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呪われ王子と金次第聖女※第二章開始  作者: まる
第一章

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血の滲むような

肩までしかない髪の毛は結い上げずに、飾りをつけるだけの方がいいだろう、と言うことで丁寧に梳かされたあと、飾りをつけて髪の毛の両端を後ろで結ってもらった。


ニールがしてくれたその髪型は自分で見ても可愛らしいと思えるものだった。久しぶりに着るドレスの重さにうんざりしながらも腹に力を入れて引っ込める。


ルリアート様がお迎えに来てくださるので、ゆっくりお待ちください、とニールに言われて椅子に座って待っていると、程なくしてコンコン、と部屋の扉がノックされた。


そのまま待っていると、扉が少しだけ開けられる。入ってきたのは正装の王太子殿下だった。斜めにかけられたサッシュは青で、金色に縁取られている。綺麗なサッシュだな、と思って見ていると王太子殿下が笑うのがわかった。


「綺麗だな」

「ありがとうございます」


お辞儀をしようとして髪の毛が崩れそうだったからそのままにしておいた。さすが王族だ。こういう時の褒め言葉は用意してあるんだろう。


手を差し出されて、それをとって立ち上がる。そういえば平民の時は男性に手を差し出されることもなく、ライアスでは慣れるまで苦労をした。男性が手を差し出す前に立ち上がってしまって、何度か苦言を呈された。


「誕生祭にはもちろんギリウスも来る」

「そうですか」

「そばを離れないようにするが、お前も離れないでくれ」

「ありがとうございます」


腕に手を絡めて廊下を歩き出す。こういう時は背筋を伸ばしてなければいけないし、口元は笑みを常に湛えてなければいけないのだとライアスでは教えられた。懐かしい日々だ。絶対戻りたくないけど。


大広間の扉の前はしんとしていた。中の音楽が漏れきこえてくるくらいで、誰も喋っていない。護衛の騎士は真面目な顔つきで真正面を睨んでいて、貴族たちはもう中に入っているのだろう。


首飾りにそっと手を当てるとひんやりとしていた。そのうち扉が開かれて、中の眩しさに目がやられそうになる。目が慣れてきた頃には脇に並んで立っている貴族たちの顔がはっきりと見えた。


王太子殿下に歩調を揃えてゆっくりと中央の絨毯を踏み締める。歩を進めていくと、王陛下の近くにギリウス王子がいるのも見えた。どこに向かって微笑んだかさえ噂の的になる貴族社会。とりあえず視線を不敬ではないくらいに伏せる。


「ルリアート、来たか」

「この度は私のために誕生祭を開いていただき、ありがとうございます」

「何を言う。お前の誕生祭は我が国の王太子の誕生祭。これほどめでたいことはない。さあ、踊ろう」


王陛下が二度手を打つと、音楽が再開される。王太子殿下が私の方を見て、それからふと笑った。可愛らしい顔をするのだな、と驚いていると手を取られる。そのまま中央に歩いていく。ライアスでも王太子とその婚約者のダンスから舞踏会は始まった。

これも一緒だろうと、足に力をいれる。


「下手だったらすまない」


踊り始める直前にそういった王太子殿下に微笑んで見せる。王太子殿下からすれば四年ぶりのダンスだ。足を踏まれても何もないふりをしよう。そう決めて踊り出したのに、王太子殿下のダンスは文句のつけようがない滑り出しだった。


「お上手ですね」

「…」


素直に思ったからそう言ったのに、王太子殿下はそれには何も答えなかった。くるくると踊っているうちに王陛下と王妃陛下がダンスに加わる。


それから少し間をおいて、ギリウス王子とその相手の女性がダンスに加わった。くるくると回りながら周りを見てみると、みんな楽しそうなのに、ギリウス王子だけは顔が顰めっ面だ。

