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呪われ王子と金次第聖女※第二章開始  作者: まる
第一章

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家族を迎えに


ベッドの下に置いておいたトランクを力を入れて引き摺り出す。ずりずりと重たい音を立てて現れたそれをいそいそと開くと、トランクの中には革の袋が詰まっている。それぞれにサルー金貨が入っていて、その袋の数は十を超していた。


それにニンマリして、先日王太子殿下から頂いた誕生祭のお礼をトランクの中にいれる。これだけあれば家族三人が暮らしていくことはどうにかなるだろう。

仕事を見つけるのが大変だと思っていたのに、これならもう家族をアルルに呼び寄せても大丈夫そうだ。


今までの記録から王太子殿下の呪いを抑えるためには最低でも七日に一度、癒しの力を体に当てないといけないことがわかっている。ライアスまで船で二日、港についてから二日、どう考えても迎えに行っている間に呪いが進行してしまう。


これはもう一緒に行ってもらうしかない。けれど、王太子殿下が七日も王宮から出てしまっていいのだろうか。それでも家族を呼び寄せるためには直訴するしかない。ものは試しだ。頼んでみよう、とトランクをまたベッドの下に押し込んで立ち上がる。

その時、コンコンと扉がノックされた。


「はい」

「フューイ、ちょっといいか」


入ってきたのは今まさに探しに行こうとしていた王太子殿下だった。ちょうどよかったと思っていると王太子殿下は手元の紙から視線を上げない。


「ライアス王国から誕生祭に際して、祝いの手紙が来たんだ。そういえばお前、ライアス王国に家族を置いてきていると言っていただろう。迎えにいくのは」

「一緒に行ってもらってもいいですか」


不敬だとはわかっていても言葉を被せると王太子殿下は少し驚いた顔をしてから微笑んだ。


「当たり前だ。お前の力がなくなったら俺は二十五までに死んでしまうからな」


その言葉に安堵して頷く。そうとなればすぐにでも出発したい。私のマントはニールが綺麗に洗ってくれて、今服掛けにかけてある。私の準備は万端だ。


「そうとなれば明日にでも出発しよう。憂は早く取り除くに限るからな」

「ありがとうございます」


私の心を読んだかのようにそういった王太子殿下に深くお辞儀をした。早く家族に会いたい。


「準備をしておけよ」


そう言われてもう一度頭を下げる。早くお母さんとテスに会いたい。






「ダメです。吐きます」

「またか」


王宮から出ていくらも経っていない。馬には慣れたから大丈夫だと思っていたのに気持ち悪すぎて胃の中のものを全部ぶちまけてしまいたい。王太子殿下に吐くことを伝えると、馬を止めてくれた。


城下町を抜けて森の中で止められた馬は、まだまだ元気そうに機嫌よく草を食み始める。私は木の幹にもたれかかって目を閉じた。さっきまで吐きそうだったのにもう吐き気はどこかにいってしまった。それにしても気持ち悪い。


さわさわと木の葉が擦れる音がする。気温もちょうど良くて、うっすらと目を開けると心配そうに覗き込んでくる王太子殿下の顔が近くにあった。


「近いですね」

「顔色が悪いな」


王太子殿下が差し出してくれる水を手に取って飲む。水が喉を流れていく感覚がひんやりしていて気持ちがいい。


「馬に慣れておかなくてはならないな」

「本当ですね」

「ルリアート様、この後の道ですが」


エルムが地図を広げて王太子殿下に見せる。王太子殿下は当然のようにエルムを連れてきた。それだけ信用ができる男なのだろう。

吐かなければ気分も良くならないだろう。いいや、と思って自分に魔力を当てるとたちまち気分は良くなった。


それを見ていた王太子殿下が馬の手綱を握る。


「行くか、港まではもうしばらくかかる」

「はい」


手を取ってもらって馬にまたがると、王太子殿下が馬の腹を蹴った。馬が歩き出すとまた胃のなかがかき混ぜられる感じがする。不敬だと思ったけれど王太子殿下に背中を預けると、王太子殿下の体が大袈裟に揺れた。


「すみません」

「いや、もたれておいていいぞ」


王宮でしばらく一緒に過ごして王太子殿下の優しさはわかっているつもりだ。やっぱりもたれていいと言ってもらえた。安心して体を預けると、かなり気分は楽になる。

王太子殿下は次の休憩になるまで何も言わなかった。



街で一泊した後、来た時と同じ道を通って港まで向かうつもりだと説明された。そうなれば通るとは思っていたけれど、その光景に言葉を失ってしまう。ブラクニの死骸は無くなっていたけれど、ブラクニが死んだところが真っ黒に焼けこげたようになっている。


「これ、なんですか」

「ブラクニが死んだ跡だ。魔物が死んだ後はこのように不浄が残るものなんだ」


その地面に驚いて王太子殿下に尋ねると、王太子殿下が説明をしてくれた。それにしても範囲が広い。


「この一体にはしばらくの間は草も木も生えない。魔物が一体現れると、被害は甚大だ。それは死んだ後も続く」


大きく迂回するように馬を走らせる王太子殿下にその光景を見ながら言葉を失ってしまう。触れないようにしていると言うことは、人や動物にも触れれば被害があるのかもしれない。


「穀倉地帯に現れたら」

「どうにか誘導して殺そうとするんだが、うまくいかない。そもそも誘導できるほど余裕がないことも多い」

「なるほど」


穀倉地帯に現れれば被害は森の中よりも大きいだろう。それを想像してゾッとしてしまう。アルル王国はこんな魔物と戦いながら国を築いてきたのかと思うとその努力に感心さえしてしまった。


「魔物が少なくなっているとはいえ、完全に消え去るまでは安心できないな」


静かにつぶやかれた言葉は切実さを持っていた。


しばらく馬を走らせて野宿で一泊した。

野宿をしてから船に乗ると、船酔いはしなかった。王太子殿下とエルム様も船酔いはしない性質らしい。船室は王太子殿下が乗っていることもあって特等を取ってもらえた。


特等なんて乗ったことがない。アルルに渡る時も三等船室でぎゅうぎゅう詰になっていた。


特等船室は広くて、しかも私は一応女性だからと特等船室を丸々一つ使わせてもらうことになった。二つ寝台が置かれているのに一つしか使わないのは贅沢だ。


ばたりと音を立てて寝台に倒れ込む。船は大きいこともあってかさほど揺れない。何があるかわからないからちゃんと睡眠はとっておいたほうがいい。そう思ってから、先に食事を取らなければと起き上がる。先ほど、王太子殿下に買ってもらったプミーを紙から出して頬張る。やっぱり硬い。王宮で出ていたものやユルレム様のお屋敷で出ていたものが規格外だとはわかっていても、柔らかいプミーが食べたいと思ってしまう。


飲み物はさっき物売りが売りにきていたスープを買った。それもあんまりおいしくはない。船の中の食事なんてこんなものか、と諦めながらマントを脱いで寝台に潜り込む。眠気はすぐにやってきた。


私はそれに逆らわずにすぐに眠りに落ちてしまった。

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