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呪われ王子と金次第聖女※第一章完結  作者: まる
第一章

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出会い



「来い!」


厄介な人物に見られてしまったかもしれない、と思ってももう遅い。あの親子が私の隣のテーブルにいた時から運命は決まっていた。どうせここで見捨てても、見捨てなければよかったかもしれないと延々と悩む。それなら助けておいた方がいい。


「行きますので、腕を離していただけますか。痛くて」


そう言うと後ろに回り込まれるけれど、腕は離してくれた。掴まれた腕をさすりながら部屋に入ると、ベッドに横たえられた王太子殿下がいた。その傍にさっき部屋に入っていった医者が顔を青くして座っていた。


「先ほど、女を診ていたな。なぜ名乗り出なかった」


担ぎ込んだ人物は何をしていたかまではわからなかったらしい。医者が治せないから焦っているのか。王太子殿下は額に汗を浮かべて苦しそうだ。うーん、と身を乗り出して王太子殿下を見る。


「なんの病気ですか?」

「それが私には」


そこまで言って医者が首を振る。なんの病気かもわからないと言うことだろう。そうこうしていると王太子殿下がうっすらと目を開けた。私と目が合った王太子殿下は、薄く笑う。


「誰だそいつは」

「ルリアート様」


息も絶え絶え、と言った様子なのに威厳を失ってない感じがするのはなぜだろう。王族というのはみんなこういうものなのだろうか、と考えてから元婚約者の顔を思い出す。あのかたはそうではなかった。


「医者ではないなら追い出せ」

「では、失礼致します」


そう言って部屋から出て行こうとするのを止められる。担ぎ込んできた男は王太子殿下に医者の真似事のようなことをしていた女です、と言った。医者の真似事とはいいえて妙だな、と思っているとルリアート様が顔を顰める。痛いのかもしれない。


王族ならお抱えの医者がいるだろうし、さっさと王宮に帰った方がいい気がするけれど、この様子では王宮までの道のりも過酷なものになるだろう。


「つかぬことをお伺いしてもよろしいですか」

「なんだ」

「もしもここでルリアート王太子殿下が亡くなれば、私たちはどうなるのでしょう」


本当に興味本位での質問だったが、担ぎ込んできた男は悲痛な表情を浮かべて、私のことを怒る余裕すらないように見える。ああ、ルリアート様、と言った後、私ともう一人の医者のことをギロリと睨みつけた。


「そうなればここの食堂も含め、ただでは済まないと思え。どうにかルリアート様を救うのだ」


そんな無茶な、と思ったけれど、それだけ王太子殿下の影響力は大きいということなのだろう。どうしようかな、と考えた後、王太子殿下の顔を見る。理知的には見えた。ここでただで済まされなくなるよりはこの王太子殿下と取引した方がいいかもしれない。


「恐れながら王太子殿下、王太子殿下はお金持ちでしょうか」

「なんだ貴様」

「金はある」

「なるほど。もしもここで王太子殿下を救えば、褒賞はいただけますでしょうか」

「好きなだけ取らせよう。もしも救えれば、だけどな」


そう言った王太子殿下はやれるはずがない、と言外に言っているようだった。それにしても褒賞は好きなだけとはありがたい。チラリと医者を見て、それから担ぎ込んできた男を見る。


「それでは、王太子殿下、病の部位を見せていただけますか」

「それはできない」


担ぎ込んできた男が即座に答える。どうして、と思ってその男を見ると視線を逸らされた。何か事情があるらしい。王太子殿下は私のことを面白そうに見る。それはいたずらを考えているこどものようでも合った。


「見て治せなければその首を刎ねるぞ」

「どうぞご随意に」


そう言って頭を下げると、一緒にいた医者が私は部屋の外に出ておきます、と言って部屋の外に出ていく。それを担ぎ込んできた男が止めることはしなかった。


なんで医者はあっさり出すんだ、と思ったけれど医者は誠実に見て何もできないと言ったからだろうと推測できる。


「よかろう」

「ルリアート様」

「どうせ放っておいても死ぬ。ならこいつに見せてみよう」


王太子殿下が右手をゆっくりと動かして服の裾を捲り上げる。ちょうど右の腰骨の上から黒いあざが広がっていた。そのあざは上半身を覆い尽くさんばかりに広がっていて、鎖骨の下あたりで止まっている。


