優しさ
朝食も全て運んでくるからお前は何もしなくていい、と言われて、朝食はギリウス王子が運んできてくれた。食欲がなかったので食べたくない、というと手塚ら食べさせてくれようとして驚いた。
まるで普通のことのような態度だったので、きっとギリウス王子はそうやって育てられたんだろう。そう思うとちょっと笑ってしまった。本当に愛されて育った人だ。
「なぜ笑う」
「優しいので」
「ふん」
鼻を鳴らしたギリウス王子が私の食事を寝台の上に置いて、自分は隣の寝台に座る。私はそっとスープを口に運んだ。暖かい。こんなに甘やかされていてはダメになってしまう気がする。せめて午後からは外に出よう。
「どうしてギリウス王子は昨日の晩、すぐに気づいてくれたんですか」
「…お前の部屋に行くためには俺の部屋の前を通る必要がある。足音がすれば目が覚めるだろう」
「気にかけてくれたんですね」
「…」
ギリウス王子は何も言わなかったけれど、その優しさのおかげで私は命拾いをした。あのままどこかに連れ去られていれば、命が危うかったかもしれない。
「本当にありがとうございました」
そう言って頭を下げるとギリウス王子はそっぽを向いてしまった。窓の方へ顔を向けて、私のことを見ない。
「礼を言われるほどのことではない」
「…かっこいいですね」
「バカにするな」
「バカにしてません。誰かを助けて礼を言われるほどのことでもないって言えるのすごいことですよ」
本当にかっこいいと思った。私ならいくらか請求しているはずだ。清掃活動でこんなに人間は変わるのだろうかと思ってしまった。それとも今まで人のことを蹴ったりしていたの虚勢だったのかもしれない。
どちらにしても今の私には沁みる優しさだ。ギリウス王子が置いてくれた盆の上にケルクがあるのを見つけて、思わず破顔してしまう。
「ケルクだ」
「お前は甘いものが好きだろう」
見ていたのか。以外に思ってギリウス王子を見るとまだ目を合わせてくれない。そのケルクを口に入れると、甘さでか心がほぐれた気がした。
「今日出発する予定でしたよね。私午後からならいけます」
「無理をするな」
「していませんよ」
やっと目が合って探るような目つきで私のことを見てくる。とりあえずそれには微笑んでおいた。ギリウス王子は目を逸らして、そうか、とだけ呟いた。
目の腫れもマシになっただろうと思って鏡を見たのに、全然マシになってはなかった。これはひどい、と言いたくなるような目をしていた。でもリャト王子とマーロ様ならこの目の事情を根掘り葉掘り聞いたりししなかった。
王太子殿下が連れてきてくれた馬にまたがると、王太子殿下が私の前に、ギリウス王子が後ろについてくれた。昨日はギリウス王子が一番後ろだったから、特別待遇だ。悪いな、と思って振り返っても、ギリウス王子は目を合わせてくれなかった。
村長の息子は少し行ったところにある大きな町で罰を受けることになったらしい。以前から女性がいなくなる事件が村の近くで起きていたらしく、警備兵はその罪も問うつもりだと言っていたそうだ。あまり詳細は聞きたくなくて、渋面を作っていたら王太子殿下がそれ以上の説明をやめてくれた。
馬に跨ってゆっくりと歩く。地図の点まではまだかなりの距離がある。あと何回かは野宿をしたり、屋敷に泊めてもらったりしなければいけないだろう。一人で寝るの嫌だな、と思った。
無言で進んでいくと大きなまちが見えてくる。今日はここには立ち寄らず、子爵の屋敷に向かうということだった。子爵の屋敷はすぐそこだ。少しでも距離を進められて嬉しい。
王太子殿下がこちらを振り返る。私はそれに頭を下げて応じた。気にかけてくれているのがわかった。




