神の意志
薄目を開けて辺りを見ると、リオ神の像の上に、光がさしていた。その明るい光に照らされたリオ神の像はさっきとは違って見えた。神様の声なんて聞いたことがないけれど、これが神か、とわかる声だった。
「お主、カリアスの子孫だろう。懐かしいな。何百年ぶりだ」
王太子殿下が跪いて頭を垂れる。私も慌ててそれに倣った。
「畏れ多くもリオ神でございましょうか」
「そうだ。この教会に人がいるのは何百年ぶりだ」
「ありがとうございます」
そう言ったきり、王太子殿下が黙ってしまう。どうして何も言わないんだろう、と思っていると王太子殿下の手が細かく震えていることに気がついた。何か言わなければ、と顔を上げると、リオ神がおお、と声を上げた。
「ティアの愛子か。シュルベルと同じだな。懐かしいあの二人もそうやって我に頭を垂れておったわ」
「勇者カリアスと魔法使いシュルベルがですか」
「カリアスは勇者と呼ばれているのか。たいそうな名前だ」
リオ神の声が面白がるような声になった。昔を思い出しているのだろうか。
「カリアスとシュルベルはな、魔王を倒したい、そのための力をくれなければここから動かないと言ってな、ここに居座っていたものだ」
「そうなのですか」
「あの二人は頑固だったな。その頑固さで私から魔王を討つ剣を授かった」
「…知りませんでした」
「無理はない。我らにとっては昨日のことでも、お主らにとっては遠い昔だ」
神様ってもっと自分勝手なのかと思っていたけれどリオ神は私たち人間に理解があるようだった。それでも何が逆鱗に触れるかわからない。慎重に言葉を選ばなければならない。
「リオ神は呪いのことはご存知でしょうか」
喉がゴクリと鳴ってしまう。緊張しているからか、口の中がカラカラだ。
「ああ、知っている。カリアスは可哀想だったな」
「畏れながら、呪いを解くにはどうすれば良いかご存知ですか」
言ってから言い方が悪かったかもしれない、と思ってすぐに頭を垂れた。リオ神はしばらくの沈黙のあと、口を開いた。
「我は太陽の神。討つことはできても解くことはできぬ。カリアスはな、その呪いで狂ってしまった」
「…勇者カリアスがですか」
「ああ、息子に呪いがかかった時、あれは狂ってしまった。可哀想だったが、解くことはできぬ。ティア以外はな」
その言葉に息をのむ。やっぱり女神ティアは解くことができるんだ。そう思ったら顔が上がった。
「女神ティアに会う方法をお教え願えませんか。王太子殿下の呪いを解きたいのです」
私がそういうと、リオ神はまた沈黙した。変なことを言ってしまっただろうかと不安に思っていると、リオ神がため息をついた。
「カリアスはな、ティアの逆鱗に触れたのだ。だからティアはシュルベルをカリアスから取り上げた。今お主が頼もうと、ティアは呪いを解かぬかもしれん。それくらいのことをカリアスはしたのだろう」
「…そうですか」
「だが、お主はティアの愛子。お主とシュルベルが頼めば、ティアも機嫌を直すかもしれん」
「本当ですか」
「まずはシュルベルに会うことだな」
そう言って光が小さくなろうとする。ちょっと待って、と思いながら縋るように立ち上がってしまった。
「シュルベル様にはどうすれば会えますか」
「奴の故郷を訪ねるがいい。あいつも舞を好む」
そう言う声が遠くなる。もう飽きてしまったのかもしれない。それでもいい情報が手に入った。よかった、と思いながらまた跪いて頭を垂れると、その頭に何かが触れた気がした。
「お主はシュルベルによく似ている」
その言葉に顔を上げると光はもうなくなっていた。
「ああ、そういえば楽を忘れるな。あいつはそれが好きだった」
シュルベルは音楽が好きだったのか。故郷を訪ねるがいいって言っていたけれど、故郷ってもしかしてあのお墓のあったところだろうか、そう思っていると隣の王太子殿下が私に向かって笑いかけてくる。
「王太子殿下?」
「助かった。息をするのがやっとでな」
「私もです。失神するかと思いました」
「ぼ、僕もです」
私が普通に呼吸ができていたのは女神ティアの加護のおかげだと言うことにそこでやっと気づいた。ギリウス王子は忌々しそうに首を押さえている。
「とにかくこれからやることがわかりましたね」
そう言うと王太子殿下が頷いてくれる。とりあえず、魔法使いシュルベルの元を訪ねて一緒に呪いを解いてくれるようにお願いするしかないだろう。
「楽を好むと言っていました。楽器を嗜んでいる方をご存知ですか」
「そ、それなら、テセト第四王子が」
「テセト第四王子?」
また聞いたことがない王子の名前が出てきたぞ、と思いながらリャト王子を見ると、リャト王子は国一番の横笛の名手です、と言った。
「会いに行きましょう」
私がそう言うとギリウス王子が嫌そうな顔をする。第四王子とは仲が悪いのかな、と思った。