「これは」


私が驚いているのがわかったのか、王太子殿下が薄く笑った。病の自分を笑っているような笑みで、健康な方のする笑い方ではない。少し考えた後、とりあえず部位を触ってみることにする。


「触っても?」

「いいぞ」


そっと触れると皮膚が硬くなっているのがわかった。なんだこれ、とするする触る。不敬だと言われそうだったが、王太子殿下は何も言わなかった。これは病なのだろうか、と考えて王太子殿下の顔を見ると、相変わらず額には汗が滲んでいる。


「これは病でしょうか」

「呪いだ」


王太子殿下はなんでもないことのように言ってのけた。呪いなんて随分前に無くなったものだと思っていた。まだ人を呪える人間がいることに驚く。呪いは呪った側に返された時に倍になって返ってくる。その代償の大きさから廃れていった魔法の一種だ。腰のあざを強く押してみた。王太子殿下が顔を顰める。


「感覚はありますか?」

「ああ、ある」

「なるほど」


感覚があるなら当然痛みもあるだろう。さっき、治せなかったら首を刎ねると言われたことを思い出す。そういうことか。王太子殿下が呪われているという情報を国民に流すわけにはいかないだろう。だから秘匿してきたわけだ。呪いを治すのは初めてのことだから私の力が効くかどうかわからない。


「治せないのか」


王太子殿下が笑う。これはちょっとバカにしているな、と思ってムッとする。この世界にまだ呪いがあるなんて思ってもみなかったのだから仕方ない。とりあえずやるだけのことはやってみよう。


「力を当ててみてもいいですか?」

「力とは?」


王太子殿下が不思議そうな顔をする。自分の力のことを説明するのは危険だ。王太子殿下を担ぎ込んできた男をチラリと見る。この男は信用できる男だろうか。


「王太子殿下、殿下のそばにいるお方は信用できる方でしょうか?」


私の言葉に担ぎ込んできた男が気色ばむのがわかった。この男に暴力で制圧されればひとたまりもないだろう。私の力を知って、売り飛ばそうとされてもひとたまりもない。


「ああ、一番信用している」

「ルリアート様」


男が感動したように名前を呼ぶのを無視して、それなら王太子殿下の不利益になることはしないだろうと結論づける。

手のひらをかざして力を当てると、光が漏れる。呪いはするすると引いていってへそのあたりまでに治った。それ以上は下にいかない。出力を上げてみようと、マントの中で砂糖菓子を口に含む。ごくりと飲み込むと出力がすぐにあがった。眩い光が強くなって腰あたりまでするするとひいていく。それに伴って、王太子殿下の荒い息遣いも通常のものへと戻っていった。


「驚いたな」


本当に驚いた声を出す王太子殿下に、私は胸を撫で下ろした。効いてくれてよかった。首を刎ねられるかと思った。それでも当然効くことはわかっていましたよ、というふうな声を出す。そうじゃないと担ぎ込んできた男に、貴様!効くと知らなかったとは何事だ!とか言われかねない。


「そうですか」

「ここまで引いたことは一度もないぞ」

「どれくらいもつかわかりません。よければ記録されてはいかがですか。毎日どれくらい呪いが進むのか」


そう言うと王太子殿下はそうしよう、と素直に頷いてくれた。担ぎ込んできた男が、捕らえますかと王太子殿下にきく。なんで捕えようとするんだよ、治しただろ、と文句を言いたいのを飲み込むかわりに睨みつける。


「俺の呪いは毎日進行するもので、これまで引いたことはなかった。歴代の第一王子はみんなこの呪いで死んでいる」

「…」


聞いてしまえば逃がしてもらうのは無理だろうとわかる内容だった。王太子殿下は私のことを王宮に監禁でもするつもりだろう。そうじゃなければこの話はしない。国民に王族が呪われていると触れ回られては困る。


「放っておけば25までには確実に死ぬだろう。協力してくれ」

「お願いではないですよね」

「そうだな、命令に近いが無理強いをして力を使わないと言われても困る。何が欲しい」


王太子殿下にそう言われて下を向いていた顔を上げる。欲しいものなんてずっと前から決まっている。私はお金が欲しい。


「お金が欲しいです」

「ほう」

「治療代がいただけるなら王宮へでもどこへでも参ります」


そう言うと王太子殿下は笑った。バカにするような笑みではなかった。


「いいだろう。治療代は言い値で払う。王宮へ来てくれ」

「謹んでお受けいたします」


そう言って頭を下げると、その頭をマントの上から撫でられた。なんだ、と思って顔を上げると王太子殿下は安心したような顔をしていた。呪いに対する対抗策が一つ見つかっただけでもよかったのかもしれない。ふと、呪いのあざと痛みが毎日広がっていくのはどんな気持ちだろう、と考えて暗いところに落ちていきそうな感覚になったので慌てて考えるのをやめた。王太子殿下が服を直している間に、担ぎ込んできた男が私に近寄ってくる。


