蔵書室にて
王陛下が今回の働きに免じて、ギリウス王子の罰を終了としたらしい。それにしても掃除の効果はすごかった。あの嫌味なギリウス王子がだいぶマシになった。そう思いながら王宮の廊下を歩いていると、向かいからギリウス王子がきているのが見えた。
気安く話しかけられる関係ではまだないような気がして、軽く頭を下げて通り過ぎようとすると、ギリウス王子の足が止まった。
「どこへ行く」
「蔵書室へ行こうかと」
「…そうか。兄上は」
「王太子殿下は騎士団の訓練に出ています」
何を思ったのかギリウス王子が私の隣に並ぶ。どうしたのだろう、と顔をあげてギリウス王子の横顔を見ると、向こうを向かれた
「ついていってやる」
「王宮の中ですよ」
「それでもだ」
そう言われて、お礼の代わりに軽く頭を下げる。ついてきても楽しくはないと思うのに、まだあの事件のことを気にかけてくれているらしい。本当に蹴っていたことが嘘のようだ。
蔵書室に入ってお目当ての本を探そうとキョロキョロしていると、ギリウス王子がどの本だ、と尋ねてくれる。医学書を見たくて、というとこっちだ、と案内してくれた。意外だ。蔵書室なんて興味がないと思っていたのに、本の場所はわかっているらしい。
「何冊読むんだ」
「できればたくさん」
「持っていってやる」
「そこまでお世話になるわけには」
そう言ってもギリウス王子は無言で私が取った本を持ってくれる。こんなことまでしてくれるなんて、と言う思いでギリウス王子を窺い見ると、ギリウス王子と目が合ってしまった。
「なんだ」
「優しいなと思いまして」
「そうか」
嘲笑ったりせずにそういったギリウス王子に、私もそれ以上何もいえなかった。なんだか雰囲気まで変わってしまった気がする。それとも今までが必要以上に虚勢を張っていただけなのだろうか。結局、ギリウス王子は十冊以上の本を持ってくれた。私も五冊ほど持って蔵書室を後にする。
「ギリウス様!」
廊下を本を持って歩いていると、後ろから悲鳴のような声が聞こえた。振り返ると、ギリウス王子の家臣の一人が慌てた様子で、ギリウス王子の隣に走ってきた。
「本は私が!」
「良い」
「ですが」
「大丈夫だ」
ギリウス王子の言葉に家臣がしょんぼりとしたように引き下がる。御用があればすぐにお呼びください、と言って下がっていった家臣に、ギリウス王子のことをまたチラリと見てしまう。
本も運ばせ無くなったのか、と思うと急激に成長しているように感じてしまう。
「ここです」
「部屋の中まで入れるか」
「お願いしてもいいですか」
部屋の中のテーブルまで運んでもらうと、ギリウス王子は流石に腕が疲れたのか軽く腕を回した。
「ありがとうございました」
「…王宮内といえども侍女も連れずに歩くな」
「…わかりました」
心配から忠告してくれているのだろう。それがわかったので素直に頷いておく。そうするとギリウス王子の手が伸びてきた。何をされるのだろうと思ったけれど、怖くはなかった。
「…」
無言で頭を撫でられて、ギリウス王子が部屋の外に出ていく。今度お茶にでも誘おうかな、と思った。




