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呪われ王子と金次第聖女※第一章完結  作者: まる
第一章

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23/28

第二王子とは

ギリウス王子の体調が安定するまで民家に留まることになった。寝首をかかれるかもしれませんよ、と忠告はしたけれど、王太子殿下の判断だった。

目覚めるまで交代で付いていようと言う話になったけれど、結局何か起こった時は私が起こされるのだから私が付いていることにした。

他の人たちはもう眠っている。部屋にはランタンの灯りが一つあるだけで、薄暗い。


「…」


口元に手を当てて呼吸をしているか確認する。そんなに長時間毒を口に含んでいたわけではなかったのに、ギリウス王子はなかなか目を覚まさない。


ギリウス王子の呼吸も安定しているし、私が見ていなくても大丈夫だろう。そっとそばを離れようとするとその音でギリウス王子がぴくりと反応する。もしも目覚めたらすぐに俺に知らせてくれ、と王太子殿下は言っていた。やっとお目覚めか、とその顔を見ていると、瞳がゆっくりと開かれる。


まだ焦点が合わないのか、状況が理解できないのか、ギリウス王子の瞳は数瞬、虚空を彷徨った。それから私の方を見たかと思うとしばらく呆けた顔をした。


「お前」


だんだんと覚醒してきたのか、ギリウス王子がそう言って自分の体を確認する。寝台の上に横になっていることに安心したのか、体に入っていた力が一気に抜けた。


「水を」


水差しから杯に水を注いで差し出すと、それを恐る恐るといったふうに受け取る。


「毒を盛ったりしていませんよ」


私の言葉を信じたのか、それとも喉がものすごく渇いていただけなのか、ギリウス王子は杯に素直に口をつけた。その喉が問題なく動いていることを見て、椅子から立ちあがる。

王太子殿下に知らせなければならない。


「おい」


腰を浮かせたところでギリウス王子に呼び止められた。とりあえず浮かせていた腰を戻す。


「苦しんで死ね、と言っただろう」

「言いましたかね」

「なぜ助けた」


しらを切ろうとしたけれど無理だったらしい。願わくばアルル王国に戻るまでに忘れていてくれればいいのにと思った。不敬罪で罰されては困る。


「王太子殿下と母と弟が助けろと」

「兄上がか」


ギリウス王子がはっと鼻で笑う。バカにしたような笑みなのに、なんだか寂しげに響いたのはここが暗くて、ギリウス王子と私しかいないからだろうか。


「お優しいな兄上は」

「私の母と弟もですけど」


すかさず付け加えておく。ギリウス王子はそんな私を見てから目を逸らした。寝台の上に横になっているからかいつものような尊大さが感じられない。今はただの病人に見えた。


苦しんで死ね、と思っていたのは本気だったけど、お母さんとテスから捕まってからの様子を聞いた。


「それで助けたのか」

「...母がギリウス王子は悪い人ではないと。私も感情的になりすぎました」


私が言ったことに対して、ギリウス王子は何も言わない。沈黙が部屋に満ちて、黙っているのなら、と腰を浮かそうとした時に手になにかが触れた。


それを見るとギリウス王子が手首を掴んでいた。


「ここにいろ」


私を見ずにそう言ったギリウス王子に浮かせていた腰を下ろす。今は兄に会いたくない気持ちは少しわかる。ちょっとかっこわるいもんな。口元に浮かんだ笑みを隠すために口に手を当てた。


「ギリウス王子はなぜ王太子殿下に死んでもらいたいのですか」


ふと浮かんだ疑問を口に出すと、ギリウス王子が深く息を吐いた。


「愚問だな、王になるためだ」

「なんで王になりたいのですか」

「...そう決まっているからだ」

「決まっているから、王になりたいのですか」


ギリウス王子の目が動いてこちらを見る。私もその目をまっすぐに見返した。幼少期から王になることが決まっていたから、兄を殺してでも王になるというのは驚いてしまう。


ギリウス王子が目を逸らして天井を見つめる。しばらくの沈黙の後、ギリウス王子が静かに口を開いた。


「我が国の第一王子は25までに必ず死ぬ」

「はい」

「つまり第一王子はいつもいないものとされる。第二王子が王になることは生まれた時から決まっている。そのために教育され、周りもそう扱う。...母上も父上も俺が王になると信じているだろう」


その言葉を聞いてなんとなく悲しくなってしまった。周りからお前は王になるんだよ、と教えられて育ったから兄を殺してまで王になろうとしたんだろうか。


そこまで考えて、そもそもギリウス王子は本気で王太子殿下を殺そうと思っていたのだろうかと疑問が浮かんできた。あの時、ギリウス王子は王太子殿下が毒を飲んだのを見て注意を逸らした。


真意は分からない。私には判断できない。この人は本当はどういう人なんだろう。


ギリウス王子を見ると目が閉じられていた。もう少し眠るかもしれない。そう思っていると、扉が静かに開かれる。入ってきたのは王太子殿下だった。


「王太子殿下」

「目を覚ましたか」

「先ほど」

「そうか」


王太子殿下が離れたところにあった椅子を持ってきて私の隣に座る。椅子を置いたところの床がぎしりと音を立てた。あんなわずかな声で起きてしまったのだろうか。


王太子殿下がギリウス王子のことをじっと見つめる。そして静かに口を開いた。


「ギリウスの件は父上に判断を委ねようと思う」

「そうですか」

「危険な目にあわせてすまなかった」


心からの謝罪だろう。ギリウス王子がどうなるかはわからない。この件を王太子殿下がどう報告するかも私には口出しできない。


「大丈夫です。王子を二人助けたのですから、王陛下はそれなりのものを下さると思うので」


そう言うと王太子殿下が笑う。


「しっかりしてるな」

「そういえば、王太子殿下はなぜ毒を飲んだのですか?賭けですか?」


不思議に思っていたことをきいてみると、王太子殿下はああ、と思い出したような表情をした。もしかすると自分が毒を含んだことを忘れていたのかもしれない。


「呪いがあるし、そうすぐには死なないだろうと思ってな」

「なるほど」


私の女神の加護のようなものがあってもおかしくはない。それにしても無茶をするとは思ったけれど、それで助かったのだから判断は正しかったのだろう。


「…ギリウス王子は本当に王太子殿下を殺そうと思っていたのでしょうか」

「…さあな。ただ、そろそろ父上のきついお叱りは必要だろう」


王太子殿下の言葉に頷く。ギリウス王子を連れ帰った後、どうなるんだろうと考えた。

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