高蔵寺の夜
シーン:2024年4月 高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 最上階・松川永史の部屋
(あおいと松川永史が紅茶を飲みながら談笑している。あおいは、ここ1年のことを少しずつ話し出す。)
あおい
「この1年、いろんなことがあって…。がんばって見た目を気にするようになって、周りの子から“きれいになったね”って言ってもらえるようにもなって…。あと、勉強もがんばったんです。今では学年でトップになるくらいに。」
(松川は箸を置き、真剣に彼女の話に耳を傾ける。)
松川永史
「そうか。あおいちゃんがそんなに頑張ってきたんだな。」
(その言葉の裏にある、彼女が抱える努力や葛藤に思いを巡らせる。そして、胸の中でそっと思う。)
松川永史(心の声)
「こんなに頑張っている姿を、誰が見ていたんだろう。いや、誰かが見ていなくても、彼女は自分のためにやり続けたんだな…本当にすごい。」
(しかし、あおいの視線の奥に感じる何か…それが自分に向けられたものだとは、まだ気付けないでいる。)
松川の部屋・リビング
(外はすでに暗くなり、雨もすっかり上がっている。あおいはお礼を言い、立ち上がる。)
あおい
「今日は本当にごちそうさまでした。楽しかったです。」
松川永史
「そう言ってもらえたなら良かったよ。送って行こうか?」
(言いながら、彼女を引き止めたい気持ちを抑えるように口をつぐむ。)
あおい
「いえ、大丈夫です。自分で帰ります。」
(松川は寂しい気持ちを隠そうと、無理に明るく微笑み、彼女と共にマンションのエントランスまで向かう。)
高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 入口
(エントランス前で、二人は立ち止まる。)
あおい
「あの…また、来てもいいですか?」
(その一言に松川は驚き、少し間を置いてから柔らかく微笑む。)
松川永史
「もちろん。男ひとりの寂しい部屋でよければ、いつでも歓迎するよ。」
(心の中では、自分の年齢と彼女との距離をわきまえようとする理性が叫んでいる。)
松川永史(心の声)
「彼女が来たいと言ってくれるなら、断る理由なんてない。でも、勘違いするなよ、松川…。お前はただの50過ぎの男だ。」
(あおいの微笑みを見ながら、彼女の純粋さが自分には眩しすぎると感じている。)
あおい
「ありがとうございます。今日は、本当にありがとうございました。」
(あおいが軽く頭を下げたその瞬間、背後から声が響く。)
市山礼
「あれ、あおいさんじゃないか?」
(松川はその声に振り返り、そこに立つ青年を目にする。その視線の先には、明らかに自分にはない若さと勢いを持つ男が立っていた。)
松川永史(心の声)
「誰だ、この青年は…。そして、どうしてこんなにも胸がざわつくんだ。」
(松川は冷静を装いながらも、内心の戸惑いを隠せないまま、青年とあおいの間に立ち尽くしていた。)