ダンスに嫌な思い出でもあるのだろうか。


そう思いながら背中をそらせる。優しく背中に当てられている手は私が転びそうになったとしても支えてくれるだろう。


「上手だな」

「練習しましたから」

「ライアスでか」

「血の滲むような努力でした。先生も大変だったと思います」


先生は本当に大変だっただろう。私のダンスの教師になってくれたのは侯爵夫人で、私のお披露目までにどうにか様になるようにしなければならないという重責があった。その重責に押されるように、厳しい指導だったけれどおかげさまでダンスは誰が見てもそれなりに見えるようになった。


「それは大変だったな」


そう言って王太子殿下が私のことを腰から持ち上げる。ぐらりとなりそうにもない力の強さに驚いていると、持ち上げられている間に隣にいるギリウス王子とばっちりと目があった。ギリウス王子も相手の女性を持ち上げていて、そういう振り付けなんだと理解する。


視線はあちらの方からふい、とそらされた。足が地面についたことに安心していると、王太子殿下が笑った。


「驚きました」

「そうだろうな」


さっきまでは可愛らしい顔をしていたのに、もう揶揄うような顔に戻っている。誕生祭だし、お金ももらっているし、楽しそうならまあいいかと王太子殿下に礼をして、一緒にダンスの輪から下がる。そうするとすぐに王太子殿下は貴族たちに囲まれてしまった。


それから少し距離をとって、給仕が持っていた飲み物を手に取る。毒が入っていたとしても効かないのでそれを一気にあおると隣に誰かが来たのがわかった。


「似合いもしないのによく着飾ったものだな」

「お互い様ですね」


隣に立ったのは連れの女性をつれていないギリウス王子だった。失礼な物言いに微笑んでそう返すと、ギリウス王子の眦が吊り上がる。怒った怒った。ああ、怖い。

それにしてもダンスが終わればすぐに周りを取り囲まれる王太子殿下とは違ってギリウス王子の周りには誰もいない。


いつもの家臣たちも連れていないのかとギリウス王子の後ろを見ると、ギリウス王子はそれに気付いたのか嫌そうな顔をした。


「家臣は連れていない」

「どうしてですか」

「お前に関係ないだろう」


そう言ってギリウス王子が給仕から乱暴に飲み物を受け取る。サッシュの色が黒と金なことに気づいて、兄弟でもサッシュの色は違うんだなと思った。


ギリウス王子が飲み物を一気に飲み干して、私のことを睨みつける。その顔に微笑んで差し上げると余計に怒ったような顔になった。


「せいぜい誕生祭を楽しめ」


ふん、と鼻を鳴らして踵を返したギリウス王子の言葉に、あれはもしかして餞なのだろうかと思ってしまう。ぼんやりとギリウス王子が行った方向を見ていると、肩に手が添えられる。


「離れるなと言っただろう」

「すみません、すごい貴族の数だったので」


振り向くと王太子殿下が呆れた顔で立っていた。それにしても驚いた。すぐに死んでしまう第一王子と自分で言っていたのにも関わらず、王太子殿下を慕う貴族たちは多いらしい。ギリウス王子とはえらい違いだ。


「貴族から慕われているのですね」

「魔物退治をしているうちに自然とな」

「貴族のご令嬢には嫌がられるのですか」

「嫌だろう。二十代で死ぬだろう人間と婚約させられるのは。彼女たちも必死なんだ」

「確かに」


貴族のご令嬢からすれば結婚は自分の人生を決めてしまう問題だ。二十代で夫を失ってしまえばどこかの貴族の後妻に入るしかないだろう。それか一生実家の世話になるか。

どちらも貴族のご令嬢からすれば避けたい。


「これからも舞踏会には一緒に出てくれ」


そう言われて王太子殿下の方を見ると、私の方を見てはいなかった。その視線の先には王陛下と王太子殿下の母上がいて、二人が仲睦まじそうに話している。それを見てから王太子殿下を見る。


「お金をもらえるならば、喜んで」


王太子殿下が私の言葉にどう思ったのか、私の頭を軽く撫でた。それを嫌がったりせずにさせたいようにさせておく。


王太子殿下が婚姻のことをどう思っているかは知らない。ただ、歴代の第一王子も結婚はしなかったのだろうなと検討はつく。


それを少しだけ寂しいと思ってしまった。

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