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呪われ王子と金次第聖女※第一章完結  作者: まる
第一章

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子煩悩

玉座の間に通されると、王陛下は玉座に座っていた。人払いがされているのか王陛下の他には誰もおらず、警備とか大丈夫なのだろうかと不安に思ってしまう。


初めて見る王陛下はかなり大きかった。本当に王太子殿下とギリウス王子の父親なのかと思うほど、筋骨隆々の逞しさで背も高い、私がその姿に圧倒されていると、王陛下は玉座に座ったまま、ふむ、と顎を押さえた。


「癒しの力を持つというのは真か」

「真でございます」

「それでルリアートの呪いを抑えられるのか」


王陛下の声はいきなり小さくなった。そう言って私のことを真っ直ぐに見つめてくる。どう答えたらいいのかわからず、王太子殿下を見ると、王太子殿下は王陛下のことを見つめたまま、その通りです、とよく通る声で答えた。


「そうか、ルリアートの呪いを解くことは我が国の悲願だ。協力を惜しまないでくれ」

「承知いたしました」


そう言って頭を下げると、王陛下が頷いたのがわかった。玉座の間に敷き詰められている絨毯は赤いのだな、と今更ながらに思った。


「して、ルリアート、女性の連れ合いができたのなら、誕生祭を断ることもあるまい」

「いえ、彼女はそういうのでは」

「すぐに準備させよう。ルリアート、お前も準備をしろ」


そう言うと王陛下は話は終わったとばかりに玉座から降りて間を出て行ってしまう。誕生祭ってなんだ、と王太子殿下を見ると、王太子殿下も私の方を見る。


「誕生祭ってなんですか」

「父上は子供を大切にしている」


誕生祭の答えになっていない答えに、とりあえず頷くと、王太子殿下は片手を顔に当てて大きな息を吐いた。


「毎年、王子それぞれの誕生祭を開いてるんだ。小さなものだけどな。ただ、16になってからは女性と同席することを求められるだろう。俺には婚約者なんていないし、第一王子を嫌がる貴族の女性は多い。俺も無理に誰かを誘ってまで誕生祭をしたいと思ってなかった」


その言葉にうんうんと頷いておいた。


「父上はそれを気にしていてな。誕生祭をしようとずっと俺に言っていたんだ。それで俺がお前を連れてきたから」


そこまで言って王太子殿下は口を閉じた。私はなるほど、と頷く。


「王太子殿下、失礼ながら、私にもダンスの経験はあります」


思い出されるのはライアス王国の王宮で過ごした日々だ。単純に言って礼儀作法の勉強は地獄のようだった。背筋を伸ばすことから始めたけれど、背筋が伸びていないと鞭で背中を叩かれた。


諸外国の歴史を学びながら、礼儀作法の勉強をして、貴族たちの要望に応える。それがどれだけ大変だったか。思い出すと涙が出る。

その中でもダンスの練習が一番気楽だった。とりあえず音楽に乗って足を動かせばよかったからだ。それを思い出して王太子殿下にそういうと、王太子殿下が笑った。


「誕生祭に出てくれるか」

「金額次第では」


そう言って微笑むと王太子殿下が、言い値でいいぞ、と言ってくれた。ダンスのお供をしてお金がもらえるのならこんなにいい話はない。





誕生祭が行われることになったからか、にわかに王宮内が騒がしくなったような気がした。東の棟はそうでもないけれど、中央にはひっきりなしに何かが運び込まれている。


すごい数だな、小さいものだって言ってたのに、と思って窓から外を見ていると、コンコン、と扉がノックされる。


入ってきたのはドレスを抱えたニールと、その後ろに王太子殿下の母上がいた。急な来訪に慌ててテーブルの上に散乱させていた書物を片付けて椅子の上を軽く払う。


「急に来てごめんなさいね」


そう言って王太子殿下の母上は、ニールにドレスをベッドの上に広げるように言った。ニールが持ってきたドレスはどれも煌びやかなもので、刺繍が緻密に施されている。私が目を白黒させていると、王太子殿下の母上が私の両手をとった。


「ルリアートと誕生祭に出てくれるんでしょう。ルリアートから聞いたわ」

「はい」

「本当にありがとう。ルリアートの誕生祭ができるなんて」


感激したようにそう言ってから手を離した王太子殿下の母上はベッドの横に移動してベッドの上のドレスをそっと撫でた。


「これはね、ルリアートにいい人ができたら着てもらおうと思っていたドレスなの。ニールが丈を詰めてくれるから、丈は心配しないでちょうだい。それで、どれか好みのものはある?」


そう言われてベッドの上のドレスを見るけれど、どれがいいのかはわからない。王太子殿下の衣装との兼ね合いもあるだろうし、選んでもらった方がいいだろう。


「どれでも。王太子殿下の衣装と合うものを」

「まあ、本当?」


そう答えると、王太子殿下の母上が嬉しそうな表情になった。そして、ベッドの上に広げられたドレスの中から青いドレスを選んだ。


「うふふ、喜ぶかしら」


青いドレスは裾に金の刺繍が入れられていた。なんの花だったっけ、と考えているとニールが私を見てにっこりと微笑む。


「それではお着替えを」


そのあと、死ぬほど腹を締め付けられたのは言うまでもなかった。




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