第一章 エピローグ
ギリウス王子に与えられた罰は町の清掃だった。日がな一日、ギリウス王子は町の清掃を臣下の者たちとやっている。
「本当に行くんですか」
「ギリウスが掃除しているのを見たいだろう」
「それは少し見たいですけど」
王太子殿下に誘われて、ギリウス王子の掃除姿を見に行くことになった。馬に乗って町まで行くと、ギリウス王子の臣下の一人がちりとりを持って走っているところだった。ついていくと看板が立てられていて、どこでも掃除します、とその看板には書かれている。
王陛下も甘くはないらしい。
「エルム、馬を頼む」
「お任せください」
「フューイ、行くぞ」
馬から降りて王太子殿下についていくと、ちょうど裏通りをギリウス王子が掃除している時間だった。箒を持って黙々と通りを掃いている。その近くの臣下たちはちりとりを持っていたり、民家や商店の窓を拭いていたりしている。ゴミを集めている臣下もいた。
「ギリウス」
王太子殿下が声をかけるとギリウス王子はたちまち嫌そうな顔になった。私はギリウス王子よりも臣下たちの窓の拭き方が気になって仕方ない。四隅をちゃんと拭けよ!と心の中で思ってしまう。乾拭きもしないと跡が残ってしまう。民家はいいけれど商店からしたらありがた迷惑だ。
「何しにきた」
「手伝おうと思ってな」
「…勝手にしろ」
可愛くない物言いだけれど、受け入れることにしたらしい。ギリウス王子の掃除姿をジロジロと街の人は見ている。王族が掃除する姿なんて滅多に見られるものではないからジロジロ見ていた方がいい。
王太子殿下は箒を持つと、ギリウス王子の近くを掃き始める。そんな近い場所を履いたところで意味がないだろうと思って見ていると、王太子殿下と目が合った。
「そんな近くを履いたところで意味がないです。ギリウス王子は裏通りのこっち側を、王太子殿下はこっち側を掃いて下さい。」
私がそういうと抵抗するかと思った二人は素直にそれに従って掃き始める。臣下たちに近寄って行くとあからさまに怯えるような顔をするものがいた。それに構わずに雑巾を奪い取って四隅を拭く。
「濡れた雑巾で拭いた後は乾拭きしないと水の跡ができて汚くなりますよ」
そう言うと臣下たちは看板のあった場所から雑巾を持ってきた。こうやって上から下に拭くんです、と見せてあげると臣下たちもそれに合わせて拭き始める。
「乾拭きする人と水拭きする人に別れましょう。効率がいいです」
そう言うと臣下たちが話し合って、水拭きと乾拭きに分かれた。みんな自分では掃除をしたことがない立場の人たちばかりなのに、素直に掃除をしていると言うことは自分たちがしでかしたことの大きさが分かっているのだろう。黙々と掃除をしていくと。昼前には裏通りは綺麗に掃除が終わった。
「疲れた」
拠点の場所に戻ると、臣下たちが椅子を用意してくれた。それにありがたく座らせてもらう。ギリウス王子と王太子殿下も戻ってくるのが見えた。
「フューイ、掃除が上手いな」
王太子殿下がそう言って笑う。私の掃除が上手いわけではなくて、みんなが下手くそすぎるだけだ。
「箒をお持ちになったのは初めてですか」
「恥ずかしながらな」
「お上手でした」
王太子殿下とギリウス王子が椅子に座り、臣下たちが広げた布の上に座る。みんな疲れた顔をしている。どうだ、掃除は疲れるだろう、と言ってやりたい気分だった。
「私、王宮の部屋は綺麗に使うことに決めました」
「私は侍女に感謝を」
「本当だな」
口々にそう言っている臣下たちは王宮の廊下を歩いていた時よりもずっと楽しそうだ。風が吹き抜けていってほてった体に気持ちがいい。お母さんとテスも頑張っているんだろうな、と王宮の方を向くと、王宮は今日も変わらず聳え立っている。
「ギリウス、掃除はどうだ」
「…悪くはない」
ギリウス王子がそう言って、王太子殿下がそれに笑う。この二人も距離を縮めている最中なのだろうと思った。そちらを見ているとギリウス王子と目が合い、数秒見つめあった後そらされた。私のことはまだ怒っているらしい。
「いい天気だな」
王太子殿下の呟いた声が、響くわけでもなく流れていった。
第一章が完結しました。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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第二章は26日から投稿します。




