市山礼
高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 入口
(松川があおいに微笑んで一礼し、立ち去ろうとする。)
松川永史
「そうか、では私はこれで。」
(松川は一度軽く頭を下げ、足を動かし始める。しかし、ふと後ろから低い声で呼び止められ、足を止める。)
市山礼
「俺が用があるのは、あなたです。松川永史さん…いや、松川先輩。」
(松川はその声に反応し、静かに振り返る。市山の目線をしっかりと受け止め、無言で彼を見つめる。あおいも驚き、二人の視線を交互に行き来している。)
(松川の表情に一瞬の変化が現れる。相手が何を言おうとしているのか、予想がつかず困惑する。)
市山礼
「元・春日井東陵高校野球部の伝説のエース、公立高校の星と呼ばれた…松川永史。あなたのことですよね?」
(松川の目が一瞬だけ細くなるが、それもすぐに消えていく。口元には冷ややかな微笑みを浮かべる。)
(あおいはその話を聞いて驚きの表情を浮かべ、目を見開く。)
市山礼
「あなたのこと、調べさせてもらいました。」
(市山が続ける。)
市山礼
「学校の視聴覚室を掃除した時から、あおいさんの様子が変だった。妙に興奮した感じで、資料室に入って調べ物をしたり…だから、気になって、視聴覚室のプロジェクターにあなたの名前を見つけた時、あおいさんはきっとこの人のことを調べてるんだって、そう思ったんです。」
(松川はゆっくりと深呼吸し、冷静さを保とうと微笑みながら答える。)
松川永史
「…最後の夏の前に辞めたから、私はエースではないよ。」
(松川はその一言を淡々と述べるが、心の中では過去を振り返ることなく、それをきっぱりと否定する。)
市山礼
「なぜ辞めたんですか?練習試合で甲子園優勝チームを完封するほどのピッチャーだったあなたが。」
(松川はその問いに一瞬、目線を外す。自分でも答えを出すことができないその理由を思い浮かべながら、再び冷静さを取り戻す。)
(その時、あおいがぼそっと口にする。)
あおい
「甲子園優勝チームを完封…?」
(その言葉を聞き、松川の視線が少しだけ動く。)
松川永史
「君には関係のないことだよ。」
(その冷静な答えに市山は反論し、声を荒げる。)
市山礼
「関係あります!」
(市山は拳を握りしめ、松川に向かって一歩前に出る。松川は一歩も引かず、静かに彼を見つめ続ける。)
市山礼
「俺は東陵野球部の野球部キャプテンとして、甲子園を目指して毎日がんばってる。世代ナンバーワンのショートとしてプロからも注目されてる。でも、そんなことはどうでもいいんだ。」
(松川は少し目を細めるが、その表情には動揺は見せず、じっと彼を見守る。)
市山礼
「俺がほしいのは、あおいさんだけだ。甲子園を目指してるのも、プロになりたいのも、あおいさんに振り向いてほしいからだ。」
(その言葉に、松川は驚きの表情を一瞬見せるが、すぐに冷静さを取り戻す。)
(あおいはその言葉に戸惑い、市山を見つめる。松川はその様子をじっと見守る。)
市山礼
「なのに、あおいさんは…いまこうしてあなたと二人で親しげにしている。よりによって、最後の夏を前に野球から逃げたあなたと…。俺には納得いかない!」
(その言葉に、松川は一瞬だけ動揺し、目を見開く。心の中で、あおいが自分のことしか見ていないなんて…まさか、そんなことはないだろう、と思う。だが、目の前の市山の真剣なまなざしに、胸がわずかに乱れる。)
(松川は微かに息を呑み、静かにその場に立ち尽くす。)
(あおいはその沈黙を感じ、思わず息を呑む。)
あおい
「…市山くん…。」
(松川はその言葉に反応せず、視線を市山に向け、彼の覚悟を試すようにじっと見つめる。)
松川永史
「望みは、何だい?」
(市山はその目を見つめ返し、力強く答える。)
市山礼
「俺と勝負してください。」
(その言葉に松川は一瞬目を細め、力強い眼差しを向けながらも、心の中で複雑な思いを抱える。あおいが自分を見ているのだろうか…それとも、彼女はただの偶然だろうか…?)
(松川はその視線を凝視し、動かない。しばらくの静寂が二人の間に広がり、あおいもその静けさを感じながら、次に何が起こるのかを見守るしかない。)