「さっき何か食べていただろう。食べたのはなんだ?」

「砂糖菓子です。これを食べると魔力の出力があがります」


そんなことが気になったのかとマントの下から手を出して砂糖菓子の包みをみせる、ライアス王国から持ってきたものだ。王宮に砂糖菓子はあるだろうかと考えて、それくらいはあるだろうと結論づける。もしもなければ作ればいい。私の言葉に王太子殿下が立ち上がりながら声をかけてくる。


「研究したのか」

「しました。なんでも食べましたよ」


そう言うと王太子殿下は色々と尋ねたいことがある、とだけ言った。その言葉に何も答えずに立ち上がる。洗いざらい話す気はない。


「ちなみに王太子殿下の治療費は」

「一回20サルーでどうだ」

「30がいいです」

「じゃあ25」

「27」

「わかった、それでいい」


5サルーが1ヶ月分の給与くらいだ。27サルーは嬉しい。にんまりしてしまうのを止められなかった。27サルーあればライアス王国に置いてきた家族をこの街に住ませる事もできるだろう。この国の住宅事情を調べなければ。弟とお母さんを早く呼び寄せて安心したい。


「行くぞ」


考え事をしていると、王太子殿下は口元に布を巻き付ける。砂埃が入らないようにだろう。部屋の外に出ると、騒がしかったであろう食堂はまたしんとした。治した親子を探すと、まだ同じテーブルにいた。そこに肉が追加で乗っているのを見てよかったと思う。大きくなれよ、と心の中でつぶやいて王太子殿下が食堂の主人にお礼を言っているのを隣で聞いていた。


「あの」


マントの下で下を向いていると、隣から声をかけられる。なんだろうと思ってそちらを見ると、治した少年が立っていた。さっきの警戒した気配はない。その代わりすごく小さな声だ。よく聞こうとかがむと、その少年も背伸びをしてくれた。


「神様、ありがとうございました」


そう言って少年はテーブルに戻っていく。神様じゃないんだけどな、と思いながらもよかった、ともう一度思う。


「いくぞ」


王太子殿下に声をかけられて、後ろを静かについて木の扉から外に出る。あたりはうっすらと暗くなっていて、日が暮れるまで後少し、というところだった。後ろについて歩いていると王太子殿下が立ち止まる。顔を上げると、立派な栗毛と芦毛の馬が二頭並んで立っていた。これが王太子殿下と担ぎ込んできた男の馬だろう。


「ここから王宮までは馬で二日くらいだろう。野宿はしたことがあるか」


その問いかけに頷く。野宿なんてこの力を得るまでは日常茶飯事だった。屋根がない場所で寝ることくらい平気だ。それに腕っぷしが強そうなのが一人いてくれるだけでもありがたい。


「そうか、じゃあ乗るぞ」


そう言って馬にまたがる王太子殿下にどうしよう、と思っていると騎乗から手を差し伸べられた。その手を取るとおもいきり引っ張って馬の背に乗せられる。後ろから王太子殿下が支えてくれるから怖くはない。


「ぐらぐらしますね」

「腹に力いれろ」


王太子殿下がそう言って馬の腹を蹴ると、馬が歩き出す。王宮は遠くに見えている。二日も馬を走らせれば着くだろう。船旅もあったからか、つかれてしまった。力を抜いて王太子殿下にもたれかかりたい。不敬罪で殺される未来が見えて、恐ろしくなった。馬が地面を蹴るたびにぐらりぐらりと体が揺れる。乗馬を習っておけばよかったと後悔した。喋っていると舌を噛みそうなので黙ったままだ。マントをかぶっておいてよかったと心底思った。これでは砂埃が口に入る。

王太子殿下は馬の扱いに慣れているようで、馬も素直に言うことを聞いている。国が変われば王太子殿下というものも変わるものだなと思った。





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