れない。とりあえずサロンにでも行ってみよう。誰かいるかもしれないし、と思って立ち上がり外に出る。


廊下は思った通りしんとしていて、誰もおらず、蝋燭の灯りもない。仕方ないので部屋に戻りテーブルの上にあった燭台を持って外に出る。サロン、こっちだったかな、と思いながら廊下を歩いていくと階段があった。階段も燭台の灯りしかない。


誰かいるといいな、と思いながら階段を降りて歩いていると、サロンの扉の前に灯りがついているのが見えた。

これ幸いと足早に近寄っていくと、中で誰かが話しているのが聞こえる。誰が話してようが関係ない。とりあえず風呂に入りたい、と思ってサロンの扉を開こうとした時、中の会話がはっきりと聞こえてきた。


「それは本当かユルレム」

「本当だ。ルリアート、ギリウス王子はまた北で問題を起こしている」

「次は何をやらかしたんだ」


その言葉にユルレム様が口ごもるのがわかった。言いにくい内容なんだろうか、と思いながら次の言葉を待つ。


「ユルレム」

「…北で食堂を焼いたそうだ」


食堂の店員がギリウス王子は食堂を焼いたと言っていたことを思い出した。あの時は近寄らないようにしようと思っただけだったけれど、改めて正確な情報として聞くと恐ろしい。建物一つ焼いてしまうなんてなぜそんなことを。


「なぜ」

「茶がかかったらしい」

「それだけか」


ルリアート様がそう言って、そこからしばらく沈黙が落ちる。この話は盗み聞きしていい話なんだろうかとようやく気になってくる。中に使用人はいなさそうだし、二人で話しているようだ。風呂には入れないと思っていいだろう。そう思って扉の前から離れようとした時に、ユルレム様の声が聞こえた。


「なあルリアート、呪いは解けそうなのか?ギリウス王子が王になったら、国民の命はあってないようなものだぞ。確実に国内は混乱する」

「ユルレム」

「ギリウス王子は国民の命なんてなんとも思っちゃいない。国民からすればそんな王はいらないとなるだろう。そうなればどうなるかわかるだろう?」


ユルレム様の声には悲壮感があった。そしてユルレム様は王太子殿下の呪いのことを知っているのだ。だからこそギリウス王子が王になった時のことを恐れている。

もしも王太子殿下が呪いに倒れ、王陛下が亡くなればギリウス王子が王になる。


「わかっている。俺はなんとしても王になる。ギリウスに王座は任せられない」

「ルリアート、ギリウス王子をなんとかできるのはお前だけだ。それを忘れないでくれ」

「ああ」

「俺も呪いについて調べてみるよ」


それを聞いてそっと扉から離れる。王太子殿下と第二王子はだいぶ異なる思想を持っているようだ。やっぱり正妻の嫡男であり、未来の王と目されながら育つのと、側室の嫡男で呪いを受けて育つのでは考え方も違ってくるだろう。


それにしてもギリウス王子とは恐ろしい。会ったら絶対に逆鱗に触れないようにしなければならない。そうでないと生きながら焼かれたりしてしまうだろう。


廊下を歩きながらブルリと体を震わせる。後ろから誰かがついてきているような気がして早足になってしまう。慌てて階段を駆け上がり自室に入って扉をしっかりと閉めた。

テーブルに置かれているポットからすっかり冷めてしまった紅茶をカップに注ぐ。それを飲むと少し気持ちが落ち着いた気がした。


「呪いかあ」


先日見た王太子殿下の腹を思い出した。真っ黒なあざが上半身を覆っていた。あれで痛みがあるとなれば苦痛はいかほどのものだろう。

ユルレム様が呪いについて調べてみると言っていた。そう思ったらなぜ私の力は王家の呪いを引かせることができるんだろう。


自分の右手をまじまじと見つめる。この力が私に備わったのは、死にかけた時だ。飢饉というほどではないけれど、その年は不作だった。運の悪いことに病が村で流行ってバタバタと人が死んでいった。私もその病にかかり、心配する家族に大丈夫だからと言って一人離れた場所で眠っていた。空腹で腹が痛く、熱のせいで朦朧として、喉が渇いてしかたなかった。


お母さんが医師に診てもらおうとしたけれど、先に病にかかった村の人間が診てもらおうと扉を叩いた時、医師は門前払いをした。金がないのにくるんじゃないと言ったらしい。それを聞いて、どうせ行っても無駄だとお母さんには言った。


一人で熱に耐えていると、ふと体が軽くなった。その時にああ、もう死ぬんだと思った。楽になれると思ったら本当に嬉しかった。だけれど、私の体は軽くなったまま次の日を迎えた。

なぜか治った病を不思議に思っていると、右手から光が漏れていることに気づいた。最初は驚いたけれど、その光を自分の体に当ててみると、怪我がするすると消えていった。


お母さんに言って私の力は司祭様に伝わり、それからはトントン拍子で王宮に仕えることになった。聖女様、と呼ばれるようになったけれど、自分でもなぜ自分がこの力を使えるのかわかっていない。


「調べてみようか」


なぜこの力が使えるか調べてみれば何かがわかるかもしれない。それは王太子殿下の呪いを解くことにもつながるかもしれない。


「つながったらお金をもらおう」


そう決めて、私はベッドに潜り込んだ。


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