ためらい
2024年5月 ザ・タワー・オブ・エクセレンシア本郷文京 最上階 松川永史の部屋
(ダイニングテーブルの上に、寿司職人が握った寿司が並ぶ。松川永史は箸を軽く動かし、一つ一つを堪能している。寿司職人は松川の表情を伺いながら、話しかける。)
寿司職人
「へえ、じゃあ前おっしゃってた女性の方とまた出会えたんですね。そりゃあもう全力で行くしかないですね。」
松川永史
(少し笑みを浮かべながら、箸を止める。)
「ああ、でもな…」
寿司職人
「どうしたんですか、松川さんらしくない。」
松川永史
「その女性は限りなく美しくて、聡明で、そして何より気高い。そばにいるだけで心の底から幸福感が溢れ出て満たされる。彼女の言葉、表情、仕草、ひとつひとつに心が揺さぶられる。こんな気持ちははじめてなんだ。」
(寿司職人は松川の真剣な表情を見て、少し驚いたような顔をする。)
寿司職人
「松川さん…。」
松川永史
「もし望めば、彼女のすべてを手に入れることができるのかもしれない。」
(松川永史が箸を置き、静かに続ける。)
松川永史
「でも、そうしてはいけない気がするんだ。彼女のすべてがほしくてほしくてたまらないのに、一方で永遠に手の届かない存在でいてほしい、そんな気持ちも心のどこかにあるんだ。」
(部屋に静寂が訪れる。しばらくして寿司職人が手を止め、真剣な声で口を開く。)
寿司職人
「松川さん、前にも言ったでしょう、これは運命だって。この先その女性とどうなるかはわからないけど、もう運命は動き出したんだから。松川さんは身をまかせて、どうなっても、それを受け入れればいいんです。」
松川永史
(苦笑しながら箸を手に取り直す。)
「ありがとう、50過ぎたおっさんの恋愛話に付き合ってくれて。」
(寿司職人は微笑みながらうなずき、懐石のコースを出し終える。準備を片付けながら、辞去の準備を始める。)
寿司職人
「今日もありがとうございました。」
松川永史
(立ち上がり、微笑んで。)
「こちらこそどうもありがとう。今日も素晴らしく美味しかったよ。」
(少し間を置き、続ける。)
松川永史
「今日もとてもいい話を聞かせてもらうことができた。礼を言うよ。」
(寿司職人は照れたように笑う。)
松川永史
(いたずらっぽい笑みを浮かべて。)
「お礼に、いいことを教えてあげよう。今度のダービー、三連単 5-15-13 だ。もし1万円分買ったら…」
(寿司職人が松川の顔を見つめ、息をのむ。)
松川永史
「奥さんにプラダかヴィトンのバッグを買って、子供にはiPhone 16 Proを買って、あんたはヴァシュロン・コンスタンタンかオーデマ・ピゲを買っても、まだ残るくらいの金になるかもよ。」
寿司職人
(驚いたように口を開く。)
「ヴァシュロン・コンスタンタンって…、最低でも300万はするあの…。」
松川永史
(ウインクしながら、いたずらっぽく笑う。)
「信じるか信じないかは自由だ。」
(寿司職人は感嘆の表情を浮かべ、軽く笑いながら松川の部屋を後にする。)




