神の憂
閉じていた目を開いて、太陽神リオは困ったように笑った。あの教会で舞が奉納されたのは何百年ぶりだろうか。思わず降りてしまった。
「勇者カリアスか。たいそうな名前だ」
あの教会を訪ねてきて、二人で舞を楽しそうに踊っていたことを昨日のことのように覚えているのに、人間からすれば遠い昔のことらしい。その楽しそうな雰囲気に降りていった太陽神リオに、魔王を討つ力が欲しい、それをくれなければここから動かない、と言って居座った。
最後には根負けをして剣を授けた。自分が生まれて数百年。そんなことを言ってきたのはカリアスが初めてだった。決して傲慢ではないのに、自分の意思は曲げない。そう言うところを、シュルベルは好ましく思っていたのだろう。
隣で困ったように微笑んでいたシュルベルは確かに、女神ティアが目にかけるであろうという雰囲気があった。
魔王の呪いを受けたカリアスはシュルベルを伴い、教会をもう一度訪れた。どうかこの呪いを解いて欲しいと、太陽神リオに願った。
だが、太陽神リオは討つ神であって、救いの神ではない。呪いを解いてやることはできなかった。呪いを解いてやることはできない。そういった太陽神に、カリアスは笑ったのだ。
「人生は長い。きっとどこかで解ける。それに俺にはシュルベルもいる」
そう言ってカリアスは太陽神リオに剣を返し、感謝の言葉を述べて、シュルベルを伴い去っていった。その時、彼は間違いなく笑っていたのだ。
彼と女神ティアとシュルベルに何が起こったのか、太陽神リオは知らない。ただ、女神ティアの逆鱗に触れたカリアスの呪いが解かれることはないだろうと思っていた。
女神ティアの怒りは凄まじく、彼女はカリアスを完全に見限ったようだった。
次にカリアスが教会を訪れた時、彼は容貌から違っていた。眼窩は落ち窪み、頬はこけ、足取りは重かった。そして最大の違いは、シュルベルを伴っていなかった。
どうか呪いを解いてくれ、と言った彼のところへ太陽神リオは降りていかなかった。降りていったところで彼にしてやれることは何もないと思ったからだ。自分のところへ降りてこない太陽神リオに苛立ったカリアスは教会で思いつく限りの怨嗟の言葉を吐いていった。
それを太陽神リオは罰しなかった。罰はもう十分に受けているように見えた。過去を思い出して太陽神リオは薄く笑う。人間と神がわかりあうことはないだろうが、それでも確かに心が触れ合ったと思える瞬間があった。
「あの二人はどうかな」
今日、教会を訪れたカリアスの子孫とティアの愛子はカリアスとシュルベルによく似ていた。あの二人の人生が分かれてしまえば、呪いは解くことはできないだろう。二人がどうなるかは神にもわからない。
「うまくいくといいがな」
そう言って太陽神リオは目を閉じる。ただ、二人のことを願うことはなかった。




