お世話になってるので
目が覚めると寝台の上だった。ギリウス王子が運んでくれたらしい。ありがたいな、と思いながら扉を開けると、もうそこにはギリウス王子はいなかった。あとでお礼を言おうと思って身支度を整えていると、朝食が運ばれてくる。
どれくらい魔力が戻っただろうと思って右手に力を込めてみると、だいぶ力は戻っているようだった。それに安心して朝食に手をつける。モリモリ食べておかないと、今日はかなりの距離を進むはずだ。
もりもりと朝食を食べて、子爵邸を後にした。今日も王太子殿下とギリウス王子が前と後ろを挟んでくれようとしたけれど、それは遠慮させてもらった。いつまでも甘えているわけにもいかない。
魔物が出ないといいなと思いながら森の中を進む。誰も喋らないから静かだけれど、休憩のたびにリャト王子はいろんなものを紙に描いている。絵が上手で、見ていて楽しい。みるもの全てが刺激的なのだろう。
「ここらで一旦休むか」
王太子殿下の声が聞こえて、馬を止める。木に馬をくくりつけて地面に腰を下ろすと、ちょっとホッとすることができた。
「次の街に着くのは夜ごろだろう」
「なるほど」
王太子殿下が地図を見ながらそう言って、私はそれに頷いた。ギリウス王子がこちらを見ていることに気づいて頭を下げておく。そういえばお礼をちゃんといえてなかったな、と思ったけれどみんなの前でお礼を言うのは少し恥ずかしい。
リャト王子に知られたくないと言う気持ちもある。やっと部屋から出て来れたのに、外には汚い人間もいると教えたくはなかった。
「フューイ、水を飲むか」
「大丈夫です」
「飲んでおけ」
そう言って筒が渡される。複雑な気持ちになりながら口に含むと冷たかった。まだ冷たいんだ。その時、大きな音が森に響いた。
「なんだ」
ギリウス王子がすぐに立ち上がる。王太子殿下が剣のつかに手をかける。リャト王子が何かを描いていたものをしまい、マーロ様がリャト王子を背に庇った。
「リルニオスだな」
王太子殿下が静かにそう言って、剣を構える。ギリウス王子も剣を引き抜いた。マーロ様がリャト王子に後ろにいてくださいと言っている。私はどうすればいいのかわからず、ただ座っているだけになってしまう。
「リルニオうはな、たまに群れで行動するんだ」
「群れで」
「ほら、きたぞ」
王太子殿下が空を向いてそう言う。こないだ倒した鳥型の魔物はリルニオスっていうんだ、と場違いなことを考えた。その魔物たちは明らかに私たちの方を向いていた。
恐怖で足がすくんで動けない。リルニオスがこちらへ突っ込んできて、王太子殿下がその首を切り落とす。そうしていると二体目がギリウス王子に向かい、三体目がリャト王子に向かっていった。
どうしよう。足はすくむし、呼吸は浅くなる。ギリウス王子と王太子殿下がリルニオスを抑えている。マーロ様がリルニオスの口に剣を当てると、リルニオスは高く舞い上がり、態勢を整えた。そして空からまっすぐこちらに向かってくる。
「リャト様!お逃げください!」
マーロ様の悲鳴のような声が響いた。それにリャト王子は腰に下げていた剣を構える。
「ぼ、僕だって、た、戦える!」
そういってリャト王子がマーロ様の前にでた。足をすくませている場合ではない。乱暴に右手で足を叩いて、立ち上がる。リャト王子の前に出て。思い切り雑に力を暴走させた。まばゆい光に包まれる。白く染まったそこで一番初めに動いたのは王太子殿下だった。
「押さえていろ!ギリウス!」
そういって王太子殿下がリルニオスの首を切り落とすのがなんとか見えた。そしてこちらに走ってきてくれる。あ、と思う間もなく私の目の前にいたリルニオスの首も切り落とされ、私は思い切り血を浴びることになった。
「悪い」
「大丈夫です」
気持ちのいいものではないけれど、仕方のないことだ。頭を振って血を飛ばし、すぐにリャト王子の手首を掴んだ。血も不浄なものだからかぶると大変だろう。力を当てると、リャト王子の顔が驚いた表情になる。すぐに綺麗になって、私は自分にも力を当てた。綺麗にするために。
「マーロ様は被ってないですね」
そういってマーロ様に近づくと、マーロ様は我に返ったようだった。はい、と言って剣を鞘に収める。
「聖女の力だ」
「そうですね」
リャト王子が感動したようにそう言うのを放っておいて、王太子殿下に近づく。
「お怪我は」
「ない」
「ギリウス王子は」
今度はギリウス王子に近づいてそういうと、掠れたのか手の甲に傷が入っていた。それに力を当てて、傷を治す。するとギリウス王子が私のことを鼻で笑う。
「俺の傷は治さないんじゃなかったのか」
「直しますよ。お世話になってますから」
けどこの旅の同行費は王陛下からもらう手筈になっている。ギリウス王子は驚いたような顔をしてそれから顔を顰めた。
「昨日はありがとうございました。助かりました」
そう言うと顰めっ面が余計に顰めっ面になる。リャト王子はずっと何かを描いていた。




