故郷
いろんな貴族の屋敷に泊めさせてもらいながら地図の北を目指した。その間に魔物に襲われたり、リャト王子の絵を見せてもらったりいろんなことをした。
「もうすぐだ」
鬱蒼とした森を抜けてもうすぐ地図の点があった場所に辿り着く。本当にここに何かあるのかと疑いたくなるくらい何もない、森の中だった。どこからか鳥が鳴いている声が聞こえてくる。
一番前を進んでいる王太子殿下にみんながついていっている。殿はギリウス王子だ。ギリウス王子にはこの旅で本当にお世話になっている。何か王宮に帰ったらお礼をしなくてならない。何がいいだろう、と思っていると王太子殿下の馬の歩みが止まった。私も慌てて馬の歩みを止める。
「ここだな」
王太子殿下が馬から下りる。私もそれに倣って馬から下りた。本当に何もない場所だ。こんな場所に何かあるのだろうか、と周囲を見回してみる。
「何もありませんね」
私がそういうと王太子殿下は何も言わずに馬を木にくくりつけた。
「歩いてみよう」
私も別の木に馬をくくりつける。周囲を何かないかと探しながら歩いてみることにした。魔法使いシュルベルが手記に残してから何百年と経っている。ここに何か残していても簡単に見つかることはないだろう。
「あ、あの、これ」
歩いているとリャト王子の声が聞こえてきた。そちらに行ってみると、大きな石が縦に置かれている。それもいくつもあった。なんだろう、これ、と思っているとリャト王子がぼ、墓石です、と小さな声で言った。
「お、大昔の、ま、埋葬方法です」
そう言われて踏み出そうとしていた足を止める。リャト王子のことを見ると、こくりと頷かれた。
「墓石」
王太子殿下が静かな声でそう言ってその石を撫でた。
「大量にあるな。村が一個なくなったと考えるのが妥当だろう」
ギリウス王子がそう言って石を眺める。その言葉に恐ろしくなってしまう。村が一個なくなるなんて。
「どうして魔法使いシュルベルはこの地を地図に残したのでしょう」
私がそう言うと、王太子殿下がわからないと言いたげな仕草をした。私がリャト王子を見ると、リャト王子はこの景色を絵に描いて残すか迷っているようだった。マーロ様がそれを止めている。
「とりあえず祈っておこう」
王太子殿下がそう言って跪く。私もその場で跪いた。そして王太子殿下は誰に祈るのだろう、と思った。私は女神ティアに祈る。どうかここに眠る者たちの魂が女神ティアによって救われますように。
隣に誰かが跪く気配がして薄目を開けるとギリウス王子だった。ギリウス王子の跪いている姿は絵になる。
きっとリャト王子もマーロ様も祈っているのだろう。そう思って祈りを終えて立ち上がる。遅れて王太子殿下も立ち上がった。
「次の場所に行こうか」
王太子殿下がそう言うと、祈りを終えたギリウス王子とリャト王子、それにマーロ様が立ち上がった。馬の場所まで戻る際に、なぜか後ろを振り返ってしまう。どうして魔法使いシュルベルはこの地を地図に残したんだろう。それが気になってしかたなかった。
馬に跨り、二つ目の地図に記された場所に向かった。距離はそんなに遠くなくて、馬を走らせてるとすぐについた。そこには小さな教会があった。蔦に覆われていて、ところどころが崩れている。それでも石で造られた教会は神聖な感じがする。
王太子殿下が扉を開けて中に入る。私たちも続けて中に入る。中は思ったよりも凄惨な状況ではなかった。綺麗とは言い難いけれど、天井の空いたところから光が差し込んで、真ん中にある像を照らす。なんだろう、この像。そう思いながら近づくと、王太子殿下がリオ神、と呟いた。
「リオ神?」
「太陽神リオだ。アルルの神だ」
「なるほど」
アルルで信仰されている神様なのか。その像から男性であると言うことがわかった。あぐらをかいて座っている像だ。
「魔法使いシュルベルはここへ来たんでしょうね」
私がそう言うと王太子殿下が頷く。何か呪いを解く手がかりになるものはないかと辺りを探してみても何も見つからなかった。立ち寄った場所を記しただけなのかもしれないと思いながら、疲れたし床に座ろう、と思った時、リャト王子がおずおずと口を開いた。
「ま、舞を」
「舞?」
「ま、舞をほ、奉納し、しましょう」
どもりながら、でも確信しているかのようにリャト王子はそう言った。
「り、リオ神はま、舞を、こ、好んだとい、言われています」
「いいな。やれることは全部やりたい。舞はどんなものかわかるか」
「は、はい」
「フューイ、一緒にやってくれ。男女いた方がいい」
そう言われて王太子殿下とリャト王子のそばによる。リャト王子が手はこうで、と指導してくれるから言われるがままに体を動かす。そうしているとリャト王子が何かに気づいたような顔をした。
「どうかしましたか」
「お、音楽が」
「音楽?」
「お、音楽が、ひ、必要です」
音楽か、と思ってギリウス王子とマーロ様を見ると、二人とも首を振る。そうだよなあ、と思いながら王太子殿下をみても首を振られる。楽器なんて持ってきていないし、私は楽器は何も吹けない。
「手拍子じゃダメか」
「ないよりはマシでしょう」
ギリウス王子とマーロ様がそう言って、二人で手拍子を打ち始める。リャト王子が頷いて私たちへの指導を再開してくれた。音楽がない中でどう踊ればいいかわからないけれど、まあなるようになるだろう。
「最後は手首を返して」
「よく知っているな」
「本で読みました」
指導に一生懸命になっているせいか、リャト王子の喋り方が滑らかになっている。リャト王子自身は気づいていないらしい。きっと、緊張しなければ滑らかに喋られるのだろう。
「それでは最初から」
そう言われて手拍子に合わせて王太子殿下と舞を舞う。王太子殿下が上手で驚いてしまうけれど、私だってそこそこみれるものなはずだ。そう信じて舞を舞っていると、天井の穴から降り注ぐ光が強くなった気がした。
眩しい、と思って目を閉じる。
「信じられんな」
静かな、だけど威厳のある声がした。




