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呪われ王子と金次第聖女※第一章完結  作者: まる
第二章

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家臣マーロ

第三王子の屋敷は王宮の敷地内にはあるけれどかなり離れているらしい。私がそんなに遠いのですか、と王太子殿下に尋ねると王太子殿下は馬で行ったほうがいいくらいだな、と答えた。


だから私は今、馬に乗っている。


何度か馬に乗ったおかげで慣れたのは今のところ吐きそうにはなっていない。王太子殿下がいつも乗せてくれるけれど、私も暇なうちに馬に乗る練習をしたほうがいいかもしれない。これからも乗る機会がありそうだ。


ギリウス王子とか暇な時に教えてくれないかな、と前を馬に乗って進んでいるギリウス王子のことを見る。


迎えに来い、と言っていたくせに迎えにいくと遅いと言われた。かなり早くから待っていてくれたらしい。やっぱりこの人、根は悪い人じゃないのかな、と思っていると馬は森の奥に入っていく。こんなところに屋敷があるのか?と思ってしまうほど奥まで進むと大きな屋敷の前で馬が止まった。


人目から逃れるような屋敷だ。屋敷の前で待っていた人物がお辞儀をする。馬から降りるとその人物が近寄ってきた。黒髪に黒目。珍しいな、と思って見てしまう。


お待ちしておりました。ギリウス様、ルリアート様、そして


そこで切られて私のことをその人がじっと見つめてくる。


「フューイです」

「フューイ様。私、リャト様にお仕えしております、マーロと申します」


丁寧に頭を下げるその人に私も頭を下げる。物腰は柔らかだけど、相当な切れ物だと思う。なんとなくだけれど。


「こちらへどうぞ。ギリウス様のお越しをリャト様は心待ちにしております」


そう言って屋敷の中に案内される。人目を避けるような場所にある屋敷なのに、中の装飾は温かみがあった。飾られている壁画はリャト王子を描いたものだと思われるものもある。王陛下と第三夫人、そしてリャト王子だろうと思われた。


「しばしお待ちを」


ある扉の前で立ち止まり、マーロ様が中に入る。思わず王太子殿下の方を見ると、王太子殿下は肩をすくめてみせた。ギリウス王子は無言で立っているだけだ。ごくわずかな時間を経て、マーロ様が扉から出てくる。


「どうぞお入りください」


そう言われてギリウス王子を先頭に中に入ると、部屋の中は予想していたよりもずっと綺麗に片付けられていた。どのテーブルにも本が置かれていて、中には積み上がっているものもある。臭いことを覚悟していたけれど、中は臭くもなかった。ちゃんと換気をしているらしい。


キョロキョロと辺りを見回すのも失礼だから、視線の動きは最小限にとどめておく。それでもこの部屋の主人は綺麗好きなんだろうなとわかった。長椅子とテーブルが置かれている場所におそらくリャト王子は立っていた。


金髪に金の瞳。王太子殿下ともギリウス王子とも違う優しげな顔立ちに丸メガネをかけている。背は私よりも少し高いくらいだ。怯えたようにこちらを見る姿が印象的だった。


「リャト」

「ギリウス兄様」


ギリウス王子がリャト王子に近づき、リャト王子も嬉しそうにそれを出迎えた。本当に仲がいいんだな、一週間に一度通っていたと言うのは嘘ではないらしい。その様子をじっと見ていると、マーロ様にお座りください、と笑顔で言われた。


促されるままに長椅子に座ると、隣に王太子殿下が座る。ギリウス王子は一人がけ用の椅子に座り、リャト王子は私たちの向かい側の椅子に座った。


「暖かいお飲み物はいかがですか」


いかがですか、といいながらマーロ様はすでに紅茶を淹れ始めていてる。侍女はいないらしい。部屋にはあまり人を入れたくないんだろう。部屋からも出ないし、人にも会わない。本だけが友達、という感じか、とリャト王子を窺うとばっちりと目があってしまった。


その目を勢いよく逸らされて、私はなんとも言えない気持ちになってしまう。まだ警戒している小動物と触れ合う時の気持ちというか、なんというか。


「リャト、時間をとってくれてありがとう」

「い、いえ」


王太子殿下が御礼を言ってもリャト王子の怯えた様子は変わらない。まるで王太子殿下や私がその気になればリャト王子を食べてしまうみたいだ。本当に小動物みたい、と思っているとマーロ様がリャト王子の隣に座る。


そこに座るんだ。不敬だな、と驚いた。


「リャト、早速だがライアス王国の初代聖女の手記の写しを持ち帰っただろう」

「はい、マーロが行ってくれて」

「その写しを見せてもらえないか」

「ご用意してあります」


そう言ってマーロ様が立ち上がり、別のテーブルに置いてあった本を持ってきてくれる。分厚い。全部読むのに何時間かかるのだろうと思うくらい分厚い。勉強は得意な方ではないので思わずウヘエという顔をしてしまう。


「こちらです」


その本を見た王太子殿下がにっこりと笑う。この笑顔の意味はわかる。王太子殿下も私と同じく、勉強は得意ではないらしい。その様子を見ていたギリウス王子がため息をついた。そして口を開く。


「リャト、大体の内容は覚えているか」

「は、はい、だ、大体ですが」


その言葉に嬉しくなってしまう。王太子殿下と一緒にうんうん唸りながらこの本を読まなくても良さそうだ。


「本の内容を説明してくれ」


ギリウス王子の言葉にリャト王子が頷いた。


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