行こう
2024年6月 高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 最上階 松川永史の部屋
(広々としたリビングルーム。夕方の柔らかい光が窓から差し込み、部屋を暖かい色合いで包み込む。窓越しには名古屋駅のツインタワーがくっきりと見える。あおいはダイニングテーブルに座り、松川永史が淹れたアイスミントティーを手にしている。)
(松川はあおいの向かい側に座りながら、彼女を見つめる。テーブル越しに見るあおいの表情、ふとした仕草、目の前にいるという事実そのものが、彼の心に静かな安らぎと温かさをもたらしていた。)
あおい
「こんなおしゃれな飲み物、飲んだことないなぁ…」
(あおいが笑顔を浮かべながらグラスを傾ける。松川の目には、その何気ない仕草さえ特別に映る。彼女がいるだけで、部屋全体の空気が柔らかく華やいでいる気がした。)
(彼女がここにいる。それだけで、自分の住む空間が、ただの高層マンションの一室ではなく、何か特別な場所に変わっていくように思える。)
松川永史
「模試の結果、すごいじゃないか。全国70位って、東陵の誇りだね。」
(あおいの顔に一瞬だけ驚きと喜びの色が浮かぶ。しかし、それはすぐに影を潜め、彼女は視線を落とす。)
あおい
「…そうなんですけどね…」
(その言葉の曖昧さに、松川は眉をほんの少しだけ動かす。あおいの手元に落ちた視線、普段は快活な彼女の表情に滲む迷い。その様子に彼は胸の奥に小さな違和感を覚える。)
松川永史(心の声)
「どうしたんだ?そんなに素晴らしい結果なのに、浮かない顔をしている。」
(あおいの沈黙が長く続く。彼女の小さな指先がグラスの縁をなぞるように動くのを見つめながら、彼の思考はさらに深く潜っていく。)
松川永史(心の声)
「もしや、東京へ一人で行くことに不安を感じているのか…。?」
(思考がその一点に行き着く。松川はふと彼女の顔をじっと見つめる。その沈黙を破るように、彼は口を開いた。)
松川永史
「今度の土曜日、空いてるかい?」
(突然の問いに、あおいが顔を上げる。戸惑ったような表情の中に、彼女の揺れる心が垣間見える。)
あおい
「えっ?…大丈夫ですけど…何か?」
松川永史
「行こう。」
あおい
「行こうって、どこへですか?」
松川永史
「東京だよ。」
(その一言が空気を変える。あおいの目が驚きで見開かれる。)
松川永史(心の声)
「もし彼女がそう感じているなら、俺にできることは…」
(彼はあおいの目を見据え、穏やかな微笑みを浮かべた。それは彼女を安心させるためであり、そして何より、自分自身に向けた小さな決意の表れでもあった。)
(シーン終了)




