峠へ
シーン:2024年8月 高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス最上階 松川永史の部屋
(窓一面に広がる夜景。遠くに名古屋の街の灯りが瞬き、空は月明かりに照らされている。部屋は静寂に包まれ、高級感あるインテリアが整然と並ぶ。)
(松川永史がソファに腰を下ろし、クリスタルグラスに注がれた台湾産「文山包種茶」を手にしている。極上の手摘み茶葉を使用したノンアルコールの飲み物だ。)
(松川はゆっくりと茶を口に含み、深い息をつく。しかしその表情は落ち着かず、どこか遠くを見つめている。)
松川永史 (心の声)
「あおいちゃん……会いたい。だけど、今は……。」
(グラスをテーブルに置き、窓の外に目を向ける。遠くに広がる夜景をじっと見つめるが、その瞳には迷いと葛藤が浮かんでいる。)
松川永史 (心の声)
「……女子高生に心を乱される50代の男なんて……滑稽だろうな。」
(松川は立ち上がり、ゆっくりと部屋を歩く。時計を見ると、時刻は午後10時を過ぎている。彼はふと足を止め、深いため息をつく。)
松川永史 (心の声)
「……こうして思い悩むくらいなら、いっそ走りに行こう。」
(決意を固めたようにスーツの上着を脱ぎ、Tシャツに着替える。カギを手に取り部屋を出る。)
シーン:地下駐車場
(松川が地下駐車場に降り、整然と並ぶ高級車の中から一台、古めかしいがピカピカに磨かれたスーパーカブに歩み寄る。その横には「ニュー・アンドロメダ7世号」と書かれた小さなステッカーが貼られている。)
(松川がスーパーカブにまたがり、ヘルメットをかぶる。キーを差し込み、エンジンをかけると、独特の軽快な音が駐車場に響く。)
松川永史 (心の声)
「若いころ、嫌なことがあると、こうやって峠に向かったものだ。」
(アクセルをひねり、ランプに照らされた出口へ向かう。エンジン音が駐車場の静寂を切り裂き、スーパーカブが夜の道へと走り出す。)
シーン:内津峠 夜の山道
(夜の峠道。街灯の少ない山道をスーパーカブが軽やかに駆け抜ける。ヘッドライトが暗闇を切り裂き、左右に連なるコーナーをリズミカルに攻める永史。)
(風が耳元を通り抜け、涼しげな夜気が松川永史の体を包み込む。)
松川永史 (心の声)
「……久しぶりだな。この感覚……無心で走ることで、全てを忘れられる。」
(永史の表情が次第に穏やかになり、肩の力が抜けていく。)
松川永史 (心の声)
「……結局、俺は何をしてるんだろうな。」
(峠の頂上に近づくと、展望台から名古屋の夜景が見渡せるポイントにスーパーカブを停める。ヘルメットを外し、少し汗ばんだ額に夜風を浴びる。)
(名古屋の光の海を見下ろしながら、松川永史は深く息を吸い込む。そして一瞬だけ、柔らかく微笑む。)
松川永史 (心の声)
「……風に当たるのも、悪くない。」
(遠くで虫の音が響き渡る中、松川はその場でしばらくじっと立ち尽くす。)
シーン終了




