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呪われ王子と金次第聖女※第一章完結  作者: まる
第一章

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名君

ごちん!と重たい音が玉座の間に響き渡る。その音は三回続いた。あまりにも痛そうで思わず首をすくめてしまう。


「ギリウス!お前は!みなに謝れ!」


拳骨を三回落とされたギリウス王子が涙目になっているのが遠くからでもわかった。王太子殿下がどう説明したのかは知らないが、アルルの王宮についた翌日には王陛下に玉座の間に呼び出された。


そこにはすっかり憔悴した様子のギリウス王子がいて、私たちの目の前で王陛下にお叱りを受けている。ギリウス王子からしたらこの上ない屈辱だろう。


「人質を取り、ルリアートを殺そうとするなど言語道断!お前には拳骨三回でもまだ足りん!」


そう言って王陛下がもう一度ギリウス王子の頭に拳骨を落とした。私がそれを首をすくめて見ていると、王陛下の釣り上がったまなじりが徐々に下がってきた。ギリウス王子の目からは今にも涙が溢れそうだ。


「ルリアート、甘いと思うかもしれんがわしの沙汰で許してやってくれ」

「もちろんです。ギリウスは俺の弟です」


その言葉に王陛下の眼差しが優しくなった。


「ギリウス、聞いたか。お前の兄は偉大だ。お前にもそうなってほしい。お前が優しい子なのはわしも王妃もしっている。北の食堂を焼いたのは倒壊の危険があったからだろう。思い出があるからと、解体に応じなかった店主の話を聞いた。お前に感謝していたぞ。再建費を私費から出しているそうだな」

「…」

「ギリウス、お前は私の大切な息子だ。…たとえ王にならなくてもな」


ギリウス王子が俯いていた顔をあげる。ギリウス王子を見つめる王陛下の顔は優しくて、そして威厳があった。名君とはこういう人のことを指すのだろう。


「して、王子二人が世話になった」


王陛下に見つめられていきなり緊張する。全てを見透かすかのような視線に、慌てて頭を下げた。


「もったいないお言葉です」

「ギリウスもルリアートも助けてもらったのだろう?礼をせねばな。何が欲しい」


その言葉に顔を上げる。私が一番欲しかった言葉だ。ずっと願おうと決めていたことだから澱みなく口から滑り出た。


「私の母と弟の生活の保証をしていただきたいです。二人に何かあった時は王家が後ろ盾になっていただきたい」

「ほう」


緊張する申し出だ。それでも王子二人を救ったのだからこれくらいいいだろう。

王陛下は目をすがめて私を見る。私もその目をまっすぐに見返した。何かを探るような目つきだった王陛下が、唐突ににこりと笑う。私もそれにヘラリと笑顔を作った。


「よかろう。それだけのことはしてもらった。だが、自分のこと良いのか?」

「私のことは大丈夫です。大体のことは王太子殿下がなんとかしてくれると信じています」


私がそう言うと王陛下がポカンとした顔をした後に、声をあげて笑い始めた。王太子殿下がフューイ、と咎めるように私の名前を呼ぶ。でも私の言ったことは当たっている。王太子殿下が大抵のことはどうにかしてくれるだろう。


「そうだな。ルリアートのことをよろしく頼む」


そう言われて恐縮してしまう。慌ててもう一度頭を下げると、その頭を誰かが撫でた気配がした。


「お主はいい子だの」


顔をあげると優しい顔をした王陛下と目があった。そして王陛下は玉座の間から出ていく。それを目で見送ってから王太子殿下の顔を見ると、王太子殿下はギリウス王子の顔を見ていた。


「ギリウス、頭を冷やせ」


頭を冷やせというのは物理的な話だろうけど、冷静になれと言っているようにも取れた。ギリウス王子は何も言わずに玉座の間から出ていく。


「今回の件は本当に世話になった」

「いえ、得るものも多かったですから」

「そうか」


王太子殿下がそう言って微笑んだ。お母さんとテスの身の安全を保証してもらったのだから、私にとってはいいことだった。


「それでは部屋に戻りましょう」



サロンへ戻ると王太子殿下の母上が不安げな面持ちで椅子に座っていた。王太子殿下の顔を見てその表情が安堵したものへと変わる…


「ルリアート」

「母上、大丈夫です」


王太子殿下は王太子殿下の母上にも何があったかを報告したらしい。どうせどこかから漏れてしまうよりはと思ったそうだが、王太子殿下の母上からすれば不安で仕方ないだろう。


「ギリウスは」

「王陛下からきついお叱りを受けていました。後々正式な処分が下るでしょう」

「そう。ルリアートはいいの?王陛下におまかせして」

「もちろんです」


ギリウス王子の王太子殿下毒殺事件は打首になってもおかしくはない大罪だ。それを拳骨四発とおそらく謹慎程度ですますのだから、王陛下も大概息子に甘い。王太子殿下が厳罰を望んでいないというのもあるだろうけど。


「ギリウスも思い詰めていたようです」

「あの子が?」

「そうです」


王太子殿下の母上が意外そうにそう言った。王太子殿下が椅子に座ると、サロンの扉がノックされた。部屋の中に入ってきたのはニールだった。


「お飲み物を」


そう言ってテーブルに温かい飲み物を用意してくれる。王太子殿下の母上はそれを飲むと、やっと落ち着いたようだった。 


「ルリアート、気をつけてね」

「十分、気をつけます」

「フューイ、本当にありがとう」


王太子殿下の母上が頭を下げてくれる。それに自分も頭を下げ返すと、王太子殿下が笑った気配がした。


「フューイ、部屋に戻っていいぞ。ゆっくり休んでくれ」


そう言われてやっとほっとできた。いそいそとサロンから退室し、自室に向かう。お母さんとテスは来客の部屋にいるはずだ。ちょっと顔を出そう、と思ってから両腕を伸ばしてうーんと伸びをした。


そして思い出す。そういえば第三王子のリャト王子のことを聞くのを忘れた。また今度聞いてみよう。知らず知らずのうちにあくびが出てしまって、口を押さえる。


外はいい天気だった。

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